IPv4アドレス枯渇の中で最後のフロンティア「クラスEの240.0.0.0/4」を再利用することはできるのか?
枯渇しているIPv4アドレスについて、一部の状況では標準化の宙ぶらりん状態にある「クラスE空間」を活用できるとネットワークエンジニアのベン・コックス氏がブログに投稿しました。
Reclaiming IPv4 Class E's 240.0.0.0/4
https://blog.benjojo.co.uk/post/class-e-addresses-in-the-real-world
IPアドレスはインターネットで通信を行う際に相手を特定するのに使用されています。IPv4のアドレス空間は32ビットであり、全部で約43億個のIPアドレスしか振り分けることができないため、インターネット人口の増加とともに新規に振り分けるIPアドレスが枯渇していく問題が発生しています。
新たなIPv4アドレスの供給が枯渇して以降IPv4アドレスの価格は上昇しており、AWSなどのクラウドサービスでは以前は無料だったIPv4アドレスの使用に料金が発生するなどの価格改定が行われました。
AWSがパブリックIPv4アドレスの利用を有料化すると発表、同時に「パブリック IPv4 インサイト」の無償提供も開始される - GIGAZINE
利用可能なIPv4アドレスの数が減少していくなか、コックス氏はRFC1112で定義されているIPv4の空間のうち「クラスE」を再利用できるのではないかと提案しています。
クラスE空間は240.0.0.0から255.255.255.255までで、2億6843万5456個のIPアドレスが含まれています。1989年にクラス分類が行われた際に「将来のための予約」として割り当てられた後、時代の遺物として無視されてきました。
ただし、現在すでに存在している多数のデバイスと互換性の問題が発生するため単純にクラスE空間を新たに割り当てることはできません。「新たなデバイスのみ対応できる新たなIPアドレス」としてクラスE空間を使用することは可能ですが、「新たなデバイスのみ対応できる新たなIPアドレス」を欲しがる人は少ないうえ、そうした一部のユーザーのみが使用できるIPアドレスは既にIPv6として存在しています。
一方、ローカルネットワークの構築においてはそのネットワーク内の機器だけが対応していればクラスEのIPアドレスをルーティングに利用可能で、AWSや一部の企業で実際に使用が確認されているとのこと。
コックス氏の調査によると、クラスEの処理に対応しているデバイスは下記の通り。
・2008年以降のLinuxディストリビューション
・2009年以降のAndroid
・2009年以降のmacOS / OSX
・2022年10月以降のOpenBSD
一方、動作しないことが判明しているデバイスは下記の通りとなっています。
・Windows
・FreeBSD
また、コックス氏は仮想ネットワークベンダーテストラボを構築し、実際のネットワーク機器の動作を確認しました。
結果は以下の通り。Arista EOS 4.29やJunOS 22では設定で有効にすることでクラスEアドレスを使用でき、RouterOS 7.7やCisco IOS XRは設定不要でクラスEアドレスを使用できます。Cisco IOS XE 16.12やNokia SR-OS 21.7、Huawei VRP、Extreme EXOS 32ではクラスEアドレスを使用できませんでした。
ベンダーStatic Link IPRouted OSPF WorksArista EOS 4.29Yes (Extra Config)UnknownJunOS 22Yes (Extra Config)YesRouterOS 7.7YesYesCisco IOS XRYesYesCisco IOS XE 16.12NoNoNokia SR-OS 21.7NoNoHuawei VRPNoNoExtreme EXOS 32NoNo
また、コックス氏はネットワークの経路上にクラスEアドレス対応ルーターと非対応ルーターが混在する状況をテストしました。
当然のことながら、クラスEアドレス非対応ルーターの背後にあるデバイスにクラスEアドレスを割り振ってデータを送信するとデータは失われてしまいます。そのため、クラスEアドレスをルーティングに使用する場合は当該ローカルネットワーク内の全ての機器をクラスEアドレス対応のものにするべきとのこと。
コックス氏は投稿を振り返り、「基本的にクラスEアドレスを使用する必要はないものの、どうしてもIPv6に移行できないワークロードがあり、ローカルネットワークの全体を制御できてデバイスを全てクラスE対応のものにできる場合にはクラスEアドレスが役に立つ」とまとめました。