横浜市営交通局の公式サイトより

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身近な交通機関として、通学や通勤など人々の生活を支える市営バス。そんななかXでは、横浜市交通局によるバス乗務員への“周知”に議論が起こっている。

きっかけは横浜市会議員の太田正孝氏(78)が5月30日に、《ついにここまで来たか!バス乗務員不足の為、本来の夏期休暇をお買い上げとなりました》とXに投稿したこと。あわせて、「バス乗務員の夏季休暇について(通知)」と題する文書のスクリーンショットが添えられていた。

この文書の発行日付は5月30日となっており、深刻な乗務員不足の状況を踏まえてこう説明がなされていた。

《夏季休暇取得期間にはさらに厳しい状況になることが想定されるため、令和6年度に限り、下記要件に該当する職員について、付与された夏季休暇全てを取得しない者については相応の額を支給することで、人員不足による勤務組み合わせの困難さの緩和を図ります》

記載された支給額は、《5日で50,000円 ※支給は、5日間全てを取得しない場合に限ります》とのこと。また支給日は、《12月の期末勤勉手当と合わせて支給(給与明細には「業績手当」として載ります。)》と記されていた。対象者や対象外となる乗務員についても決められていたが、あくまで希望者を募るという内容だった。

太田氏の投稿は瞬く間に拡散され、《1日1万円って安すぎですよねぇ〜》《有給の買い取りは違法だと聞いた事ありますが…》《人手不足いよいよやばいなー!》と異論を呈する声が続出する事態に。

■担当者が明かした目的「年度末の人手不足を未然に防ごうという取り組み」

そこで本誌は、“夏季休暇の買取”の経緯について横浜市交通局・人事課を取材。担当者によれば、この件がXで拡散していることは把握しているとのこと。批判の声が上がっていることも踏まえて、事情を説明してくれた(以下、カッコ内は全て担当者)。

「今年4月に2回の減便を行うなど、現在、バスの乗務員不足で大変困っている状況です。また年度末になると、有給が残っている職員の有休消化が加速するため、このままいくともっと人手が不足することが予測されます」

横浜市営交通局ではバス乗務員は地方公務員であり、労働基準法で定める年次有給休暇とは別に特別休暇のひとつとして夏季休暇があるという。

担当者によれば「この夏季休暇を取得しないことで、夏の間に通常の年次有給休暇の消化を進められます」とし、乗務員に協力してもらうことで年度末の人手不足が少し解消できる見込みだという。その上で、「夏季休暇の5日間を使わなかった乗務員には、お金を支給することでインセンティブを設け、年度末の人手不足を未然に防ごうという取り組みです」と説明した。

夏季休暇を取得しない乗務員は勤務にあたることになるが、あくまで強制ではなく希望者のみ。その5日間を休まないで出勤してくれた乗務員には、「業績手当」として5万円を支給するという仕組みだ。なお夏季休暇の取得期間は6月〜9月となっているため、支給されるのは12月の期末勤勉手当と同じタイミングになるとのこと。

■Xで相次ぐ「違法では?」の指摘にはキッパリ否定

こうした取り組みの背景について、担当者は「4月1日現在で125名のバス乗務員が不足しています」と深刻な事情を告白。さらにドライバーの時間外労働の上限が、年間960時間に制限されたことに伴う「2024年問題」も影響しているという。

これまで乗務員の休息期間は継続8時間だったが、変更後は11時間(最低9時間以上)の確保が必要に。担当者は、「乗務員たちに休んでもらう分、人材を確保しなければならなくなったのですが、なかなか思うように人手が集まりません」と吐露。

いっぽうXでは、支給金額に対して「安すぎる」と批判の声も目立った。だが「いま市営バスは赤字でもあるので、5万円の支給が精一杯というところです」と、財政的に余裕がないことも明かしていた。

また、“夏季休暇の買取”は「労働基準法に反するのでは?」との声もあったが、担当者は「労働基準法で定める年次有給休暇を買い上げるのは違法ですが、独自に定めた特別休暇を買い上げるのは何ら違法ではありません」キッパリ否定。

「労働組合へは正式に提案し、円満に合意しています」といい、「その際にあまり休暇を取りたがらない乗務員からは、『かえってお金を頂けてありがたい』とのお話があったと聞いています」と好意的な声もあったようだ。さらに「現場の方でも、数名の乗務員から問い合わせをいただいていると聞いています」と明かし、担当者はこう呼びかけていた。

「我々は乗務員とも円満に話し合って進めております。何より市民の皆さまの“足”であるバスが、また減便になってしまっては申し訳ありません。乗務員と協力して行っている取り組みとして、ご理解していただけるとありがたいです」