《ビッグモーター問題「その後」》買収劇のキーマン・伊藤忠商事社長を直撃!新会社に現場から不安の声

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ビッグモーターが再スタートを切った。伊藤忠商事など3社が、5月1日に同社の業務を引き継ぐ新会社『WECARS』の発足を発表。経営陣は田中慎二郎社長(61)ら伊藤忠出身者らで固められ、ビッグモーター出身者は一掃された。一方で4000人以上いる現場社員と全国約250ヵ所ある店舗はすべて引き継がれた。

「苛烈なノルマは完全に廃止されました。それに伴い、店長なら最高4000万円あった年収も、1000万円に届かないくらいになるのではないでしょうか。一方で、いまだに客足は戻っていません。騒動後に10分の1程度まで激減し、そこからは徐々に戻ってきていますが、まだまだ厳しい状況が続いています」(西日本の店舗に勤務する整備士)

戻らぬ客足に加えて、現場社員がもっとも恐れることがある。それが新会社にハラスメント体質が引き継がれることだ。昨年7月に前社長・兼重宏行氏(72)と息子の前副社長・宏一氏(35)ら創業一族が退任後も、ビッグモーター内にはコンプライアンス軽視の歪(いびつ)な社風が残り続けた。

東日本の店舗に勤務していた元社員の男性は、何度も妻を侮辱する暴言を浴びせられた。その妻本人が取材に応じた。

「昨年夏ごろ、旦那の同僚などが店舗のグループラインに私の写真を貼り付けて。そこで『事故車です』って言われたんです。他にもデブとかブスなどと言われ、『ゴミみたいな女』とまで言われた。妊娠してからは『流産させてやる』とも言われました。そういった嫌がらせが続き、結局、旦那は会社を辞めました。私も妊娠というナイーブな時期での暴言に、うつ病を発症しました」

男性の妻はビッグモーター相談窓口に事態を告発し、実態調査を依頼した。しかし、昨秋に届いた会社からの回答は「ハラスメントは確認できなかった」というものだったという。男性の妻は「直接の謝罪が欲しかったですね。逃げて終わりなんて許せないです」と怒りを口にした。ハラスメントを行っていた社員は、もちろん新会社へ移籍する。

他にも新会社設立の直前の4月末には、ボールペンでほかの従業員の耳を刺すなどの暴力行為や、会社の備品約600点をメルカリに出品して200万円以上を稼いだ横領疑惑があったことも報じられている。

東日本の店舗の営業職の男性も続く。

「宏一前副社長の側近で、『一番の犬』と揶揄(やゆ)されていた人も、いまだに店長として在籍しています。彼らが新会社でコンプラ重視の人間に生まれ変われるのかというと、疑問しか残りません」

コンプラ対策は未知数

伊藤忠は買収にあたり、創業一族からの断絶を第一条件にしたという。実際に新会社では、彼らは株式を所有していない。ビッグモーター時代の被害者への対応については、新会社では行わず、存続会社の『BALM』にて行っていくという。補償のため、従来からビッグモーターに存在していた内部通報窓口や賞罰委員会も強化した。しかし、この調整弁がどこまで機能するかは未知数だという。自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏が解説する。

「騒動以降もビッグモーター内のハラスメントは無くなっていません。新会社になってから、内部通報窓口には告発が殺到しているようで、クビになった社員も複数名いるようです。とはいえ、横領といった目に見える証拠が残る悪行以外、″粛清″はなかなか進まないと思います。ハラスメントなどは実態調査も難しい。そこにどこまで切り込めるのか。
他にも社員の意識改革を進めるため、伊藤忠から50人以上の出向社員が現場に入ったようです。しかし、中古車販売の経験に乏しい彼らが、兼重親子時代に甘い蜜を吸ってきたベテラン社員相手にモノを言えるのかは甚(はなは)だ疑問です」

現場からの不安の声を、買収劇のキーマンはどう考えるのか。FRIDAYは伊藤忠の石井敬太代表取締役社長(63)を直撃した。

――現在もパワハラ被害を訴える声があります。対策は大丈夫でしょうか。

「それはこれからやるんだから。大丈夫です。大丈夫です」

――4000人以上が移籍しますが。

「大丈夫です。と言いますか、大丈夫にするってことかな。『WECARS』で」

――創業一族との断絶は完全にできたと考えてよいのでしょうか。

「別会社にするだけですよ。うちは『WECARS』しか知らないから」

――兼重親子には会いましたか。

「会ったことない。息子さんにも」

石井社長は足を止め、丁寧に取材に応じると、送迎車に乗り込み、立ち去った。

新会社の社名には車に関わるすべての人の未来作りに貢献するという決意が込められている。信念を貫き、ビッグモーターが生んだ歪みを正すことができるか。

『FRIDAY』2024年5月24日号より