ともに計量をパスして2センチの距離で約20秒睨み合った井上尚弥とネリ【写真:高橋学】

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Amazon プライム・ビデオで独占生配信

 ボクシングの世界スーパーバンタム級(55.3キロ以下)4団体タイトルマッチ12回戦が6日、東京ドームで行われる。5日は東京ドームホテルで前日計量が行われ、メインイベントの王者・井上尚弥(大橋)が55.2キロ、元世界2階級制覇王者の挑戦者ルイス・ネリ(メキシコ)が54.8キロで一発パス。34年ぶりの東京Dボクシング興行がついに成立した。殺気だった睨み合いは20秒。駆け引きを繰り出し、早くも決戦のゴングを鳴らした。戦績は31歳の井上が26勝(23KO)、29歳のネリが35勝(27KO)1敗。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 最強モンスターがにじり寄った。壇上での睨み合い。鼻が触れ合いそうになっても互いに譲らない。5秒、10秒、15秒。最後は関係者が制止しなければ終わらなかった。「ここから駆け引きも始まっている」。井上は早くもプレッシャーをかけた。3月の試合発表会見、前日の公式会見でも笑顔で握手も交わしたが、この日は一変。「気持ちが入っているんで」。自らゴングを打ち鳴らした。

 陣営の大橋秀行会長も頼もしい愛弟子に目を見張った。「殺気が出ているし、最高の状態ですね」。興行を盛り上げるための写真撮影だけで終わる時もあるが、井上にしてみれば必要な時間なのだろう。体格や距離も測れるし、精神面のせめぎ合いだって生まれる。20秒、2センチの空間で見えない殴り合いが行われていた。

 懸念されたネリの計量は500グラムの大幅アンダー。3メートル横から見つめた井上は、水分を摂りながらうんうんと頷いた。「興行は『成立するでしょ』と思ってやっていた。ビッグイベントでネリも過去最高のファイトマネーをもらうし、そこは心配なかった」と心に揺れはない。そもそも、計量パスは“当たり前”だからだ。

「自分はいつもながらバッチリです。明日やるだけだなと。調整面では(スーパーバンタム級で)3回目ですし、何となくつかめている。(過去2戦も)リング上で支障は全くなかった。今回もパーフェクト」

 1990年のマイク・タイソン―ジェームス・ダグラス戦以来34年ぶりの東京Dボクシング興行の実現へ、“最大の関門”と思われたネリの計量が終了。毎日の体重測定、5回以上のドーピング検査など徹底管理が実った。しかし、直後のルール会議でネリ陣営が異例の要望を出した。

ネリは守る王者の重圧を指摘、井上は反論「ネリは失うものがないから強いのか。そうではない」

 ボクシングは試合で新品のグラブを使うが、井上が使う日本のウィニング製が箱から取り出されると、ネリと陣営は「小さいな」と使い慣れた米国のグラント製からの変更を要求。日本ボクシングコミッション(JBC)が新品のウィニング製を用意した。

 ネリは2018年3月の山中慎介戦でも直前にグラブ変更を求め、日本製を使用。大きさの違いによる威力の伝わりやすさを気にしたと思われる。

 これも駆け引きの一つの可能性もあるが、井上はネリの体つきにも「感想はない」と興味なし。意識は悪童をどう倒すか、それだけだ。これまでネリは「失うものがない」と自身の立ち場の優位性を強調し、4つのベルトを背負う王者の方がプレッシャーが大きいことを指摘していた。だが、モンスターは意に介さない。

「それに関しても何も思わない。背負うものがある、ないで人間の差はない。ネリは失うものがないから強いのか。そうではないと思う。自分はベルト4本を懸けているけど、懸けていなくてもそれ(強さ)はどうなのか。試合は左右されない」

 やはりモンスターが見ている場所は違う。取材中、わずか1メートル前にあった横顔は鋭い。「やるしかないでしょ!」。さあ、東京ドーム決戦。勝者として歴史に名を刻むのは、井上尚弥だ。

○…Amazon プライム・ビデオにて「Prime Video presents Live Boxing」の第8弾として独占生配信される。井上―ネリ戦のほか、元K-1王者・武居由樹(大橋)がWBO世界バンタム級王者ジェイソン・マロニー(豪州)に世界初挑戦。井上の弟のWBA世界同級王者・拓真(大橋)が同級1位・石田匠(井岡)と2度目の防衛戦を行う。WBA世界フライ級王者・ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)は同級3位・桑原拓(大橋)と初防衛戦。同じ興行で世界戦4試合は国内史上最多となる。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)