アカデミー賞授賞式に臨む高橋正紀、山崎貴監督、渋谷紀世子、野島達司

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 アカデミー賞授賞式の前日となるアメリカ時間の3月9日、米ロサンゼルス市内の日本国総領事公邸で、視覚効果賞の受賞の期待がかかる『ゴジラ-1.0』チームの記者会見が開かれた。参加したのは、山崎貴監督、VFX制作プロダクション白組のスタッフ、渋谷紀世子、高橋正紀、野島達司の4人。それぞれが、本番直前の思いや授賞式での楽しみなどを語った。

 LA Times や The Hollywood Reporter など、地元のメジャーな新聞、業界誌が、『ゴジラ-0.1』の視覚効果賞受賞を予想するなど、ここに来て、かなり受賞の期待が高まっていることについて、山崎監督は、「浮かれそうになるので、一生懸命おさえてます。その情報が何の保証もないので。ただまあ、全然期待してもいいんだなっていう状況には今ちょっとなってきているんで、逆に、明日とれなかった時のショックが大きいんじゃないかな。だからできるだけ浮かれないようにしています」とほほ笑みを浮かべて答えた。

 また、明日に控えた授賞式を「楽しみにしている」と答えた山崎監督は、「ショーアップされた空間にいられることがほんとに楽しみですね。これまでずっとテレビのこちら側で見ていたところに身を置けるということだけでも、相当、滅多にないことだと思うので、すごく華やかさを楽しんで、記憶に焼き付けておこうと思います。後で思い出せるように」と付け加えた。

 昨年12月に全米で劇場公開され、邦画実写として歴代ナンバー1ヒットになった後、アカデミー賞まで辿り着くという快挙を成し遂げた『ゴジラ-1.0』。ここまでアメリカの観客に作品が受け入れられたことは、山崎監督も予想外だったようで、ゴジラ人気の凄さを再認識したという。「思っていた以上に、ゴジラは大スターだったんだなっていうか、とんでもない大スターと一緒に仕事させてもらってたというのはすごく感じました」
 

 そして、今回の全米での成功について、以下のように振り返った。「かなり会う人会う人が、ストーリーが良かったねっていうふうに言ってくださったんです。ストーリーとキャラクターに本当に心を打たれたと。ゴジラでまさかこんな思いになると思わなかったと言われたんです。『ゴジラ』だと思って観に行ったら、ちょっとグっときたって感じで、(映画館へ)観にいく時の気持ちと、出てくる時の気持ちにすごく大きなギャップがあるっていうのが、何か人に語りたくなる映画になっていたのかなと思います」

 また、アメリカの観客と話をして、日本にはない反応に驚かされたことにも触れた。「日本にいると、戦争っていうのはかなり遠いものというか、歴史に近くなってきているんですけど、(イラクやアフガン戦争の復員兵がいる)アメリカの人たちには現在なんだという感覚があるんです。全然思っていなかったことなので、あらためて気付かされましたね。で、その中でゴジラという、核兵器の象徴であったり、戦争の象徴であるものを、あの物語では、殺しに行くというよりは、なんとか静まってもらうっていう話なんで、やっぱり多くの人が、戦争に静まってもらいたいというか、荒ぶる神を静めたいという気持ちが今強いんだなっていうことは伝わってきました」

 まだ本番前だが、山崎監督は、今回のノミネーションを通して、とても大きな経験が出来たことを明かした。先月、ノミニーたちが全員集まるオスカー恒例のランチョンが開催され、そこで山崎監督は、今回『マエストロ:その音楽と愛と』のプロデューサーとして来ていたスティーヴン・スピルバーグと会ったことは、「今回のノミネーション以上に嬉しいくらいの瞬間でした」と興奮気味に語った。「この世界に入る一番のきっかけとなったのは、『未知との遭遇』と『スター・ウォーズ』がすごく大きかったので、それを作った人にまさか生身で会えるとは、っていうのが、びっくりでした」

 そして、『ゴジラ-0.1』をすでに観ていたスピルバーグに作品を褒めてもらったこと、持っていたゴジラのフィギュアをほしそうにしていたスピルバーグにあげたことを明かした。「(ゴジラをもらって)すっごい嬉しそうでした(笑)スピルバーグの中にまだ子供のような気持ちが残っていることも、すっごい嬉しかったですね。こういう人、こういう感じなんだなって思って、めちゃくちゃ嬉しかったです」

 VFX(視覚効果)は予算と時間があればあるほどよくなると言われており、視覚効果賞は製作費の差が最も顕著に現れる賞と言ってもいいだろう。そんな中、ハリウッド大作の10%にも満たないとされている予算の日本映画が、もしオスカーで視覚効果賞を受賞することになれば、映画史に残る歴史的な出来事になるのは明らかだ。『ゴジラ-0.1』が奇跡を起こせるか、今年のオスカーは例年以上に映画ファンにとって目の離せない授賞式になりそうだ。(取材・文:細谷佳史/吉川優子:Yoshifumi Hosoya / Yuko Yoshikawa)