障害年金の請求時に初診日の証明が難しい場合はどうする?

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 筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気などで就労が困難なひきこもりの人を対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。

 浜田さんによると、障害年金では、その障害で初めて病院を受診した「初診日」から1年6カ月を経過した「障害認定日」の時点で、法令に定める障害状態になかったとしても、その後、法令に定める障害状態になった場合は、その時点から障害年金を請求することも可能だということです。このような請求方法を「事後重症請求」といいます。

 ただし、障害年金の請求時は初診日を証明する必要があり、事後重症請求の場合、初診日から数年が経過しているケースが多く、初診日の証明が難しくなりがちです。その場合、どうすればよいのでしょうか。浜田さんが、ひきこもりの男性とその家族を例に解説します。

保留にしてきた障害年金を請求したいと希望

 ある日、ひきこもりの長男(32)の障害年金について相談を持ちかけてきた母親(65)から、私は事情を伺うことになりました。

 長男は若い頃からひきこもりの状態で、21歳のときにうつ病で初めて心療内科を受診しました。現在まで月1回の通院を続けています。以前に障害年金の請求を検討したことがありますが、医師からは「障害年金が受給できるくらいの重い症状ではない」と言われてしまい、障害年金の請求は保留にしてきたそうです。

 その後もひきこもり状態が改善することはなく、うつ病を抱えながら両親と同居していた長男が32歳になった頃、父親ががんで亡くなってしまいました。ショックのあまり、長男のうつ病は一気に悪化。一日中布団の中で寝ているだけの日も多くなり、食欲もほとんど湧かなくなってしまったそうです。入浴や着替えも1週間に1回できればよい方とのことでした。

 そのようなこともあり、現在の主治医から「障害年金を請求してみてはどうですか」とアドバイスを受けたそうです。

 障害年金では、原則、その障害で初めて病院を受診した日から1年6カ月を経過した日である「障害認定日」に法令に定める障害状態になく、障害年金が認められなかった場合でも、その後病状が悪化し、法令に定める障害状態になったときは、その時点から障害年金の請求をすることができる制度があります。これを「事後重症請求」と言います。

 事後重症請求でも、「年金保険料の未納が多すぎないか」といった年金保険料の納付要件のほか、その障害で初めて病院を受診した「初診日」の証明をクリアする必要があります。

 母親によると「長男の国民年金保険料は、長男が20歳のときからずっと納付してきた」とのことなので、年金保険料の納付要件はクリアできそうです。後は「初診日の証明ができるかどうか」です。

 障害年金では、初診日の証明は主に病院で作成してもらう書類で行うことになっています。初診の病院と現在の病院が同じかどうかで、初診日を証明する書類が次のように変わります。

・初診の病院と現在の病院が同じ⇒診断書で初診日の証明をする
・初診の病院と現在の病院が異なる⇒「受診状況等証明書」で初診日の証明をする

 初診の病院と現在の病院が異なる場合は注意が必要です。病院のカルテの保存期間は、原則、最後の受診から5年間となっています。最後にその病院を受診してから時間がたち過ぎていると、そもそもカルテが残っておらず、病院で受診状況等証明書を書いてもらえないケースがよくあるからです。

 長男のケースではどうなのか。私はさらに母親から事情を聞きました。

病院にカルテが残っていなかった場合に初診日を証明するには?

 母親によると、長男の受診歴は次のようになることが分かりました。

・1番目の病院 受診は21歳ごろから25歳ごろまで
・2番目の病院 受診は25歳ごろから29歳ごろまで
・3番目の病院 受診は29歳ごろから32歳の現在まで

 1番目の病院は終診からすでに7年が経過しています。そこで、私は初診日の証明方法について、母親に説明をしました。

「まずは1番目の病院にカルテが残っているかどうかを確認してみます。もしカルテが残っていなかった場合、本人や家族または代理人が『受診状況等証明書が添付できない申立書』という書類を作成することになります。さらに、当時その病院を受診していたことが証明できるような書類、例えば、領収書や診察券、お薬手帳などのコピーも添付する必要があります。ここまではよろしいでしょうか」

 母親は黙ってうなずいたので、私は説明を続けました。

「次に2番目の病院で受診状況等証明書を依頼します。息子さんの場合、2番目の病院は終診から3年ほどなのでカルテは残っていることでしょう。ここで受診状況等証明書を入手できるので、初診日の証明は2番目の病院で完了します。後は診断書やその他の必要書類をそろえて障害年金を請求します」

 ここで、私は注意点を述べました。

「ご留意いただきたい点としては、仮に事後重症請求が認められた場合、障害年金は書類を提出した月の翌月分から支給されることになっている点です。つまり『できるだけ速やかに必要書類をそろえて請求をすることが望ましい』ということです」

 すると母親は不安そうな表情を浮かべました。

「何だか大変なことになりそうですね。果たして私にできるかどうか…」

「息子さんの同意が得られれば、私の方で病院への問い合わせや書類作成など行うこともできるのでご安心ください」

「それは助かります。長男にも事情を説明して、ぜひお願いしたいと思います」

 面談後、長男の同意が得られた私は、1番目の病院に問い合わせをしてみました。すると、カルテは電子化されており当時の記録が残っていることが判明しました。1番目の病院で受診状況等証明書を依頼すると同時に、現在の病院で診断書を依頼しました。

 さらに、ご家族へのヒアリングを基に障害年金の請求に必要なその他の書類もそろえていきました。幸いにも1番目の病院にカルテが残っていたため、スムーズに障害年金の請求を完了させることができました。

 障害年金の請求から3カ月がたった頃、母親から「無事に障害基礎年金の請求が認められた」という報告がありました。母親は感謝の言葉を述べた後、最後に長男の近況も教えてくれました。

「長男は一時期に比べればショックもだいぶ和らいできているようです。ですが、悪化したうつ状態は改善しておらず、以前のような生活もできていません。時間はかかるかもしれませんが、父親の死を受け入れて生きていくしかないと思っています」

 そう話す母親の声は少し寂しそうでした。