生理で「腰痛」…なぜ起こる?

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 生理に伴う痛みの症状である「生理痛」。痛みを感じる部位には個人差がありますが、生理前や生理中に「腰痛」に襲われるという女性も多いのではないでしょうか。中には「腰が痛くて眠れない」「普段はあまり腰痛ないのに…」という人や、「生理前に『ぎっくり腰』になったことがある」といった人など、生理に伴う腰痛に悩まされている女性は少なくないことがうかがえます。

 なぜ、生理中に腰痛が起こるのか、「ぎっくり腰」の発症リスクは実際に高まるのか……「生理と腰痛の関係」について、産婦人科専門医の本多釈人さんが解説します。

女性ホルモンによって骨盤が不安定に

 生理前〜生理中にかけて起こることのある「腰痛」には、女性ホルモンの一種である「リラキシン」が関係します。

 リラキシンは、特に妊娠時に多く分泌されます。これは分娩時、赤ちゃんが産道を通れるよう、骨盤の関節や靭帯(じんたい)を緩ませる作用があるためです。つまり、妊娠・出産のためには欠かせないホルモンなのです。

 生理前や生理中にも分泌され、骨盤を開いて経血をスムーズに出させる効果がありますが、リラキシンによって骨盤内の関節や靭帯が緩むことで、骨盤全体がぐらつきます。骨盤が不安定な状態になると、骨盤内を通る神経がちょっとした動きで圧迫されたり、骨盤をサポートするために周囲の筋肉に負荷がかかったりして、腰痛の症状を引き起こしてしまうのです。これが、生理前や生理中における、女性の腰痛のメカニズムです。

 普段から腰痛がある“腰痛持ち”の女性は、リラキシンの作用により、腰痛が悪化する可能性があります。リラキシンが分泌される生理前〜生理中の期間を見据え、腰痛を悪化させない工夫をしていくことが大切です。

 一方で、腰痛が起こる原因はリラキシンの影響だけではありません。

「生理が始まると、いつも冷えを感じる」という女性は多いのではないでしょうか。この冷えに関係しているのは、生理中に分泌が増える「プロスタグランジン」という物質です。生理が始まると、経血を体の外に出すために、プロスタグランジンの働きで子宮がぎゅっと収縮します。このとき、同時に周囲の筋肉も収縮するので、骨盤内の血流が悪くなりやすい状態になります。

 また、異常な収縮が筋緊張につながると、「ぎっくり腰」を併発しやすい状況にもなり得るといえます。骨盤内の血流が悪化することに伴い、腰やその周辺も血行不良に陥れば、腰に疲労物質や老廃物がたまって痛みが起こりやすくなります。

「痛すぎてつらい」場合は婦人科疾患の疑いも

 中には、生理前や生理中に起こる腰痛が「痛すぎてつらい」「かなり痛みが強い」という女性もいるかもしれません。あまりにも強い腰痛の場合、何らかの婦人科疾患を疑った方がよいケースもあります。

 生理に伴い、病的な症状が起こる状態のことを「月経困難症」といい、腰痛や腹部膨満感、疲労、吐き気、イライラなどが症状に含まれます。この月経困難症には、「機能性月経困難症」と「器質性月経困難症」の2種類があります。

【機能性月経困難症】

思春期から20代前半の若い女性に多く、痛みの原因となる明らかな病変はありません。ただし、病変がなくても生理痛は起こり得ます。

【器質性月経困難症】

30歳以降の女性に多くみられる月経困難症です。子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症といった病気によるもので、主に腫れや炎症、経血を出すための収縮などによって強い痛みが起こります。

 生理期間中に起こる腰痛を和らげるためにできることとして、いくつかの方法や対策が考えられます。

 まず、先述した月経困難症の症状に心当たりがある場合、なるべく早く婦人科を受診しましょう。婦人科ではまず、病変の有無を診察し、確認できた場合は「機能性」と「器質性」のどちらなのか診断を行います。「機能性」の場合、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)といった痛み止めの処方、低用量ピルや黄体ホルモン剤を用いたホルモン剤治療が検討されます。「器質性」の場合は病変を縮小させることを目的としたホルモン剤治療が中心です。

 日常的にできる有効な対策は、骨盤周りの筋肉を鍛えることです。エスカレーターではなく階段を使う、意識的に歩くようにする…といったことを心がけるだけで、骨盤周りが適度に鍛えられるはずです。骨盤の開閉がスムーズに行えるようにするためのエクササイズやマッサージなど、自宅でできるセルフケアを習慣づけるのもよいでしょう。

 また、血流改善のため、意識的に体を温めることも大切です。「毎月、生理が始まると腰痛の症状がひどくなる」人は、生理期間中だけサポーターや腰痛ベルトを取り入れてみるのもいいと思います。