「観葉植物が枯れた」「オフィスの掃除が減った」は実はセーフ…プロが見ればわかる潰れる会社に見られる前兆
■「オフィス劣化」は倒産の前触れなのか
経営の世界では、会社の健全性を示すシグナルが多く存在します。一般的には、観葉植物が枯れている、オフィスの掃除が行き届かない、無料のドリンクコーナーがなくなるなど、日常の小さな変化が倒産の前触れであるとされてきました。
しかしながら、これはあくまでイメージの話。映画やドラマの世界では、わかりやすくこのような表現がよく用いられますが、実際の現場はそんなシンプルなものではないのです。そして、場合によってはこうしたオフィス劣化のシグナルがある方が、かえって企業の生存確率は高いことがあるのです。
それは、どういうことか。
解説していきましょう。
■従業員が倒産を知るのは「発表当日」がほとんど
多くの人は、会社が倒産に向かっているとき、前掲のようなある種の兆候が現れると信じています。それは、オフィス内の微細な変化から、従業員への福利厚生の削減、運転資金の不足による支払い遅延など、さまざまな形で現れるとされています。
しかし、プロの視点から言わせてもらうと、これらの変化は必ずしも倒産の前触れではありません。実際に、破産や民事再生手続きは非常に秘密裏に行われることが多く、従業員や関係者がこれらの手続きを知るのは、実際に発表される当日であることがほとんどです。なぜなら、申立代理人弁護士の費用のほか、裁判所に納める費用が大きい。つまり、ギリギリまでは売上をつくり、1円でも多く捻出して経営を成立させていかないと破産手続きすら進められないわけです。
破産を担当する弁護士は、会社に訪問することもなく、会社とは別の場所で経営者と打ち合わせを行い、倒産の事実を知っているのは経理や財務の責任者の一部のみ。これが倒産の事実なのです。ですから、現実に起こる倒産のシグナルを察知することは、かなり難しいと言えるのです。
もちろん、こうした静かな風景の中にも破産等の手続きは進みますから、これまで管理していなかった過去の契約書の提出を求められるなど、僅かな変化はあります。とはいえ、こうした変化をキャッチすることは、決して簡単ではないのです。
では、一方で観葉植物が枯れる、掃除が行き届かなくなるなどのオフィスに起こる「倒産の予兆」的なシグナルはどう考えれば良いのでしょうか。
■コストカットは会社が生き残ろうとしている努力の表れ
そもそも、観葉植物が枯れたり、掃除が行き届かなくなるなどの変化は、何を示唆しているのでしょうか。もちろん、会社にお金がなくなり、余裕がなくなってきている証拠と見ることもできます。
しかしながら、裏を返して考えると、コストカットをするということは経営者自体はまだ会社の存続を諦めていないということでもあります。つまり、これらの変化は、会社がコスト削減を図り、生き残りをかけている可能性があるわけです。言い換えれば、これらのシグナルは倒産の前触れではなく、会社が逆境に立ち向かい、生き残るための努力の表れであるとも解釈できる、ということになります。
■「じたばた」できる経営者は生き残れる
経営者の自家用車が変わる、なんていうのもよく言われるシグナルです。例えば、これまで外車を乗り回し、「外車でなければ、車とは言えない」と豪語していた経営者が、突然国産の中古車に乗り換える。一般的に見れば、「羽振りが悪くなった」、「経営の先行きが怪しい」と見ることができますが、前述のとおり再起をかけて車を買い替えている可能性もあるわけです。
車の話をすれば、外車というのは銀行などの金融機関からは「贅沢」「無駄な出費」と見られがち。国産車だと堅実。そういう固定観念があります。もし、この経営者が自身のプライドを捨て、金融機関からの借り入れを嘆願するために車を買い替えたとしたらどうでしょう。もしかしたら、その企業は案外しぶとく生き残る可能性を持っているのかもしれません。
事実、最終的に経営を継続させることのできる経営者は、体裁を気にすることなく「じたばた」できる人です。観葉植物や清掃、福利厚生などは、会社の危機に際した時にはただの贅沢品であり、無駄です。でも、見栄やプライドがあるとこうした無駄な出費もカットできないもの。だから、最終的に突然潰れる時には、シグナルが見えにくいのです。
■大きなシグナルは「経営者自身」に現れる
それでもなお、シグナルを探すとなれば、オフィス環境よりも経営者自身に「倒産」のシグナルが現れることが顕著です。いくつか事例を挙げてみましょう。
こうしたシグナルは、兆候そのもので判断するのではなく、経営者の前後の変化を見ることがポイントです。例えば、「経営者の服装がだらしなくなってきたら、その会社は危ない」などという見方がありますが、普段からだらしない格好の経営者もいるわけで、必ずしもある時点での経営者の服装だけでは判断できないわけです。重要なのは「変化」。普段からパリッと糊の効いたシャツにしわひとつないスーツを着ていた経営者のシャツやスーツがヨレヨレになる、しわくちゃになる……というのは、何かの変化を表している可能性が高いと言えます。
ほかにも、いつも傲慢(ごうまん)で他人の意見など聞かなかった経営者が、税理士や経営コンサルタントの意見を素直に聞くようになった。これも経営悪化から自信をなくしている証左なのかもしれません。
■危険な会社の経営者とは「連絡が取りにくくなる」
会社が傾き始めると、人間関係も変わります。普段来訪することのない行政書士や司法書士なんかが来社するようになったら、資産の名義変更を相談しているのかもしれません。あるいは、普段は取引のない金融機関やそれに準じたビジネスローンを取り扱う事業者が現れたら、やはり怪しいと言えます。
そして何より、危険な会社の経営者とは、徐々に連絡が取りにくくなっていきます。経営者も人間です。金策に追われていれば、だんだん人と連絡を取りたくなくなるもの。いつもはすぐに電話に出てくれる経営者が、電話に出ず折り返しになる。そしてその折り返しもなく、メールやチャットのみになる。そして最後は既読もつかず、連絡すらつかない……。
と、最後は少し極端な例でしたが、実際に起こっている事例です。このように、会社の倒産シグナルは、オフィス環境よりも経営者自身に変化として現れると知っておくと良いでしょう。
■オフィスの変化の理由を見極めるのは難しい
オフィスの変化は、表面的には不安や疑問を呼び起こすかもしれませんが、背後には企業が直面する課題への戦略的な対応があります。倒産の前触れと捉えるのではなく、それらの変化が示す経営上の決断や未来への投資を理解することが重要と言えるでしょう。
とはいえ、オフィスの微細な変化が、倒産の予兆なのか、それとも企業の進化の一歩なのか、その見極めは非常に難しいものです。働く側としては、いま勤めている会社が突然倒産したとしても、他社やフリーランスとして生きていくことができるスキルや能力を身につけておくべきといえるでしょう。
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横須賀 輝尚(よこすか・てるひさ)
特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。パワーコンテンツジャパン株式会社代表取締役。特定行政書士。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設し、独立。2007年に士業向けの経営スクール「経営天才塾」(現:LEGALBACKS)をスタートさせ、創設以来、全国のべ1700人以上が参加。士業向けスクールとして事実上日本一の規模となる。著書に『小さな会社の逆転戦略 最強ブログ営業術』(技術評論社)、『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、『会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業』(さくら舎)共著で『合同会社(LLC)設立&運営 完全ガイド はじめてでも最短距離で登記・変更ができる!』(技術評論社)などがある。
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(特定行政書士 横須賀 輝尚)