【ドラッグストア勢力図刷新か】マツキヨココカラの反撃が始まる…ドラッグストアのスーパーマーケット化に成功したウエルシア・ツルハに見えてきた陰りの原因
ドラッグストア運営の国内トップ、ウエルシアホールディングスの成長に陰りが見え始めた。売上高や営業利益が計画に届いていないのが実状だ。そして、その背中を猛追しているのが、業界3位のマツキヨココカラ&カンパニー。最新の決算報告を見ていると、今年はドラッグストア界の勢力図が大きく塗り替わる可能性もある。
コロナ禍からの反動で主力カテゴリーの伸びが鈍化
ウエルシアが1月9日に発表した2023年3-11月の売上高は、前年同期間比7.6%増の9104億円、営業利益は同1.2%減の311億円だった。増収減益で第3四半期を通過した。通期の売上高は前期比7.5%増、営業利益は同5.2%増の増収増益を見込んでいる。
ウエルシアは2022年3-11月の時点で、営業利益が通期の業績予想に対して67%進捗していた。今期は65%。やや後れをとっているのだ。
その勢いを失っていることは、経営指標が計画に対して未達であることからも明らかだ。2023年3-11月の売上高は9159億円を計画していたが、0.6%足らなかった。営業利益に至っては、予想に対して6.6%下回った。
品目別の売上高を見ると、医薬品が前年を1.5%下回っている。医薬品はウエルシアの売上全体の2割りを占める主力カテゴリーの一つで、売上総利益率は40.4%。化粧品の33.1%、雑貨の28.2%などと比べると突出して高い。医薬品の伸び悩みがウエルシアを苦しめている。これは明らかにコロナ禍からの反動減だ。
長い眠りから覚めたマツキヨココカラ
対して、業績の回復が鮮明なのが、大手ドラッグストアのマツモトキヨシとココカラファインが経営統合して2021年10月に誕生したマツキヨココカラ&カンパニーだ。2023年4-9月の売上高は、前年同期間比9.2%増の5077億円、営業利益は同32.6%増の375億円だった。通期の売上高は前期比8.3%増の1兆300億円、営業利益は同21.2%増の755億円を見込んでいる。
これは大幅な増収増益である。
マツキヨココカラは、2022年3月期の売上高は7299億円だった。業界2位のツルハの2022年5月期の売上高は9157億円。両社の間には2000億円近い売上差が生じていた。しかし、2023年度の売上高はツルハが1兆330億円で、その差は30億円にまでにじり寄る見込みだ。
■マツキヨココカラ&カンパニー業績推移 ※決算短信より筆者作成
マツキヨココカラの業績がこれほどまでに回復したのは、ウエルシアとは真逆の理由だ。コロナ禍の後、人々が日常を取り戻したことによる反動増である。都市部の人の流れが変わり、インバウンド需要が回復したのだ。
マツキヨココカラは繁華街に出店し、会社員や学生、外国人観光客に化粧品と医薬品を販売することに強みがあった。ウエルシアは郊外に大型店を出店し、医薬品や食品の販売で稼いでいる。ツルハもウエルシアのビジネスモデルに近い。
マツキヨココカラは、コロナ禍の眠りから目覚めたと言えるだろう。
業界の本流に逆らった戦略が奏功
本業での稼ぐ力を表す営業利益率が、3社の中で断トツに高いのもマツキヨココカラだ。直近通期の営業利益率は、マツキヨココカラが6.6%。ウェルシアが4.0%、ツルハが4.7%だ。しかも、ウエルシアとツルハは今期もほぼ同水準を見込んでいるが、マツキヨココカラは1ポイント近く高い7.3%を予想している。
利益率の差は、売上を構成する商品カテゴリーの違いによるものだ。
※各社決算説明資料より筆者作成(医薬品には調剤を含む)
マツキヨココカラは、化粧品の売上構成比率が34.2%。ウエルシアは15.5%、ツルハは14.2%だ。一方、食品においては、ウエルシアが23.4%、ツルハは25.2%と高く、マツキヨココカラは9.2%ほどしかない。ウエルシアとツルハは大型店で品ぞろえを充実させ、スーパーマーケットの顧客を奪う構図が続いていた。
経済産業省の調査(「2022年小売業販売を振り返る」)によると、2022年のドラッグストアの市場規模は前年比5.5%増の7.7兆円、スーパーマーケットは1.0%増の15.1兆円だった。規模は2倍近い差が開いているものの、成長性はドラッグストアのほうが高い。その要因の一つが、ドラッグストアのスーパーマーケット化だ。ウエルシアとツルハは品ぞろえで業界の成長をけん引した立役者だった。しかし、ウエルシアの食品カテゴリーの売上総利益率は18.9%と極めて低い。雑貨でも28.2%ある。化粧品は33.1%だ。
マツキヨココカラは業界の流れから逆行するように独自戦略に邁進した。その成果が出始めている。
アパレルとは異なる化粧品特有の消費行動
一方、化粧品の販売は、「ECに顧客を獲られるのではないか?」という懸念がある。
アパレルの実店舗がZOZOTOWNに顧客を奪われている現状を見れば、そう考えるのも当然だ。しかし、化粧品に限っては、その可能性は低そうだ。
NTTコムリサーチが行った調査(「化粧品購入行動に関する調査結果」)によると、化粧品の購入場所でドラッグストアと回答した人の割合は実に84.1%に及んでいる。これは2022年の調査だが、3年前に行ったものでもその割合は83.0%だった。コロナ禍で購買行動がデジタルに移行した期間を経てもほとんど変化していない。
購入前に経験したことを聞いた質問においては、「店舗に置いてあるテスターで試してみた」との回答が34.6%と最も高い。化粧品は直接肌につけるもののため、実際に試したいと考える消費者が多いのだ。これは、アパレル系のECサイトに掲載された写真で、それを着用するイメージを膨らませる購買行動とは明らかに異なる。
写真/Shutterstock
試供品をわざわざサイトで取り寄せ、実際に試して購入するか決めるというのも、手間がかかりすぎるだろう。経営統合する前のマツモトキヨシは、かつて業界トップを走り抜けていた。再び1位に返り咲くことができるのか注目だ。
取材・文/不破聡