1964年の東京五輪開催前にお披露目される東海道新幹線の車両。再び「甲辰(きのえたつ)年」がやって来る(写真:TopFoto/アフロ)

まもなく2024年を迎える。私に限らず、マーケット関係者は、毎年この時期には干支(えと)が気になる。未知の世界がどうなるか知りたいからだ。「東洋経済オンライン」で、年末に干支を用いて相場予測をするのは2020年以降今回が4回目になる。早速始めよう。

2024年の干支は「甲辰(きのえたつ)」で考えよう

2024年は辰年だが、まず「辰(たつ)」とは何か。十二支(じゅうにし)の1つで、子(ね:ねずみ)・丑(うし)・寅(とら)・卯(う:うさぎ)・辰(たつ)・巳(み:へび)・午(うま)・未(ひつじ)・申(さる)・酉(とり)・戌(いぬ)・亥(い:いのしし)」の5番目に数えられている。

辰は、振・伸・震と相通じる意味を持つ。非常に騒がしい動揺があるなか、活気が生まれて草木が伸びるものの、もう1つ実りがない。まかり間違えば、思いがけない変動や災禍(地震など)を生ずる。「理想に向かって辛抱強く、かつ慎重に、いろいろな抵抗や妨害と闘いながら歩みを進めていく」という意味があるという。

現代では「干支(えと)」というと、上記の十二支だけを指すことも多い。だが「2024年の干支は」と言われれば、「甲辰(きのえたつ)」と答えるのが正しい。今回もこの考え方に従って、2024年(=甲辰)の日本株式相場を予測してみたい。

本来の干支(えと)は、「甲(コウ:きのえ)・乙(オツ:きのと)・丙(ヘイ:ひのえ)・丁(テイ:ひのと)・戊(ボ:つちのえ)・己(キ:つちのと)・庚(コウ:かのえ)・辛(シン:かのと)・壬(ジン:みずのえ)・癸(キ:みずのと)」の「十干」(じっかん)と「十二支」を合わせて「十干十二支(じっかんじゅうにし)」で表される。

ちなみに、十干はのちに生まれた陰陽五行説と結びつき、森羅万象を表す五行(「木」「火」「土」「金」「水」)の陽である兄(え)と、陰である弟(と)の10パターン(5×2)でできていることがわかれば、ぐっとわかりやすくなるだろう。

さて、「甲」(きのえ=西暦では末尾が4の年)は、鎧(よろい)・兜(かぶと)の意味で、甲冑の甲から生じた言葉(象形文字)だ(甲の字形は、内を固めて守り、これからの戦いに備える形だ)。

寒さのために草木の種子が地中にあって、殻(から=よろい)を被って発芽することができずにいた芽が、その殻を破って頭を少し出して、まさに伸び始めようとする状態だ。

十干と十二支の組み合わせは、60種類(周期)だ。10(十干)と12(十二支)の最小公倍数が60だからだ。60年経つと、生まれた年と同じ干支(えと)になり、暦が戻る。60歳で還暦のお祝いをするのは現代にもしっかり受け継がれている。

2024年の株式市場は方向感の出にくい展開になる?

2024年はこの甲に辰が組み合わされることになる。この2つの文字が意味することは、『大地に根を張って伸びる草木』だ。木は一般的に生命力と穀物が豊かに実るシンボルだが、トゲのある草木や被れる草木もあるように、すべてが良い草木でなないことには注意したい。また、伸びる草木によって、世の中に刺激を与え、価値観を変え、成長させる可能性もあるが、実は、大地に根を張る草木が土の養分を奪い取って土地がやせてしまうこともあるのだ。

「甲辰」の意味するところは、ちょうど春になって、草木の芽がその殻を破って頭を少し出して伸び始めようとするが、まだ寒さが厳しくて、勢いよくその芽を伸ばすことができないのと同じように、「旧体制の殻を破って、(自然界と同じように)革新の動きが始まらなければならないのだが、いろいろな抵抗や妨害があるため、その困難と闘う努力をしながら、慎重に伸びていく(歩みを進めていく)」という意味になる。

以上のことから、2024年は、革新の動きが始まったばかりで方向感の出にくい1年になるとみている。

2024年の株式市場は、市場参加者の楽観や悲観が行きすぎる一方的な相場展開になることも充分に想定されるが、基本は上下の値幅が限定される比較的ボラティリティ(変動率)の低い展開になることを想定している。

参考までに、2024年の60年前である1964(昭和39)年を振り返ってみよう。 日経平均株価の推移をみると、1月の初値1204円、日本共同証券(1936年秋からの証券不況で供給過剰だった株式を買い上げるために設立された機関)の発足で1月29日1338円まで上昇した後は同証券の買い取り金額の規模の少なさから4月9日に1203円まで下落した。

その後、「1200円割れ阻止」で同証券が買い出動したため、7月3日には年初来高値1369円をつけた。だが供給過剰による需給悪化は止まらず11月9日には再度安値1203円(10月7日ザラ場は1196円台)まで急落したが、同証券の買いにより1200円割れを死守して年末は1216円で年を終えた。

結局、この年の年間騰落率は▲0.7%。日本共同証券の孤軍奮闘で、なんとか日経平均の底割れを阻止した年だったのだ。このように、1964年の甲辰の相場を例にとっただけでも、ものすごい年だったことがわかるが、ここで改めて「支」の辰と「干」の甲を別々に見ていこう。

辰年の上昇時は「ランドマーク開業」などがキーワード

まず、辰の相場格言は「辰巳天井」といわれるが、上昇相場では辰が天井になっていない(巳の天井が多い)。日経平均株価は1952(昭和27)年以降の平均騰落率が+28.0%と十二支中堂々の1位だ(1952年の+118.4%の影響が大きい)。ただし過去6回の勝敗は、4勝2敗で十二支中同率5位(5〜9位)と、ものすごくいいというわけではない。日経平均株価の年間騰落率や、主な事件は以下のとおりだ。

【1952年:+118.4%/主な事件】「サンフランシスコ和条約発効」で独立国として主権回復、「旧日米安保条約発効」(4月)、東京飛行場返還(7月)

【1964年:▲0.7%】「日本『IMF8条国』移行」、OECD加盟(4月)、「東海道新幹線」東京新大阪間開業、東京オリンピック開催(10月)

【1976年:+14.5%】第一次天安門事件(4月)、ロッキード事件で田中角栄前首相逮捕(7月)、中国の毛沢東主席死去(9月)

【1988年:+39.9%】世界最長の海底トンネル「青函トンネル」開業(3月)、瀬戸大橋開通(4月)、大証と東証で株価指数先物取引開始(9月)

【2000年:▲27.2】小渕恵三前首相死去(5月)、三宅島噴火(7月)、日銀ゼロ金利解除を決定(8月)、そごう・大正生命・千代田生命などが破綻

【2012年:+22.9%】東京スカイツリー開業(5月)、FRBがQE3を導入(9月)、衆議院解散により政権交代(11月)、アベノミクス開始(12月)

こうしてみると、日経平均株価が上昇した年は、国家の主権回復や国内外政治の安定、金融市場の国際化・開放、日米の金融緩和、ランドマークの開業などがきっかけになっているようだ。

また下落した年は、国のトップ辞任、金融不安(証券不況や生命保険の破綻)などがきっかけとなっていることが多い。2024年の辰年は、何かこうした出来事があるのだろうか。上昇の年になるのか、下落の年になるかを見極めたい。

甲年の上昇時は「市場改革」「為替」などがキーワード

一方、西暦なら末尾に「4」がつく甲の年の相場はどうだろうか。甲年は、平均騰落率では+3.8%と十干中8位と結果は今ひとつだが、勝率でみると4勝3敗と6〜7位と結果は平均的だ。年間騰落率や主な事件は以下のとおりだ。

【1954年:▲5.8%/主な事件】造船疑獄による政局不安(4月)

【1964年:▲0.7%】「日本『IMF8条国』移行」OECD加盟(4月)、「東海道新幹線」東京新大阪間開業、東京オリンピック開催(10月)

【1974年:▲11.4%】日中貿易協定調印(1月)、ウォーターゲート事件でニクソン大統領辞任(8月)、田中金脈問題の発覚で内閣総辞職(12月)

【1984年:+16.7%】電電公社の民営化法案成立(12月)、特金相場でディーリング活発化

【1994年:+13.2%】ゼネコン汚職、協調介入により円高懸念が後退(6月)

【2004年:+7.6%】企業の再生機構の活用・都市銀行統合・通信買収で外国人買い、インドネシア・スマトラ沖でM9.0の大地震(12月)

【2014年:+7.1%】ロシアがウクライナ南端のクリミア半島に軍事介入(3月)、消費税が5%から8%に(4月)、過激派「イスラム国」が国家樹立を宣言(6月)、集団的自衛権の行使容認を閣議決定(7月)、FRBがQE3終了、日銀が追加緩和を決定(10月)

こうしてみると、日経平均株価が上昇した年は、民営化(電電公社)やM&A(企業の再生機構の活用・企業統合・企業買収)による株式市場改革や、日本の金融緩和や協調介入(円高是正)などがきっかけになっているようだ。

また、下落した年は国のトップ辞任や政局不安、金融不安(証券不況や生命保険の破綻)などがきっかけとなっていることが多い。2024年の甲年は、こうした出来事があるのか。どのような年になるのかを見極めたい。

さて、2024年前半の日米株式市場の見通しは、ひとことで言えばアメリカの金融政策の行方にかかっている。米国株は、2023年10月末を底に年初来高値を更新して急騰を続けている。私はFRB(連邦準備制度理事会)が6月から年内4回の利下げをすることを見込んでいる。だが、すでに市場はFRBが3月から年内6回の利下げをすることを見込んでおり、さらに楽観的だ。いずれにしても、市場も利下げの開始までは堅調に推移する可能性が高い。

日本株、特に日経平均株価は、米国株の主要指標(NASDAQなど)に連動しやすいが、やはり日銀がいつマイナス金利を解除(1月・3月・4月・それ以降か)して正常化するのかも注視したい。

日銀が決め打ちをしていないのだから、分布で考えるべきだが、今のところ市場では4月の予想が最も多くなっている。もし、4月など年前半に日銀が動けば、そのタイミングで株価はいったんピークをつけるかもしれない。

もし株価が振れても耐えられる資産運用を

ただ、もし上昇したとしても、この後が難しいのだ。前述のとおり、2024年後半の日米株式の見通しを立てるうえで、最大のリスクは「米国大統領選挙に絡んだ政治リスク」だ。

11月5日に大統領選挙を控える与党・民主党のジョー・バイデン大統領にとっては、この選挙はどうしても負けられないはずだ。バイデン大統領は、勝利確実なラインまで支持率を上げたいと考えているだろう。だが、野党・共和党のトランプ前大統領(現状の有力候補だが未定)との戦いを制することができるのか、現時点ではどうなるかわからない。共和党政権になれば、金融政策も大きく変わるかもしれないのだ。

このため現時点では、2024年の日本株(日経平均株価)は、3万1000円から3万5000円までのボックス圏での値動きを想定する。

2024年は「たとえ株価が振れてもじっと耐えられる資産運用」が大事になると思っている。また押し目買いや吹き値売りがうまくできるかどうかで、運用の上手・下手がはっきりわかり、プロでも大きく差がつく1年になるだろう。基本は資産保全(本当の分散投資)に徹するべきだと思う。お金も気持ちも余裕をもって、楽しんでマーケットと向き合ってほしい。

(本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(糸島 孝俊 : 株式ストラテジスト)