「甲状腺がんの治療法」はご存知ですか?種類やステージ分類についても解説!

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甲状腺がんは、甲状腺の一部に悪性の腫瘍ができます。甲状腺は首の正面にある大切なホルモンを作る臓器です。

30~40代の若い世代にも多く、首にしこりや腫れなどの自覚症状がほとんどないため、見過ごされやすいのが問題です。

この記事は、甲状腺がんの種類とその治療方法について解説します。

このがんについての知識をもって治療にあたれるようになるでしょう。

監修医師:
甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室産業医)

平成19年(2007年)大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科卒業 平成21年(2009年)大阪急性期総合医療センター外科後期臨床研修医 平成22年(2010年)大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医 平成24年(2012年)国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員 平成25年(2013年)大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師 平成26年(2014年)国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医員 令和3年(2021年)国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長 令和5年(2023年)TOTO関西支社健康管理室産業医
著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など多数。
日本外科学会専門医 日本病院総合診療医学会認定医など。

甲状腺がんとは?

甲状腺がんとは、甲状腺に生じる腫瘍(結節性甲状腺腫)のうち、悪性のものです。
主な自覚症状は、首にしこりができることです。バセドウ病や橋本病とは違いますが、ホルモン分泌の異常がほとんどないため、体調の変化に乏しく見過ごされがちになるでしょう。
これは、20~30代の若年女性に多くみられます。発生要因としては若年期、特に小児期の放射線被ばくや家族歴などが知られています。

甲状腺がんの種類

甲状腺がんの種類は次の5つです。

・乳頭がん

・濾胞(ろほう)がん

・髄様がん

・未分化がん

・悪性リンパ腫

これらについて詳しく説明します。

乳頭がん

甲状腺癌の場合、約80~90%はこのタイプであり、若い人たちの放射線被爆による増加も、主にこの種類の甲状腺癌に関連しています。
乳頭がんは年齢層でみると主に30~40代の人に多い病気です。進行が遅いため手術による治療が可能です。
そのため予後も良好といえます。ただし、一部の症例では急に進行する場合があります。

濾胞がん

このがんは、一般的な良性甲状腺腫瘍の疾患であり、通常、穿刺吸引細胞診を行うことによって病理学的な確定診断が得られます。
濾胞がん(ろほうがん)は、乳頭がんと同じく、30~40代の人に多く見られる進行が穏やかながんです。良性腫瘍と悪性腫瘍の鑑別が難しい場合もあり、手術前に診断を確定することが難しいことがあります。
そのため、肺や骨などへ遠隔転移することがあるため、注意が必要です。

髄様がん

このがんの約1%を占める稀なタイプで、乳頭がんや濾胞がんと違う細胞ががん化したものです。進行が速く転移を起こしやすい性質があり、遺伝性の割合が高いことも特徴となります。

未分化がん

未分化がんは極めて悪性度の高いがんであり、罹患率は女性が男性よりも2倍以上高いとされています。甲状腺がんの初期段階では、首にできるしこり以外には自覚症状がほとんどありません。
一方、悪性度の高い未分化がんでは、甲状腺が急速に腫れ上がり、発熱や痛みが現れることがあります。さらに進行すると、周囲の組織に圧迫をかけ、飲み込みにくさや呼吸困難が生じることがあります。

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫は、白血球の内のリンパ球ががん化する疾患で造血器腫瘍の一種です。
詳細に説明すると、B細胞・T細胞・NK細胞などのリンパ球ががん化することで、免疫細胞の制御がきかなくなります。そして悪性リンパ腫の発症を起こします。
悪性リンパ腫は、主に2つの部位で発症します。1つはリンパ系組織であり、これには免疫システムの一部として機能するリンパ節をつなぐリンパ管や、リンパ液が流れる組織・胸腺・脾臓・扁桃などが含まれます。
もう1つはリンパ外臓器、つまり胃・腸管・甲状腺・骨髄・肺・肝臓・皮膚などの臓器や組織です。リンパ系の組織や臓器は体内全体に広がっているため、悪性リンパ腫はさまざまな部位で発症する可能性があります。

甲状腺がんの治療

甲状腺がんの種類は次の5種類があることを説明しました。

・乳頭がん

・濾胞(ろほう)がん

・髄様がん

・未分化がん

・悪性リンパ腫

これらの治療について詳しく説明します。

乳頭がんの治療

乳頭がんの一般的な治療法は、手術による腫瘍の切除です。手術の方法は、主に3通りあります。
1つ目は、通常日本では部分的に残しながらも一部を摘出する部分切除(片葉切除)が選択されます。
2つ目は、甲状腺の一部を残して取り除く亜全摘という方法があります。これは3分の2または4分の3を切除するものです。
3つ目は、リンパ節のクリアランスと呼ばれる手順が実施され、これはリンパ節とその周りの脂肪組織を一括して取り除くものです。
通常、甲状腺の完全な切除(全摘)は、正常な部分がほとんど残っていない場合や、手術後に放射性ヨウ素療法が計画されている場合以外ではあまり行われません。
要するに、甲状腺の切除範囲は一般的に腫瘍の大きさに応じて決定されます。

濾胞がんの治療

主な治療は手術です。濾胞がんは、正確な診断が事前に確定されるケースは15%程度であり、残りの85%は良性の濾胞腺腫として手術が実施されています。
濾胞腺腫と濾胞がんは非常に似ているため、手術前および手術中には明確に区別することが難しいでしょう。このガンの予後に最も大きな影響を及ぼす要因は、3つあります。
それは、手術時の患者さんの年齢・原発腫瘍のサイズ・甲状腺の被膜を越えて周囲の組織にがんが浸潤しているかどうか、です。
例を上げれば、20歳未満の濾胞がんの10年生存率はほぼ100%ですが、20歳から39歳までは97.6%・40歳から59歳までは92.2%・60歳以上では86.6%と、年齢ととも生存率が低下していく傾向があります。
ただし、これらの生存率には他の死因による死亡が含まれていないことに注意が必要です。

髄様がんの治療

主な治療は手術です。現時点で、このがんに対して効果的な抗がん剤は存在しません。
髄様がんには、遺伝性と散発性(遺伝性ではない)の2つの形態があります。遺伝性の場合、甲状腺の完全切除が必要であり甲状腺の一部を残しても再発のリスクが高まるでしょう。
一方、散発性の場合は腫瘍がある側だけを切除することで十分です。髄様がんが疑われる場合、最初に血清中のカルシトニンというホルモンの検査が行われます。
カルシトニンは通常、カルシウムやガストリンなどの刺激がない限り、検査値が正常範囲内といえます。もし、刺激後にカルシトニンが異常に高い値を示す場合、それが髄様がんであることが分かるのです。
特に穿刺吸引(せんしきゅういん)細胞診で特徴的な細胞が観察されたときは注意が必要です。ただし、この方法では遺伝性かどうかは判断できず、最近では遺伝子検査が診断に使用されることが増えています。

未分化がんの治療

現在、未分化がんに対して確立された治療法は存在していません。したがって、窒息を回避し患者さんが苦しむことなく生存できるよう、気管の前にある甲状腺峡部と片葉を切除するなどの対症療法が行われます。

悪性リンパ腫の治療

主な治療は、化学療法と放射線療法が中心に実施されます。適切な場合には造血幹細胞移植などの治療オプションが選択されることがあるでしょう。
治療の効果が十分得られない場合、さらに強力な化学療法が検討されることもあります。治療法の選択は、患者さんの病型・病期・全身の状態などを考慮して決定します。
悪性リンパ腫は、I期からIV期までの4つの段階に分類されます。病状の進行度合いに応じて、治療方法や将来の病状が変化するため、病期を正確にするために検査結果などを活用することは非常に重要です。

甲状腺がんのステージ分類

乳頭がん・濾胞がんの病期(55歳以上)の場合のステージは次のようになります。治療法は、がんの種類や進行の程度によって異なるため、組織型や病期の正確な診断が重要です。

・T2 がんが甲状腺内に留まり、大きさは2cm以上4cm以下の状態

・濾胞(ろほう)がん

・T3 がんが甲状腺内に留まり、大きさは4cm以上。または、がんが前頸にある状態

・T4a がんが甲状腺の被膜を越えており、皮下軟部組織・喉頭・気管・食道・反回神経のどこかに浸潤している状態

・T4b がんが甲状腺の外部の組織(椎前筋膜や縦隔内の血管)に浸潤している。あるいは、がんが頸動脈の全体を取り囲んでいる状態

・M1 がんが遠くの臓器に転移している状態

このようにがんの種類や進行の程度によって異なります。

手術後のリスク

手術を行うと、首の周囲の筋肉や組織を切除するため、首のひきつりや肩こりなどの症状が出ることがあります。
また、声帯を支える神経を切除する可能性もあるため、発声に影響が出る場合があるでしょう。このような症状は、術後早い時期からリハビリをすることで和らぎます。
また、甲状腺を広範囲に切除した場合甲状腺ホルモンを補う必要があるため、生涯にわたり甲状腺ホルモン剤を服用する必要があります。

「甲状腺がんの治療」についてよくある質問

ここまで甲状腺がんの種類や治療法・ステージなどを紹介しました。ここでは「甲状腺がんの治療」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

甲状腺がんは手術が必要ですか?

甲斐沼 孟(医師)

甲状腺がんは、種類によって異なりますが手術が必要なものが多いです。病気の進行状況によって抗がん剤治療や放射線治療が可能な病気もあります。
しかし、乳頭がん・濾胞がん・髄様がんは、手術による治療が第一に選択されるでしょう。また、悪性リンパ腫は病気の状態によって抗がん剤治療や放射線塗料で様子を見ながら、適切な治療を模索していきます。
未分化がんは、確立された治療法がないため対症療法を行います。

甲状腺がんは再発しますか?

甲斐沼 孟(医師)

甲状腺がんは種類によって再発を繰り返す可能性があります。また、転移するものもあるため注意しましょう。がんの特徴として他の臓器に飛ぶ性質があるためです。
転移する可能性のある部位は、リンパ節・肺・肝臓・骨・脳です。リンパ節は最も転移することが多いため、手術時に甲状腺と一緒にリンパ節の切除を行うことが多いです。

編集部まとめ

治療は一般的には手術ですが、がんの状態や患者さんの年齢によっては、手術以外の治療や経過観察をすることがあります。

手術には首の運動機能・発声などへの影響が出る可能性があるため、治療方法や術後の見通しについては、医師とよく話し合って決めることが重要です。

「乳がんの原因」と関連する病気

「甲状腺がんの治療」と関連する病気は3個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

呼吸器系の病気

呼吸困難

耳鼻科系の病気

嗄声 (させい)

頭頸部がん

声の変調が感じられたら甲状腺の異常が隠れている可能性があるため、まずは医師に相談しましょう。

「甲状腺がんの治療」と関連する症状

「甲状腺がんの治療」と関連している、似ている症状は3個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

血痰

声がれ

上記のような症状が少しでも気になれば、早めに病院へ行き相談しましょう。甲状腺がんは早期に発見し、治療することが非常に大切です。

参考文献

耳鼻咽喉科における甲状腺癌の実態と治療