傷つきやすい性質を嘆く必要はありません(写真:Pangaea/PIXTA)

感受性が豊かで傷つきやすい――そんな性質ゆえに“生きづらさ”を感じる、いわゆる“センサイさん”は、少なくないようです。ですが、医師であり作家の鎌田實さんは、それも生まれ持った才能のひとつであり、生かし方があるといいます。鎌田さんの著書『ちょうどいいわがまま』より一部抜粋・再構成して、生きづらさを解消する考え方についてお伝えします。

「世の中が生きづらい」と感じたら

「生きづらさ」は、ささいなことが気になったり、小さなことですぐに落ち込んだり、周りの目が気になって自分の意見が言えないという場合に感じるようです。

たとえば、理不尽なシーンがある映画や残酷なニュースで心が傷ついたり、感動するドラマやドキュメンタリーの世界に入り込んで涙が止まらなくなったりすることがありませんか。そんなふうに感じるのは、心が繊細な証拠。傷つきやすいからなのです。敏感で感受性が強いのは、他の人には見えないものが見えたり、感じられないものが感じられるということで、それは素晴らしい特性なのです。

こんな人は「センサイさん」と呼ばれたりします。あまり好きな言葉ではありませんが、でも僕は後押しします。「センサイ上等!」。それは物事の変化を敏感に感じ取れる証拠。だから小さなことにもよく気がつくし、人の気持ちに寄り添えるのです。

「どうしてうまく受け流せないのだろう」「小さなことでくよくよ悩んでしまう自分が嫌いだ」なんて、自分を責める必要はありません。そんな自分がいけないんだ……なんて思うと、ますます苦しくなってしまいます。そんな「ありのままの自分」を素直に受け入れることが大切。まず自分を認め、「人と違うのは悪いことではない」と思うこと。それは自分が生まれつき持っている才能なのです。大事にすることです。

僕はイラクの子どもたちへの医療支援活動をしていますが、このボランティアに力を貸してくれるのは、そんな感性の持ち主が多いのです。困っている人に手を差し伸べたり、日常の中にささやかな幸せを見つけられる感性が、自分や周りの幸せを支える大きな力になるのです。

自分を苦しめる「考え方のクセ」を変えよう

といっても、考え方や行動をすぐに大きく変えることは難しい。そこで、自分を苦しめる思考法をちょっとずつでも取り除いていくことからはじめましょう。

まずは一人で抱え込まずに身近な人に相談すること。「生きづらい」という悩みはなかなか相談しにくいかもしれません。でも、一人で思い悩んでいると不安や孤独感などが大きくなり、ますます気持ちが沈んでしまうのです。

55歳でアルツハイマーの診断を受けたSさんという人がいます。いま69歳。彼は“困りごと”をときどき書き出して僕に送ってきます。2023年2月の困りごとは「梅干しを食堂に持って行くのを忘れる」「持って行ったときは食べるのを忘れる」。

笑いながら、僕はすぐに電話をします。「本人はユーモアと思っていないだろうけど、送られた側はユーモアにあふれていると感じている」と。すると彼自身が「確かにおもしろい」と笑ってくれました。

別の日は「生きる目的が見つからない」「iPadに同じ文章を何度も入力する」。

またすぐに電話しました。「認知症でiPadを使っていること自体がすごいんだぞ!」とコメントすると、「生きる目的が見つからないと思うこともあるけれど、生かされていることに感謝しています」と、素敵なことを言います。

「生活に支障がなければ、細かいことは無視しておおらかに生きる」

結局、自分自身で、こうまとめました。そのとおり! 吐き出すということがとても大事。うまく表現しようとする必要はありません。モヤモヤした気持ちを吐き出すだけでも気持ちは晴れて心が軽くなってくるはずです。

もう一つは、「生きづらい」と思う原因をリストアップして、対処法を考えること。紙に書き出してみるのです。漠然とした不安でも、言葉にして「見える化」すると、原因がわかる場合があります。誰かに相談しているうちに見えてくることもあります。

ただし、相談したとしても、相手から気の利いたコメントなんて期待しないこと。

それでも、話しているうちにこんがらがった糸が見えてきます。そして、相談したら、「聞いてくれてありがとう。楽になった」と、きちんとお礼を述べておくこと。

そんな話を聞いてくれる友達は大事にしなければなりません。そして聞いてもらった以上は、今度は相手が問題を抱えたときは、いい聞き役になる。そうやって助け合えれば、お互いが寄りかからず、自立していくことができるのです。

こんがらがった糸がほぐれ出したら、その次は、どうすれば不安を解消できるのか、自分で対処法を考えます。すぐに明確な解決策は見つからないかもしれません。でも、「どうすればいいか」をじっくりと考えていくうちに、気持ちが前向きになっていき、行動を起こす気力が湧いてくるはずです。

内向型人間のほうが「よりよく」生きられる

心理学者のカール・ユングは、人間の性格分類を「内向型」「外向型」に分けています。「なんとなく生きづらい」と感じる人は、どちらかといえば「内向型」が多い。

外向型は社会や他人から評価されることで満足感を得るのに比べ、内向型は、自分の気持ちなど、内面から湧き上がる欲求を満たすことが幸福感につながるタイプ。競争が苦手で、社会よりも自分の精神を大事にする、いわば「個人主義者」。カマタ流に表現すれば「自分主義」。でも、だからこそいいのです。このタイプは、ちょっと微調整すればちょうどいいわがままに行きつきやすいのです。

アメリカの著述家スーザン・ケインが書いた『内向型人間のすごい力』(講談社)という本には、「ビル・ゲイツもガンジーも内向型人間だった!」と記されています。

「内向型の人は、他人と喋るよりも他人の話を聞き、パーティで騒ぐよりも一人で読書をし、自分を誇示するよりも研究にいそしむことを好む」といいます。「社交的で自己主張が激しい外向型のイメージがあるアメリカ人だが、実際にはその3分の1が内気でシャイな内向型」なのだそうです。

でも、そんなアメリカ人でも自分が「外向型」のようにふるまうのは、「社交的にコミュニケーション能力が高い外向型が理想」という価値観があるから。アメリカ人でも多くが、この問題で悩んでいるのです。

内向型だからできることがある

内向型でいいのです。一カ所だけとんがっている部分をつくればおもしろい生き方が待っています。自分の中にそんな部分を育てられれば、一気に個性的になります。

先ほど、「話を聞いてくれる友達を大事に」と述べましたが、言い換えればこれは、「どれだけ上手に他人に甘えられるか」のコミュニケーション能力の問題でもあります。一般的に「外向型」の人はコミュニケーション上手とされていますが、半面、「他人の目を気にする」ことが多く、甘えるのを恥ずかしがったりするので、素直に他人に甘えられないのです。


「他人に甘える」というと、「みっともない」なんていう人がいますが、それは日本社会の悪しき風習。人間は一人では生きていけない存在です。「持ちつ持たれつ」の共同体があってこそ、人間は幸福に生きていけるのです。

反対に「内向型」の人は、他人の心の動きや心情に敏感なので、上手に甘えることができるようです。自分が甘えたことで得た幸福感や充足感を、同じように相手にも味わってほしいと思う気持ちが強く、家族や友人、恋人ともいい関係が築けます。

ともあれ、ニュートン、アインシュタイン、スピルバーグ、そしてジョブズまで、世の中の天才と呼ばれる人たちのほとんどは、自分の内面の声に耳を傾け、深く思索し、そこに秘められた宝を探り当てます。そんな人たちがいなければ、万有引力、相対性理論などの偉大な理論も、現代文明を支える発明も生まれなかったのです。

だから「自分は引っ込み思案だからうまくいかないんだ」なんて考えずに、「内向型だからできることがあるんだ」と、心の視点を変えてみることが大事です。

(鎌田 實 : 医者・作家)