東大が入試で頻繁に問うている、「数に強い人」「弱い人」を分けるポイントを解説します(写真:Mugimaki/PIXTA)

覚えられない、続けられない、頑張ってもなぜか成績が上がらない――勉強が苦手で、「自分は頭が悪い」と思い込んでいる人も、実は「勉強以前の一工夫」を知らないだけかもしれない。

そう話すのは、中高生に勉強法の指導をしている「チームドラゴン桜」代表の西岡壱誠さんです。

「僕も昔はこれらの工夫を知らなくて、いくら勉強しても成績が上がらない『勉強オンチ』でした。でも、『勉強以前』にある工夫をすることで、『自分に合った努力のしかた』を見つけられて、勉強が楽しくなったんです。効果は絶大で、偏差値35だった僕が東大模試で全国4位になり、東大に逆転合格できました」

西岡さんをはじめとする「逆転合格した東大生」たちがやっていた「勉強以前の一工夫」をまとめた書籍『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』が、発売すぐに3万部を突破するなど、いま話題になっています。ここでは「勉強以前」に必要な「数字に強くなるコツ」を紹介します。

勉強以前の「数字に対する意識」が問われる

2011年、東大ではこんな問題が出題されました。


「2007年時点で、鉛の全消費量は、鉱石から生産された量の2.2倍になっている。このような現象がなぜ生じているのかを答えなさい」

この問題は、簡単に感じる人にはとても簡単な問題であり、逆に難しく考えてしまう人はどんどんドツボにハマってしまう問題です。

鉛は、僕たちの生活に欠かせない金属です。蓄電池に使われている金属であり、身近なところで言えばスマホやPCの電池、その他電化製品のほとんどに使われています。

そんな鉛ですが、この問題で語られているとおり「全消費量は、鉱石から生産された量の2.2倍」だそうです。一見すると全然意味がわからないですね。多くの人が、「なんで生産された量の2倍以上も消費されているんだ」と考えると思います。

この問題は、数字のトリックを使った問題です。勉強以前に、普段から数字に対して意識を持っている人であれば簡単に解けるわけですが、そうでない人はいつまでも解くことができない問題でしょう。このような統計数字の裏側を問う問題を、東大はよく出題します

今回はこの問題を通して、「数字に強くなるためのコツ」をお伝えしたいと思います。

さて、そもそもの話として、鉛が「生産」「消費」されるというのは、どういうことを意味するのでしょう。

まず「生産」です。鉛を「生産する」というのは、自然界に鉱石として存在している鉛を含む鉱石を、溶かしたり固めたりして、蓄電池・電化製品などの一部として使える状態にすることを指しています。

それに対して、「消費」とはなんでしょう。生産されて作られた鉛を、PCやスマホなど、なんらかの電化製品などに「使う」ことを指して「消費」と言います。

つまり「生産量」より「消費量」が多いというのは、自然界から鉱石として生産されたものよりも、電化製品などに使われた量のほうが多いということを意味します。

ということは、「鉱石から生産されていない鉛」が存在していて、それを僕たちが使っているということに他なりません。

でも、鉱石以外から鉛を作ることなんてできるのでしょうか? 人工的に鉛を作ることができる技術でもあるのであればそういったことも可能でしょうが、おそらく難しいですよね。どうすれば「消費」が生産を上回るのでしょうか?

「この数字って、そもそも何を表してるんだっけ?」

ここで重要なのは、数字の定義をはっきりさせることです。「消費量」の定義を考えることで、統計のトリックに気づくことができます。

話は変わりますが、三菱総合研究所の調べによると、「ベトナムの保健省直轄病院において、平均ベッド稼働率は約120%」なのだそうです。でも、ベッドの稼働率が100%を超えているって、どういう状態なのかよくわからないですよね? ベッドは1人1つのもので、例えば100個のベッドに100人が寝れば100%の稼働率です。100%を超えることはないでしょう。しかし、ベトナムではベッド稼働率が120%であると言います。どういうことなのでしょう?

これは、1つのベッドを2人の患者さんが使用している場合があることが原因の1つです。100個のベッドを120人が使っているから120%なわけですね。

このように、1つのものを2人以上、2回以上使うことになると、数字のトリックが発生します。

さて、先ほどの問題に戻ってこの原理を当てはめてみましょう。実は私たちは、一度生産されたものを何度も使うこともザラにあります。

例えば、一度印刷した紙の裏面がまだ使えるとなった場合、もう一度その紙を使えますよね。こうすれば、1つのものを2回消費したことになります。

鉛は、携帯電話やPCに使われています。それらの電化製品は、新しいものを買い替える時に下取りしてもらって回収されて、また新しい携帯やPCを作るのに使われています。

こういったことを「リサイクル」と呼びますが、鉛は何度もリサイクルされているので、1度鉱石から生産された鉛が2回以上消費されるという事態が起きるわけです。

日本という国は、資源に乏しい国だと言われます。ですが、このように今まで作られた電化製品や携帯電話に含まれていた鉛の量を考えると、世界有数の資源国に匹敵するくらいの量を持っていることになるのだそうです。こういう「鉱山ではなく、都市で発生した廃製品から金属資源を回収し、再びこれらの製品に利用すること」を「都市鉱山」と呼びます。

ということで、この問題は「鉱石から生産された量の他に、一度消費された後に回収されて、もう一度別の形で消費されるリサイクルが行われているから」というのが解答例の1つになります。

普段から「数字の定義」に意識を向けているかどうか

東大の入試問題では、このような数字のトリックに騙されないかどうかを問う問題がかなり多く出題されています。今回のように、切り取り方や定義の仕方を変えれば、数字上ではあり得ないことが起こってしまったり、伝え方を工夫することで印象を変えることだってできます。

そのときに重要なのは、しっかりと定義を考えることです。今回は「消費量」という数字や「稼働率」という数字の定義をご紹介しましたが、これら数字の解釈の違いによって、データは大きく印象を変えたと思います。

よく言われる議論ではありますが、「食料自給率」も、定義によって印象が変わります。食料自給率には、カロリーベースの自給率と生産額ベースの自給率があります。

カロリーベースのほうは、食品に含まれるカロリーを計算し、どれくらいのカロリーを外国からの輸入品に頼っているのかを調べるものです。生産額ベースのほうは、その食品の金額で考えて、国内の食品生産額と海外商品の輸入額とを比較するものです。

このように、数字の測り方・解釈・何をベースにした統計なのかによって、データの見方を変えることができるのです。

東大がこの問題を出題した意図は、普段から数字・データに対して意識を向けて、「この数字はどうしてこうなっているんだろう? 測り方は? 解釈はどうだろう?」と考えていく習慣がある人なのかどうかを確認することだったのだと思います。ぜひ参考にしてみてください。

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)