ホストにはまった自分に金を出してくれない家族にぶちぎれ…ガラスの灰皿で祖母に全治3カ月のケガを負わせた“地元名士”の娘の言い分

バランスを欠いた極端な親の養育態度が子どもにどれほどの影響を及ぼすのか。親自身のふるまいが自覚のない子どもを非行にはしらせる「危ない子育て」とは何なのか。『犯罪心理学者が見た危ない子育て』(SB新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

家庭の中でも祖父の存在感は強く、誰も頭が上がらない

[本記事で紹介する事例における罪状]

傷害(家庭内暴力)

自宅で家族に暴力を振るい、祖母に対して灰皿を投げつけ全治3カ月の重症を負わせた

ナルミはいわゆる「お嬢様」だ。立派な門がまえ、庭園のような庭のある家。両親と、同居している祖父母からの寵愛を一身に受け、何不自由なく暮らしていた。

母方の祖父は創業社長で、一財をなすだけの成功をしていた。地域でも有名な資産家である。

祖父母には子どもがひとりしかおらず、それがナルミの母親だ。自由気ままな母親は会社を継ぐ気がなく、婿養子を迎え入れた。

おとなしく、言われたことを何でもこなすタイプの父親は、祖父に気に入られたのだった。現在はナルミの父親が社長なのだが、実質的には祖父のワンマン経営が続いている状態である。

家庭の中でも祖父の存在感は強く、誰も頭が上がらない。母親はと言えば、自分が遊びたい気持ちが強く、家庭より趣味を優先しがちなところがあった。

そんな中で祖父は、たったひとりの孫であるナルミを溺愛した。

将来的にはまた婿をとらせて、会社を継いでほしいという思いもある。ナルミの機嫌をとることに腐心し、ほしいものは何でも買い与えた。

幼稚園生のナルミがダンスをやってみたいといえば、早速プロのダンサーを家庭教師につけ、家の中にダンスルームを作るほどだった。ナルミはこの家のお姫様なのだ。

運動会や学芸会では、自分がトップで目立つ役割でないとヘソを曲げる

小学生になった頃、ナルミは「犬を飼いたい」と言った。

祖父は喜んでナルミをペットショップに連れていき、ほしい犬を選ばせた。小学1年生でも簡単にだっこできる、小さな子犬だ。

「かわいいねぇ。いいこ、いいこ」

最初のうちは、ナルミも犬をかわいがった。しかし、体が大きくなってくると「もうかわいくないから、いらない」と言う。ご飯をあげることも、なでてやることもしなくなった。もう興味がないのだ。

「やっぱり、猫がいい。猫ならちゃんと育てられる」

そう言うナルミに祖父は猫を買い与えたが、結果は同じだった。

ナルミのわがままは、小学校でも次第に目立つようになっていった。低学年のうちは受け入れられていたが、3年生になるとクラスで浮くようになった。とくに運動会や学芸会では、自分がトップで目立つ役割でないとヘソを曲げてしまう。

「どうして私じゃないの! あの子より私のほうがかわいいし、ダンスだってうまいのに」

そう言って当たり散らすナルミから、友だちも離れていった。

ナルミの自己中心的な行動をたしなめる人は、誰もいなかった

学級委員の選出では、ナルミは自分に票を入れた。開票してみると、ナルミに入った票は1票のみだった。

「私が学級委員をやってあげようと思ったのに!」

家でナルミが怒りながら話をすると、祖父は「みんなわかってないよなぁ」と同調した。そして、機嫌を直すようにとはやりのゲームを買ってあげた。

ナルミの自己中心的な行動をたしなめる人は、誰もいなかった。

彼女の家庭内暴力が始まったのは、小学校高学年からだ。

不満を持つと、まずは家の中にあるものを壊す。ガラスを割り、冷蔵庫の中身を放り出すなどして暴れる。どこにそんなパワーがあるのかと思うほど、そういうときの力は強く手が付けられなかった。誰かしら大人が止めに入ると、殴る蹴るの暴行を加えるようになり、警察沙汰になったこともある。

しかし、地元の名士である祖父が取り繕うことで、問題は明るみに出なかった。

写真はイメージです

そしてホストクラブにはまってしまった

その後、なんとか高校に進学したナルミだったが、すぐに不適応を起こし一年生のうちに退学。「家事手伝い」と称して家にいる日々だ。おこづかいは、親か祖父からもらえばいい。きれいな服を買って、化粧をして、ふらふらと出かけたり遊んだりしていればいい。

でも、ナルミは心の底では気づいていた。きれいに着飾っていても、家族以外の誰からも相手にされていないことを。ちゃんと話を聞いてくれる友だちなんていないのだ。

ところが、ホストクラブに行ったことで一変した。ここでは、お姫様扱いされる。お金さえ出せば、みんな自分の言うことを何でも聞いてくれる。ナルミにとって、素晴らしく快適な空間だった。

とくにゴウというホストは、ナルミのタイプだった。やさしくて、ナルミのことをたくさん褒めてくれる。少し頼りなげな雰囲気も好きだった。

「今月の売上、足りなくて」

ゴウがそう言うと、ナルミは数十万円もするシャンパンを注文。同伴出勤も頻繁にして、「ナルミがいないとダメだ」と思わせようとした。

「アタシに任せて」

金を出せない家族に暴力をふるい、少年鑑別所へ

もちろん、お金の出どころは家族である。自分でお金を稼いだことがないナルミは、執拗に家族にお金を無心した。

「この間、30万円渡したばかりじゃないか……。いくらなんでも」

父親が困ってつぶやくと、ナルミは父親を突き飛ばしたのち、リビングにあったクッションや本を手あたり次第に投げた。また始まったのだ。このところのナルミの暴れっぷりはエスカレートしていた。

「ちょ、ちょっと」

祖母が止めようとリビングに入ってきたとき、ナルミは灰皿を投げた。ガラス製の重たい灰皿だ。

ゴン。鈍い音がしたと思うと、祖母が倒れ、見る間に多量の血が広がっていった。灰皿は祖母の頭に命中していた。すぐに救急車を呼んで一命をとりとめたが、全治3カ月の重傷である。

この事件は警察に通報され、ナルミは少年鑑別所に収容されることとなった。

解説: 甘やかし型とは?

甘やかし型の親は、子どもの顔色をうかがい、子どもの言いなりになるのが特徴です。子どもがほしいものをほしいだけ与えたり、好きなことを好きなだけさせたりし、我慢させることをしません。

甘やかし型の養育態度で育てられた子は、何でも自分の言う通りになると思い、自己中心的になります。共感性が乏しく、他人の目線で物事を考えることが苦手です。思い通りにいかないと人を責めたり、乱暴な態度をとったりすることが多くなります。

自ら状況判断する必要がなく育っているため、空気の読み方がわからず、浮いてしまいやすくなります。

人は折り合いをつけて大人になる

ナルミは典型的な甘やかし型の家族に育てられた子でした。とくに祖父は、ナルミがほしいものは何でもすぐに買い与え、やりたいと言ったことは何でもやらせてあげようとしています。

ダンスを習いたいと言ったら、すぐさまプロダンサーの家庭教師をつけ、家にダンスルームまで作ってしまうのだからすごいものです。しかも、ナルミがまだ幼稚園生のときです。そうした余裕があるからいいと言えばいいのですが、多くの親はもう少し様子を見ながらサポートをするのではないでしょうか?

たとえば、しばらく体験してみて「本当に続けたいのだったら、こういうプランにしようか」と話し合いながら環境を整えるのです。

やりたいと言ったらやらせて、やめたいと言ったらやめさせるのを繰り返していては、忍耐強く続ける力が身につきません。実際、ナルミの興味は長続きすることがありませんでした。ペットにしても、最初だけかわいがったものの、途中で飽きて世話をしなくなりました。

こういうとき、保護者は指導すべきです。生き物を育てる責任について教えなければなりません。それなのに、性懲りもなく新たなペットを買い与えるとは困ったものです。ナルミは我慢したり、自分の欲求と周囲の状況との折り合いをつけたりといった経験をしないまま大きくなっていったのです。

過保護型でお話ししたのと同じように、甘やかし型で育てられた子も欲求不満耐性が低くなります。思い通りにいかない出来事にうまく対処できず、逃避的行動をとったり攻撃的になったりするのです。

ナルミの場合は、思い通りにいかないことがあると暴力を振るうようになりました。最初に家庭内で暴れたとき、適切な指導ができればよかったでしょう。不満に対してどう対処すればいいのか。一緒に最善の策を考え、「辛いときは支えるからね」と伝えるのです。

ところが、ナルミの家族は一切指導することがなく、事件をも握りつぶしました。家庭内暴力などなかったことにして、ナルミのご機嫌をうかがう生活を続けたのです。

「甘え」と「甘やかし」は違う

「甘やかし型」に偏った親の多くは、「甘え」と「甘やかし」の区別がついていません。

「甘え」は子どもの愛着形成に必要なものです。情緒の安定や正常な心理発達に欠かせません。

愛着については、精神科医のボウルビィが提唱した愛着理論(アタッチメント理論)が有名です。ごく簡単に言えば、子どもが保護者等の信頼できる人に「くっつく」ことで安心する行為のことです。赤ちゃんは、「お腹がすいた」「お尻が気持ち悪い」「眠い」「抱っこしてほしい」など、泣いて訴えますね。要求に保護者が応え、安心できるようにくっつくと、赤ちゃんは落ち着きます。

こうした行動が繰り返されて、愛着が形成されます。愛着はその後の発達に大きく影響することが知られており、近年は「たくさん抱っこしてあげてください」というのが主流です。一時期は「抱き癖がつくからよくない」という説もありましたが、発達心理学上の根拠はありません。

信頼できる人にくっつくことで安心できるのは、乳幼児に限ったことではありません。大きくなってからも、不安なときにはハグしてあげるなど甘えさせることで気持ちが落ち着き、不安を乗り越えるパワーが湧いてくるものです。

子どもの「甘え」を受け入れることは、自立のために重要なのです。

一方、「甘やかし」は親の都合で行われるものです。子どもの「甘え」にもとづいておらず、親自身の満足のためにやっています。

たとえば、子どもがスナック菓子や甘いお菓子を食べたいと言っても、健康のことを考えてある程度制限するのが普通ですが、子どもが喜ぶからと際限なく与えるのは「甘やかし」です。ほしいと言われたものを与えれば、その場は丸くおさまるしストレスがかかりません。だから甘やかすのはラクなのです。

最近多く見られるのは、ゲーム機の早期購入です。小学校に入る前から長い時間をTVゲーム、ネットゲームに費やしている子が増えています。生活のリズムを整えることが大事な時期ですから、本来なら時間を制限し、寝る前にはゲームをやらせない、就寝時間を守るなどしなければなりません。

ところが、子どものやりたいようにやらせるほうがストレスがかからないので、制限を設けずにやらせてしまう。完全に「甘やかし」です。こうした生活を続けた結果、昼夜が逆転してしまい、学校に行けなくなった子を少年鑑別所で多く見ました。

文/出口保行 写真/shutterstock

『犯罪心理学者は見た危ない子育て』 (SB新書)

出口保行

2023/8/5

\990

240ページ

ISBN:

978-4815621629

知らず知らずに偏ってしまう子育ての危険性

心理学者サイモンズは、子育ては4つのタイプに分けられると言いました。

著者は法務省心理職として1万人を超える非行少年・犯罪者を見てきた結果、サイモンズの言ったとおり、子育てには4つのタイプが存在すること、いずれかのタイプに偏った家庭に犯罪者が育つことを確信しました。

その4タイプとは「過保護型」「高圧型」「甘やかし型」「無関心型」。

この4つの言葉を見て、「私の家庭は過保護でも高圧でもないし……」と思った親御さんへ。

実は……

親は誰でも知らず知らずのうちに

この4タイプのどれかに偏っていることがあるのです。

非行少年・犯罪者の育った家庭環境の事例とともに、

各タイプにありがちなこと、気をつけるべきことを伝えていきます。

偏っていない子育てはありません。

でも、少しでも真ん中に寄せる意識はできる。

その一歩として。やさしい子育て入門書です。