「納期破りの常習犯に、確実に納期を守らせる」締め切り3日前に送る"最強のリマインドメール"の文面
■なぜ締め切りが守れない人は、締め切りが守れないのか
何度言っても締め切りが守れない人はいるものです。部下や同僚、取引先などにそういう人がいると、催促に手間や神経を使いますし、スケジュールが狂うと調整も大変です。では、「締め切りが守れない人」は、なぜ締め切りを守らないのでしょうか。理由は大きく3つ考えられます。
1 楽観的すぎる、想像力に欠けている
もともとの性格や、これまでの経験などから「多少遅れても何とかなる」「理由があれば仕方ないと許してもらえる」と思っているためです。「期限」を、「必ず守るべきもの」とは思っておらず、かなり緩くとらえているのです。
私が産業医として勤務している先でも、時間にルーズな人に悩んでいるという話はよく耳にします。例えば、集合時間や会議に遅れてくる人に「時間通りに来るように」と注意すると、言われたほうは「10分ぐらい大したことではない」「これくらいいいではないか」と返してきたり、言葉ではそう言わないにしても、このように思っている様子が態度に出ている。つまり「10分の遅れ」に対する考え方が違うのです。
おそらくこうした人たちは、過去にそれで厳しく叱責(しっせき)されたり、困った経験をしたりしたことがないのでしょう。また、自分が時間を守らないことで、まわりにどんな影響があるか、どのように迷惑をかけているか想像する力も欠けています。
2 完璧主義
真面目だったり几帳面だったりする人に多いのですが、細かいところが気になり、完璧でないものを提供、提出することに抵抗があるため期限内に終わらせることができないという人もいます。時間よりも、クオリティーを優先してしまうのです。
ただ、このタイプの人は、いくらやっても自分が思い描く「完璧」なレベルには到達しないので、キリがありません。やってもやっても、細かい不備を見つけて気になってしまい、結局締め切りに間に合うように終わらせることができません。
3 発達障害の可能性がある人
こちらの記事でも詳しく書きましたが、「ADHD(注意欠如・多動症)」や「ADD(注意欠陥障害)」といった、発達障害の特性を持つ人の中には、指示を覚えておくのが苦手だったり、マルチタスクや優先順位決めが苦手だったりすることがあります。
やらなくてはならないことのうち、何から手をつければいいかを決めることができず、自分が得意なものからやり始めて、締め切りが近いものを後回しにしたり、聴覚記憶が弱く、口頭で伝えられたことを覚えるのが苦手で、指示内容や締め切りを忘れてしまったりするなどです。こだわりが強いという発達障害の特性から、完璧主義になって期限内に終わらせられないという人もいます。
■チェックポイントを設けて進捗を確認する
では、こうした締め切りを守れない人には、どのように対応すればよいのでしょうか。相手が部下である場合と、取引先や他部署の人の場合では、対応方法が変わってきます。
部下であれば、具体的な対策は取りやすくなります。
まず、締め切りまでの期間に、いくつかチェックポイントを設けます。例えば、締め切りまで1カ月あるのであれば、10日ごとや1週間ごとにチェックポイントを作り、進捗(しんちょく)を把握しながら進めてもらいます。1カ月後に完成したものを提出してもらうのではなく、1週間後に4分の1までできたものを見せてもらい、2週間後に2分の1までできたものを見せてもらう……など、こまめに確認しながら進めてもらうのです。
そうすることで、優先順位付けが苦手、指示を覚えられないなどのために期限が守れない、完璧主義なために時間がかかってしまうといったことを防ぐことができます。
■自分が「時間に厳しい人」であることを見せる
1の、楽観的すぎる、想像力に欠けているために時間にルーズな人については、「時間を守らないのは許されない」「守らないと困ったことになる」ということを、本人に理解してもらうしかありません。
ただ、脅したり怒鳴ったりすると、人間関係やチームワークにひびが入ってしまうことがありますし、パワハラと受け取られる可能性もあり良くありません。ですから、上司である自分自身が、時間に厳しい人間であるという姿勢を見せるようにしてください。
会議のときは、早めに会議室に入って時間通りに始める。5時に終わる予定なら、きちんと5時に終わる。待ち合わせをするときも、絶対に相手を待たせない。もしも遅れてしまった場合には、言い訳をしたり、うやむやにしてしまったりせず、きちんと迷惑をかけた相手に謝り、今後はこのようなことがないように気を付けることを約束する。
相手を変えるのは難しいですが、自分を変える方が簡単です。遠回りに思えるかもしれませんが、こうして背中を見せることで、チーム全体に「期限を守らないことは許されない」「時間厳守が大切」という雰囲気を作り、本人の意識を変えていきます。
■取引先に送るリマインドメールのポイント
相手が取引先となると、部下のようにはいきません。会社同士の関係性を壊さないためにも、丁寧な戦略が必要です。
まずは、締め切り前に「リマインドメール」を送ることをお勧めします。たとえば締め切りの3日前に「念のためのリマインドメールです。お願いした○○の件、かなり手間のかかる内容かと思いますが、進捗は問題ないでしょうか。今月末の納品をお待ちしております」といった内容のメールです。
ポイントは、「あくまでも形式的に送っている」という体裁にすることです。「あなたを信用していないから送っているのだ」と受け取られないよう、気をつけましょう。
このメールには、あわせて「もし、何らかの理由で今月末の締め切りに間に合わせるのが難しくなった場合は、すぐにご連絡ください。私どもも一緒に解決策を考えて、適切に対応していきたいと思っています」など、「遅れる場合は締め切り当日に言うのではなく、早めに伝えてほしい」というニュアンスで伝えておきます。また、「遅れそうな場合もサポートする」という姿勢を見せると、遅れる場合も連絡しやすくなるでしょう。
ただ、取引先にも、時間にルーズで、締め切りを守らない常習犯のような人はいるでしょう。その場合は、連絡先のCCに相手方の上司を入れるなど、1対1ではないメッセージとして送っておくとよいでしょう。
■催促メールをどう書くか
すでに締め切りを過ぎてしまったときの、催促の連絡も神経を使います。いきなり非難し、「遅れているから早くしてほしい」と責め立てるような文面にならないよう、まずは共感から入ります。たとえば「とてもお忙しいなか、厳しい納期のお仕事をお願いしており申し訳ありません。なかなか計画通りに進まないこともあるかと思いますが、昨日が締め切りになっていた○○の進捗状況はいかがでしょうか」と、相手に寄り添い、進捗状況を聞きます。
そこで相手から「すみません。ちょっと遅れています」と返事がきたら、返事をくれたことへのお礼を伝えたうえで、「これが遅れると、今後どんな影響が起きてしまうか」について具体的に伝えます。たとえば「追加のコストが発生してしまう」「商品の発売が遅れてしまう」「ほかの工程で遅れを回収しなくてはならなくなる」などです。このときの主語は「私」ではなく「私たち」「私たちチーム」「当社」などと広めに表現すると、遅れの影響の大きさが伝わりますし、「私が困っている」と言うよりも角が立ちません。
さらに、こちらが許容できる期限の範囲を示します。「あと最長3日は待てますが、それ以上になると大変難しいです。現実的に、いつごろお送りいただけますでしょうか」と、相手から回答をもらうようにします。
単に「期限を過ぎたので早くしてください」と伝えるだけでは、謝罪する返信が来るばかりで、現実的な次のアクションにつながりません。締め切りが守れなかったのであれば、こちらからどのような支援をすれば早く提出してもらえるのか、次の現実的な締め切りはいつか、などを聞くことで、こちらも対応しやすくなります。
■「次は期限を守らないとまずい」と思ってもらう
一度締め切りを破った部下や取引先に対して、次に締め切りを守ってもらうには、どうしたらよいのでしょうか。やはり「次に守らないと、損をする」ことを理解してもらうしかありません。
部下には、またこんなことが続いた場合は、周りから信頼を失い、評価を下げるのでキャリアにも悪い影響があることをはっきりと伝えます。ただ、単にこうした警告をするだけでなく、評価すべきところは評価しており信頼はしていることや、次回期限を守ることができるよう、できる限りの支援はするということも、あわせて丁寧に伝えましょう。
「期限は守れていなかったけれど、仕上げてくれた資料の内容はとてもよかった。それが、期限を守れなかったということで評価を大きく落としてしまうのはとてももったいないと思っているんだ。一度言えば、ちゃんとできる人だと思っているから次はぜひ頑張ってほしい。どうしたら期限通りに仕上げられるか、自分でも考えてみて。そのために必要な支援があれば、遠慮なく言ってほしい」などです。
取引先も同様です。「次回また同じことが起きたら、納期が遅れたことで発生する経費や設備費を、請求せざるを得ない可能性があります」など、くぎを刺しておきましょう。
■サポートの姿勢もしっかり見せる
ただ、部下の場合と同様、ただ警告するだけではなく、「今回は、大変な状況のところをご協力いただきありがとうございました。私も御社の商品の品質は高く評価していて、ぜひお付き合いを続けさせていただきたいと思っています。もし納期を守るのが難しそうでしたら、早めに言っていただければできるだけのサポートはしますので」など、評価すべきところはしっかり評価し、サポートしたいという姿勢も伝えましょう。
一方で、「納期遅れは他部署から非常に厳しく言われるので、このようなことが続くと、私たちの立場もつらくなります。こういったケースが続けば、取引を考えざるをえなくなってしまうので、ぜひ今後は納期を守るようにしていただきたいです」など、最悪の場合は今後のつき合いがなくなるかもしれないことを伝えてもいいでしょう。
締め切りが守れない人は、今後もずっと守れないままというわけではありません。「期限を守らないと自分のためにならない」と強く実感するような経験をして学んだり、期限を守れるようになるために必要な支援を得られたりすれば、変わる可能性があります。
ただ、適切な対応方法は、相手によって違います。「なぜ期限を守らない/守れないのか」という理由などに応じて異なるのです。相手に期限を守ってもらうことは、自分の仕事をスムーズに進め、チーム全体の効率を上げることにもつながります。ぜひあきらめず、うまくサポートしてほしいと思います。
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井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。
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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)