だから秋以降に伸び悩む…中学受験のプロが「小6夏の後半戦で受けてはいけない」という授業の種類
■夏休みの講習から「アウトプット中心の授業」に変わる
入試本番を半年後に控える6年生にとって、夏休みは受験勉強に集中できる絶好のチャンス。ところが、すべてを犠牲にして勉強一色の日々を送っても、その成果がなかなか表れにくいという厳しい現実がある。みんなが頑張るからそう簡単には成績が上がらないという見方もあるだろう。だが、それだけが理由ではない。夏休みを有意義なものにできる子とできない子の決定的な違いは何か。
それは、前半戦の授業の受け方と、後半戦の過ごし方にある。
6年生の1学期までは、新しく学習する単元の概念説明から始まり、授業中に類題を解かせ、宿題で定着させるという流れのインプット学習だった。そのため、授業では先生の話を聞くことが中心だった。しかし、夏休みの講習はいきなり問題を解くことから始まり、演習と解説をひたすら繰り返す。つまり、これまで学習してきた知識をどこまで利用できるかをチェックするアウトプット中心の授業に変わっていくのだ。
ところが、多くの子供たちはそれを意識せず、これまでと同じように受け身の姿勢で授業に参加する。すると、集中力が高まらないまま、よく分からない問題を前にただただ頭を抱え、時間だけが過ぎてしまうのだ。
■夏期講習で最も重要なのは「目の前の一問に集中する」こと
1学期までの授業は、知識を増やし、公式を覚え、それを使える状態にするといった「学力を高める」ことが重要だった。しかし、夏休み以降は合格点に一歩でも近づくために「得点力を高める」ことが目標になる。6年生の夏期講習で最も重要なのは、目の前の一問に対して「絶対に解いてみせるぞ!」という意気込みで、集中することだ。まずは問題文をしっかり読み、「今分かっていることは何か」「この問題では何を求められているのか」「あと何が分かれば答えを導くことができそうか」を整理して考える練習をする。これを繰り返すことで、入試に対応できる実践力を鍛えていくのだ。
講習でたくさんの問題に触れると、今持っている力がどのくらいかが見えてくる。多くの子の場合、今はまだ未完成の状態で、知識の不足や、文章の読み方や考え方、条件整理のやり方、気持ちの持ちようの部分など、欠点が浮き彫りになる。それを8月の後半で見直し、弱点を補強していくのが理想だ。
■「オプション講座」を受けるより自習したほうがいい
ところが、多くの塾では、夏の後半にオプション講習が設けられている。しかも、オプションとは名ばかりで、ほぼ強制的に受講するよう勧めてくる。単科講習だったり、志望校別の演習講座だったりと塾によって中身はいろいろだが、正直言うと生徒全員に必要不可欠なものというわけではない。
例えば志望校別講座は、開成、麻布といった難関校を志望している場合はそれに対応した冠コースが用意されているが、それ以下の学校を目指す場合は十把一絡げになっていて、入試対策に直接つながるものではないからだ。また、冠コースの場合でも、今の段階で入試対策ができるまでの力を持っている子はほんの一握り。その他大勢の子は単に志望しているだけで、まだまだその講座を受けるだけの力を備えておらず、「講習を受けてみたけどさっぱり分からなかった」とかえって自信をなくしていることも多い。
それならば、「受けない」選択をするほうが賢明だ。代わりに、その1週間を苦手単元の克服や、前半の講習内容の見直しをする時間に充てるべきだ。
■「頑張っているのに…」疲労感が募りやすいオプション講座
6年生の夏の講習は、演習と解説のくり返しだ。ただ、あらかじめカリキュラムに組み込まれている前半の夏期講習と、後半のオプション講座とでは、その中身は異なる。前半の講習は1つの単元の問題を解かせたら解説をし、次は別の単元の問題を解かせるという流れで、約10分間隔でいろいろな問題に触れていく。そのため、自分はどの単元が苦手であるかが把握しやすい。それが克服できれば、得点力は確実に上がっていくだろう。ところが、すぐに後半の講習が始まってしまうので、知識の整理や苦手克服ができないまま先に進むことになる。
一方、後半のオプション講座は、あらゆる単元がミックスされた入試に近い状態の問題を40分くらいかけて解かせ、最後にざっと解説をするという流れになる。その中には当然、苦手な単元が1つ、2つと含まれているので、夏休み中、毎日頑張って塾に通っているのに得点力につながらないという現実を突きつけられ、疲労感だけが募っていく。
だからこそ、この1週間を有意義なものにしてほしい。
■「なぜこの公式を使うのか」を納得して覚える
だが、闇雲に勉強してはいけない。例えば算数の「速さ」の単元に苦手意識があれば、自分はどういう問題のときは解けて、どういう問題になると分からなくなってしまうのかを細かく見ていく必要がある。上位層の子の場合、速さの基礎概念は理解できているけれど、ダイヤグラムの複雑な問題は苦手というのであれば、その部分だけ見直しておけばいい。だが、中位・下位層の場合は、基本知識からの確認が必要になることがほとんどだ。そういう場合、ただ公式を頭に詰め込むのではなく、「なぜこの公式を使うのか」、「どんなときに使える公式なのか」を納得して覚えることが大切だ。でなければ、時間がたつとすぐに忘れてしまう。
また、理科・社会の知識が足りないと分かったときに、一問一答のドリルを使って丸暗記をしようとしても意味がない。近年の入試は知識そのものを聞く問題はほぼ出題されないからだ。そういう場合は、テキストの説明に戻って「なぜそうなのか」という理由や因果関係を理解することから始めなければいけない。しかし、こうした学習にはある程度まとまった時間が必要だ。また、心の余裕がなくてはいけない。
■まとまった時間が取れる最後のチャンス
夏休みの後半1週間は、そういう時間が取れる最後のチャンスだ。たった1週間ではあるけれど、この1週間がとても大きい。なぜなら、秋からは過去問対策が始まり、ますます時間に余裕がなくなるからだ。ひたすら走り続ける勉強をしていると、苦しいだけで、ゴールにたどり着けなくなってしまう危険性がある。だからこそ、ここで一旦呼吸を整え、正しいフォームで走れているか勉強のやり方を見直し、秋以降スムーズに走りきれるよう確認をしておくことが大事なのだ。
この1週間の過ごし方が、その後を決めるといっても過言ではない。与えられたコースから外れるには勇気がいるが、今わが子にとって何が一番大切かをしっかり見極めてほしい。
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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。
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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)