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大阪・ミナミのなんばグランド花月横のスタジオには、芸人ではない「タムケン」がいた。田村健一弁護士は、ひとりぼっちにさせへん!プロジェクトのリーダーを務め、グリコ看板の下、通称「グリ下」に集まる子どもたちの支援をしている。

進学や就職、性の問題…相談は多岐にわたる。「(性被害や虐待など)もし僕が同じ境遇だったら、とても生きていけないと感じたこともあります。つらくて薬の過剰摂取(オーバードーズ=OD)した何人もの子どもが、集中治療室に入るのも見てきました」

関わった少女2人が自死したこともあった。精神科で処方される薬を、生活保護受給者が横流ししているという情報もある。「ほんまに許せへんですよ。依存性があるから高く売れる」。一人でも多く、負の連鎖から抜け出せるようにと願い、活動を続ける。

●生活保護受給者がクスリを横流し

田村弁護士は、ODについて百害あって一利なしと感じているという。本人の体や心をむしばむだけでなく、救急搬送されれば周りの友人たちも戸惑い、不安になる。

「市販の咳止め薬メジコンが主流ですが、睡眠導入剤のサイレースやデパスは処方薬なのに、子どもたちの間で出回っています。西成地区で闇売買されている。生活保護受給者が横流ししているんです。危険ドラッグが厳罰化されてからODに取って代わっている」

ODは一つの自傷行為だ。刃物などで傷つけるリストカットは当事者の会があるものの、ODの当事者は見えづらい。家族会を求める声もあるという。

販売規制など入手ルートを断つよりも、背景にある悩みの解決が先決だと田村弁護士は分析する。悩み苦しむ子どもの中には「彼氏がODをやらないから、もうやめた」など抜け出した子は多くいるという。肝心なのは「信頼できる人との関わり」だ。

「誰でも大なり小なり欠けているところがあります。親御さんは、子どもの伸びるところを見てほしい。足りなければ、みんなで補い合えばいい。負の連鎖は一人で断ち切ることはできません」

●真剣に向き合う大人の姿を見せる

一人一人の相談に乗り、就職が必要ならば会社の社長を紹介し、精神的なケアが必要ならば医師や専門家につなぐ。家がないなら、行政機関へも掛け合う。5月には地元のコミュニティFMに出演し、現状について語った。

「グリ下を抜け出し、本来はみんな自分のやりたいことを見つけたい。でもきっかけがないねん。きっかけを作っていくのが僕たちの活動の肝です」

関西弁でよどみなく話しているが、実は東京出身。大阪だからこそ「お節介」ができる土地だと感じている。

「東京のトー横(新宿・歌舞伎町の東宝の横)では売春が横行するなど既に大人が子どもを利用し始めている。グリ下はそこまでではないけれど、この1、2年で解決せにゃならん問題だと思ってます」

田村弁護士によると、グリ下キッズは不良や問題児と言われるタイプの子どもたちではないという。

「TikTokやTwitterで流れてくるグリ下の動画は楽しそう。わくわく、キラキラして見える場所なのかもしれない。最近は小学生も見かけます」

プロジェクトは2020年ごろから始めた。外出自粛で学校にも家にもいられなかったコロナ禍が、一つの大きな背景だと田村弁護士は説明する。最初は一人で活動していたが、協力者が増え、だんだん形になってきたと感じている。

地域の名店「串かつだるま」やお好み焼き専門店の「千房」社長らもアルバイトの採用などで協力。大人が真剣に向き合うところを見せて、活動を形にしようと日夜走り回る。

ラジオ後は昼食も取らずにグリ下へと飛んでいった田村弁護士。弁護士のハードルを徹底的に下げることが目標だという。

【取材協力弁護士】
田村 健一(たむら・けんいち)弁護士
ひとりぼっちを作らない!をモットーに いじめ、ひきこもり、更生の問題の解決に熱く取り組む。
https://youtube.com/@tamukenteacher
Twitter:@tamukenteacher
事務所名:田村綜合法律事務所
事務所URL:https://tamura-law-office.com/