なぜ「ヤフーニュース」に責任なしとされたのか? 東スポの「名誉毀損」のみ認めた判決詳報
芸能人が、新聞社のネット記事だけではなく、配信先のヤフーニュースにも責任があるとして、新聞社とともにヤフーまで訴えた。
東京地裁(中島崇裁判長)は3月29日、記事による名誉毀損を認めて、新聞社に165万円の支払いを命じた。一方、ヤフーニュースには責任がないという判断を示した。
情報の入手先として、多くの人が閲覧するニュースプラットフォームの責任は、どのように判断されたのか。(編集部・塚田賢慎)
●東スポ記事の名誉毀損は認定された
この裁判を起こしたのは、俳優の山本裕典さんだ。
山本さんは2020年7月、新型コロナ「陽性」を発表したが、当時、主演舞台でクラスターが発生していた。
東京スポーツは同年7月13日、〈大規模クラスター!山本裕典主演舞台 公演強行の罪『賠償請求されてもおかしくない』〉と題したネット記事を公開。同じ日、記事はヤフーニュースで配信された。
争点の1つは、上記の記事による名誉毀損が成立するかどうか。(1)〈良からぬ噂も多いイベンター男性と組み、東京・六本木などで主催パーティーを開いては、ハメを外してきた〉(2)〈今回の件で山本裕典は業界の信用を失った〉という記載について検討された。
東京地裁の中島裁判長は、それぞれの記載が、山本さんの名誉を毀損する違法な表現だと認めた。これを踏まえて、記事を公開した東スポの責任があるとした。
●ヤフーの責任はどう判断された?
もう1つの争点は、配信先のヤフーの責任の有無だった。結論として、判決はヤフーの責任を認めることはできないとした。
ここで争われたのは、ヤフーへの記事配信について、プロバイダ責任制限法の3条1項本文が適用されるか否かだ。
所定の要件を満たした場合に、プロバイダ等に損害賠償責任が生じないと定められている。
ヤフーは、今回の記事が仮に名誉毀損に該当したとしても、同法3条1項本文が「適用される」という立場だ。記事について責任を負うのは、この条文で定められた条件に該当する場合に限ると主張した。
ヤフーニュースの記事掲載において、ヤフーは個別で確認せず、記事配信契約を結んだ提供元(新聞社や通信社など)が、ヤフーニュースの管理サーバに入稿することで、自動的に掲載される仕組みとなっている。
東京地裁は、今回のケースで、上記の条文が適用されるためには、「特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたとき」に該当し、ヤフーが「関係役務提供者」であることが要件となると指摘した。
そのうえで、ヤフーニュースへの記事配信は「特定電気通信」にあたり、その流通によって山本さんの名誉が毀損されているから、「特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたとき」に該当し、また、ヤフーはヤフーニュースの記事を掲載するためのサーバを管理していることから「特定電気通信役務提供者(関係役務提供者)」に該当するとした。
ただし、入稿に関与していないとして、ヤフーはプロ責法3条1項のただし書における「発信者」に該当しないとした。
したがって、今回の記事の流通による名誉毀損に関して、この条文が適用されると結論づけ、ヤフーの責任を認めないと判断した。
なお、「発信者」にあたるかどうかを考えるうえで、ヤフーでは社内編集部がヤフーニュースのトップページに掲載する記事(いわゆる「ヤフトピ」)を選定しているが、今回の記事がヤフトピに掲載されたものではないといった事情を踏まえると、ヤフーの意思によって流通過程に置かれたと評価するのは困難ともしている。
●当事者の判決受けとめ
今回の判決を受けて、山本裕典さんは弁護士ドットコムニュースの取材に次のようなコメントを寄せた。
「今回の記事に対する名誉毀損が認められたことは、私自身、大変嬉しく思います。他方で、記事の配信について、ヤフー株式会社の法的責任が認められなかったのは非常に残念です。今回の判決によって、名誉毀損となる記事に苦しまれる方々が、一人でも多く減ることを強く望みます」
山本さん側は、判決文を精査したうえで控訴を検討するとしている。
ヤフーは「ニュースポータルサイト運営者としての当方の主張が認められたものと思っております。掲載いただくコンテンツにつきましては、今後の記事品質維持の対応を検討してまいります」とコメント。
東京スポーツ新聞社は「当方の主張が認められず、残念です」とコメントした。
(3月30日・東京スポーツのコメントを追記しました)