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社会学者で東大名誉教授の上野千鶴子氏が、3月15日発売の『婦人公論』(4月号)に寄稿し、歴史学者・色川大吉氏と「入籍していた」と報じた『週刊文春』(2月22日発売)に反論した。上野氏は「正確には『婚姻届を提出した』と書くべき」とした上で、色川氏を看取ったことや亡くなる直前に婚姻届を提出するに至った事情などを綴った。

『婦人公論』に寄せた原稿で、上野氏は日本では手術の同意書や役所の各種手続きなどにおいて家族が優先されることをあげ、「家族主義の日本の法律を逆手にとるしかないと思い至った」と提出に至った事情を説明する。

婚姻届の提出はプライベートな出来事で、理由は様々にあるはずだが、上野氏が指摘したように、日本では出生や死後の手続きにおいて「家族」という関係性が優先されやすい場面が多々あることもたしかだ。その一つで、事実婚のカップルが直面する問題が相続である。

一般的に、婚姻届を提出することで、相続において、どのような利点があるのだろうか。山口政貴弁護士に聞いた。

●最大の利点は「法定相続分が認められること」

ーー婚姻届を提出することで、相続の観点からどのような利点があるのでしょうか。

「相続の観点から考えて最大の利点は、法定相続分が認められるということです。

男女が夫婦同然の生活をしていても、婚姻届を出していない場合は『内縁関係』となり、原則として相続分が認められません。一方が死亡した際に婚姻届が出されていなければ、原則としてパートナーは財産を相続することができないということになります。

一方、婚姻届が出されれば、たとえ死亡直前に出されたとしても有効なので、法定相続分が認められます。子どもが一人いた場合は、相続分は子どもとで2分の1ずつということになります。

また、相続税の点からも婚姻には大きなメリットがあります。たとえば、遺言で『パートナーに財産を遺贈する』と残しておけば、ふたりが結婚していなくても、相手の財産を取得することができますが、相続税が発生することになります。

税額は取得額によって異なりますが、たとえば遺贈で5000万円を取得した場合であれば、相続税はおよそ1200万円となります。一方、入籍して夫婦となっていれば、原則として相続する財産が1億6000万円までであれば、相続税はかかりません」

ーー婚姻に伴い、上野氏ではなく、色川氏が改姓したとされています。改姓した場合でも、相手が亡くなった後に氏を元に戻すことはできるのでしょうか。

「はい。仮に、上野氏が改姓して『色川』姓になったとします。色川氏が亡くなった後に『上野』姓に戻したいのであれば、役所に『復氏届』を出すことで『上野』姓に戻すことができます」

【取材協力弁護士】
山口 政貴(やまぐち・のりたか)弁護士
サラリーマンを経た後、2003年司法試験合格。都内事務所の勤務弁護士を経験し、2013年に神楽坂中央法律事務所を設立。離婚、婚約破棄等を専門に扱っており、男女トラブルのスペシャリストとしても知られる。
事務所名:神楽坂中央法律事務所
事務所URL:http://www.kclaw.jp/index.html