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日々問題なく働いている人でもいつ労働トラブルに巻き込まれるかわかりません。パワハラ、労災、長時間労働などのトラブルは今もなくなっていないのが現状です。

トラブル発生に備え、過去の裁判例を通じて、実際に発生した労働トラブルとその結末を知っていれば、いざという時の助けになるかもしれません。

今回紹介するケースは、電話があれば顧客対応しなければいけないのに「事務所での待機時間中だから」と支払われなかった給料を求めて提訴した事例です。林孝匡弁護士の解説をお届けします。

●事案の概要

こんにちは。
弁護士の林孝匡です。
宇宙イチわかりやすい解説を目指しています。

今回は裁判例のザックリ解説です。

待機時間って、給料もらえるの? が争われた裁判です。

社員さんが ↓ こんな不満を持っていたのだろうと思います。
・待機時間でも顧客から連絡が入れば対応しないとダメ
・なのに、この時間分の給料は払われていない...

という方が提訴!

〜 結果 〜

地裁では・・・社員さんが負けました...。

しかし、高裁で逆転! 111万円の請求 + 22万円(会社へのお仕置き)が認められました。
(システムメンテナンス事件:札幌高裁令和4年2月25日判決)

待機時間でも給料を請求できる可能性があります。

この記事では、以下の内容をメインにお伝えします。

・緊張感ある待機時間ってあるよね
・そもそも労働時間とは?
・地裁で負けたけど高裁で勝ったワケ
・残業代請求が認められた場合の「会社へのお仕置き」

それでは参りましょう!
Here we go!

●どんな事件?

ザックリ林流に捉えると、
・この時間たしかに仕事してないけど
・連絡が入れば対応せなアカンやん
・この待機時間って、けっこう緊張感あるのよ
・なので、この時間分の給料を払ってよ!
って感じです。

本題に入ります。

Xさんは、駐車場メンテナンス会社に勤めていました。
主な仕事は、駐車場の定期点検です。
会社はお客さんに対して24時間365日の緊急対応を約束していました。

素晴らしいことなんですが、そのしわ寄せがくるのは社員さんですよね。

Xさんは不満を持っていたのでしょう。

・事務所で待機してる時間分の給料が支払われない
・事務所以外でも携帯を持たされて
・TELが入れば顧客対応をしなければならないのに
・その待機時間分の給料が支払われない...と

Xさんはその時間分の支払いを求めて提訴しました。

●地裁の判断

無念...

地裁では、Xさんは負けちゃいました。

地裁はザックリ
・その待機時間って、労働から解放されてるよね
・会社の指揮命令下にないわ〜
・なので、その時間って労働時間じゃないのよ
と判断しました。

控訴!

●高裁の判断

高裁で逆転!

111万円の残業代+22万円(会社へのお仕置き)が認められました。

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▼ 労働時間って、なに?
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まずは大原則を。

待機時間だったとしても、労働からの解放が保障されていない場合は労働時間なんです。
「会社の指揮命令下にある」ということで労働時間になります。
最高裁でそう判断されているんです(三菱重工業長崎造船所事件:最高裁平成12年3月9日判決 、大星ビル管理事件:最高裁平成14年2月28日判決 、大林ファシリティーズ事件:最高裁平成19年10月19日判決)。

ここからが本丸です。

Xさんの待機時間は、労働からの解放が保障されているのか、いないのか?
どっちなんだい!
#なかやまきんに君

さて、高裁は、2つに分けて判断しました。
なかやまきんに君のようにズバリとはいかないのが裁判です。

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(1) 事務所で待機している時間(○ 請求を認めた)
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まずは、事務所で待機している時間。
午後7時30分ころまで待機していたんです。
これについては「労働から解放されていないよ、労働時間だわ」と判断。

理由は、
・たしかにその時間、買い物に行けたしネットも使えたけどさ
・顧客から電話が入ると速やかに現場に向かうよう義務づけられていたし、
・会社もそれを認識して容認してたよね
というもの。

これは労働から解放されてないので労働時間だ!と判断。

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(2) それ以外の時間 (× 無念)
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会社はXさんに会社用の携帯を持たせていました。
高裁は、事務所【以外】で待機している時間については「労働から解放されているわ」と判断。

理由は、
・たしかに、TELが入った場合には応答して、必要があれば現場対応が必要だし
・遠方に出かけることやアルコールを飲むことを禁止していたけど
・それ以上に行動を制約していないじゃん
・TELが入った確率は約33%
というもの。

高裁は、この時間はいわゆる呼び出し待機の状態と判断。
労働からの解放が保障されていたと認定しました。

というわけで、(1)の【事務所で待機している】時間分だけの請求を認めました。

■ 林の意見
裁判所は呼び出し待機の時間を労働時間と認めない傾向があります。
これ、納得いかへんのよな〜。
あれ、結構キツくないですか?電話くるかもしれないドキドキ感。
裁判官さん...呼び出されるかもしれない緊張感って、ご理解して存じ上げ候?
#敬語ヘタクソ
裁判官は呼び出されることなんかあり得ないからな〜。
「労働から解放されてない!」と判断する裁判官が登場してほしいですわ。

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▼会社へのお仕置き
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さて、残業代請求には【お仕置き】があるんです。
付加金という制度です。

労働基準法114条
裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第9項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から5年以内にしなければならない。

高裁は、残業代の2割(=22万円)のお仕置きをしました。

Q.
金額はどうやって決めるんですか?

A.
裁判所のサジ加減一つです。
残業代不払いに至る経緯、その違反の内容や程度、労働者の不利益の内容や程度をミックス判断して金額を決定します。
ゼロの時もあります。
逆に「倍返しだ!」を命じることがあります。
仮に今回が倍返しだとすると、残業代111万円+付加金111万円。キョーレツです。

●さいごに

待機時間の給料をもらっていない方へ。

ポイントは「その時間が労働から解放されているかどうか」です。
解放されていれば・・・給料をもらえない。
解放されていなければ給料をもらえる!ことになります。

といっても、ご自身で判断するのはゲキムズです。
(地裁と高裁で判断が分かれるような難しい問題ですし)

今はリモートワークが進んでいるので、今後は遠隔での管理が問題になってくるかもしれません。

会社から「別に何しててもいいけど、●分以内には対応してね〜」と言われてる方は、労働から解放されていない可能性があります。

この緊張感、キツイな〜と感じる方は、一度、労働組合か弁護士に相談してみましょう。

今回は以上です。
これからも働く人に向けて知恵をお届けします。

ではまたお会いしましょう!

【筆者プロフィール】林 孝匡(はやし たかまさ):【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。働く方に知恵をお届けしています。HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1