共用トイレで「便座上げといて」男性社員が女性社員に要求 裁判所は「セクハラ」を認めた?
日々問題なく働いている人でもいつ労働トラブルに巻き込まれるかわかりません。パワハラ、労災、長時間労働などのトラブルは今もなくなっていないのが現状です。
トラブル発生に備え、過去の裁判例を通じて、実際に発生した労働トラブルとその結末を知っていれば、いざという時の助けになるかもしれません。
今回紹介するケースは、同僚の女性社員に「トイレ使ったなら便座上げといてよ」とセクハラ発言を繰り返したとして戒告処分を受けた男性社員が慰謝料を求めて会社を訴えたという事例です。林孝匡弁護士の解説をお届けします。
●事案の概要
こんにちは。
弁護士の林孝匡です。
宇宙イチわかりやすい解説を目指しています。
今回は便座の上げ下げを巡るセクハラ事件です。
裁判例をザックリ解説しますね。
男性社員が女性社員に対してこんな発言をしました。
「(このトイレは)基本、男性用やから、男性用使わしてもらんやからー、下ろしたもんは、上げといてよ」(カッコ部分は筆者が追記)
会社は、他の発言なども問題視して男性社員に戒告処分を出しました。
すると男性は「戒告処分により人格権を侵害された」として会社を提訴。
約75万円の損害賠償請求をしました。
〜 結果 〜
男性社員は敗訴!請求が棄却されました。 (大阪地裁令和3年3月29日判決)
裁判所は「その発言、セクハラでしょ」と判断しました。
男性社員はこのほかに残業代請求などもしてますが、今回はセクハラに絞ってます。
この記事では、以下の内容をメインにお伝えします。
・何が性的言動に当たるのか
・裁判所の着目点
・処分が妥当と判断されたワケ
それでは参りましょう!
Here we go!
●少なくとも3回発言「便座上げといてよ」
有料道路の料金収受業務を行う会社での事件です。
男性社員が女性社員に対して、トイレの使用後は便座を上げるよう伝えました。 このような発言は【少なくとも3回】と認定されています。
会社は、男性社員の他の発言や聴取状況などを考慮した上で戒告処分を出しました。 以下の就業規則に基づく処分です。
第14条(セクシュアルハラスメント及びパワーハラスメントの禁止)
1 社員は、個人の尊厳を重んじ、相手方の望まない性的言動により、他の社員に不利益 を与えたり、その就業環境を害すると判断される行為を行ってはならない。
2 (省略)
第76条(懲戒)
社員がこの規則に違反したときは、違反の程度により次の処分を行う。
一 戒告 始末書を取り将来を戒める。(以下省略)
男性社員は「戒告処分により人格権を侵害された」として会社を提訴。 約75万円の損害賠償請求をしました。
●裁判所の判断
男性の請求は棄却されました。
裁判所はザックリ、
・男性社員の発言は就業規則の【性的言動】にあたる
・戒告処分は問題なし
・なので、損害賠償請求は認めないです
と判断。
以下、
▼【性的言動】とは何か?
▼ 男性社員の発言は【性的言動】にあたるか?
▼ 戒告処分はOKか?
の順に解説しますね。
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▼【性的言動】とは何か?
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もう一度、就業規則を見てみましょう。
第14条(セクシュアルハラスメント及びパワーハラスメントの禁止)
1 社員は、個人の尊厳を重んじ、相手方の望まない性的言動により、他の社員に不利益 を与えたり、その就業環境を害すると判断される行為を行ってはならない。
男性社員の主張はこうです。 「各発言には性的な意味は含まれないから【性的言動】にはあたらない」というもの。
しかし裁判所は男性社員の主張を粉砕。 「【性的言動】には『女性だから・・・』という性別により役割分担すべきとする意識に基づく言動も含まれる」と解釈しました。
就業規則だけではなく「料金所スタッフ業務マニュアル」の内容も加味して上記の様な解釈をしました。このマニュアルには「セクシュアルハラスメントとは、他人に不快な思いを与える性的な言動や、「女性だから・・・」という性別により役割分担すべきとする意識に基づく言動を言います」と定められていたんです。
ひとまず【性的言動】の解釈が終了で、ここからが本丸です。
Xさんの発言は【性的言動】にあたるのか?
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▼ 男性社員さんの発言は【性的言動】にあたるか?
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裁判所は以下の点に着目しました。
・男性社員が部長2名に対して、男性トイレを使うのに下ろしたものをなんで上げてくれないのかなどといった話を繰り返したこと
・女性社員に「基本、男性用やから、男性用使わしてもらんやからー、下ろしたもんは、上げといてよ」などと発言
結果、「本件各発言は、女性が男性も使用するトイレを使用した場合には、後に使用する男性のために便座を上げるべきという、性別により役割分担すべきとする意識に基づく言動にほかならないので【性的言動】にあたる」と認定しました。
詳細は割愛しますが、女性社員に不利益を与えたということで就業規則に違反すると判断しました(つらい思いをして何回も病院に行かれたようです)。
となると、戒告処分の可能性が出てきます。以下の規定があるので。
第76条(懲戒)
社員がこの規則に違反したときは、違反の程度により次の処分を行う。
一 戒告 始末書を取り将来を戒める。(以下省略)
というわけで、お次は、
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▼ 戒告処分はOKか?
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「男性社員の発言で戒告処分するのって妥当?」というお話です。 裁判所は以下のとおり判断しました。
■ まず、手続違反はない
ザックリいうと「キチンと男性社員の言い分を聞いたよね」というもの。 具体的には「賞罰委員会において男性社員に対する告知と聴聞の機会を与えられていないこと等につき、手続違反には該当しないだけでなく、実質的に見ても、男性社員に対し告知と聴聞の機会が与えられている」と認定。
お次は、本丸。
■ 戒告処分をしたこことも妥当だ
理由については以下のとおり述べています。
・3度にわたり女性社員に対し、ハラスメント発言をした
・部長から注意を受けても、少なくともそのあと2度、同様の発言をした
・事情聴取等をした部長らに対して、「下ろしたものをなんで上げてくれないのか」などといった話を繰り返す
・部長から「上げとけということ自体が間違っており,前に言ったことを全然わかっていない」として叱責を受けたあとも
・「謝るような問題なんすかねー」と発言
・自己の発言に対する問題性を 十分に認識しているとは認められない状況
・戒告処分は懲戒処分の中で最も軽い
というわけで、戒告処分はOK!(=社会通念上相当)と判断しました。
●さいごに
「女性だから○○」「男性のくせに●●」のような発言はパワハラに該当する可能性が高いです。私は息子に対して「男なんやからメソメソすな!」と言ってしまうことがありますが、実社会で出ないよう注意します。
今回は以上です。
これからも働く人に向けて知恵をお届けします。
ではまたお会いしましょう!
【筆者プロフィール】林 孝匡(はやし たかまさ):【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。働く方に知恵をお届けしています。HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1