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俳優の山本裕典さんが、自身について書かれた記事は名誉毀損だとして、新聞社を訴えて裁判を起こしている。ただ、記事の配信先である「ヤフーニュース」を運営するヤフーもあわせて被告としており、日本最大級のニュースプラットフォームの責任を問う性格も持つものだ。

山本さんは2022年10月の本人尋問で、公開された記事、配信された記事によって、誹謗中傷を受け、自死まで考えたとして「死にたいと思うくらい追い詰められました。私は記事を掲載し、そしてそれをさらに配信し、拡散した被告らを本当に許せません」と涙ながらに話した。

記事を書いた東京スポーツ側と、配信先のヤフー側は、記事が名誉毀損にあたらないとして、請求棄却をもとめている。また、ヤフーは国民の知る権利と個人の権利侵害との調整の中、適切な対応をとっているとの考えを示し、配信された記事の責任を負うものではないと反論した。

裁判は2022年12月21日に弁論終結し、今年3月に判決が言い渡される予定だ。(編集部・塚田賢慎)

●山本さんは新型コロナクラスターが発生した舞台に出演していた

裁判で問題とされているのは、東スポが2020年7月13日に公開したネット記事〈大規模クラスター!山本裕典主演舞台 公演強行の罪『賠償請求されてもおかしくない』〉と、同日配信のヤフーニュースの記事だ。

山本さんは記事が出された7月に、新型コロナウイルス感染を公表した。当時、主演舞台「THE★JINRO イケメン人狼アイドルは誰だ!!」(​​6月30日から7月5日)においてクラスターが発生していた。

記事では、舞台でクラスターが発生した件に触れながら、山本さんについて、

〈良からぬ噂も多いイベンター男性と組み、東京・六本木などで主催パーティーを開いては、ハメを外してきた〉 〈今回の件で山本裕典は業界の信用を失った〉などと指摘。

また、ヤフーニュースの記事のコメント欄(ヤフコメ)には、「これを機に山本の人脈を徹底調査すべき。必ずどこかで反社と結びつく。今回の件も含めて。損害賠償は言うまでもないが、ヘタすりゃ逮捕されるかも」などの誹謗中傷にあたる投稿がなされたとした。

山本さんは、このような記事の記載は虚偽であり、記事全体を読めばクラスターの原因が山本さんにあるとの印象を読者に与えるもので、社会的評価を低下させるなどとして、2020年9月、東スポとヤフーを相手取り、慰謝料など計220万を求めて東京地裁に提訴した。

東スポとヤフーはともに、記事は名誉毀損にあたらないとし、請求棄却をもとめている。

また、東スポは、山本さん側からの記事削除要請を受けて、掲載翌日には東スポのニュースサイトから削除し、ヤフーへの配信記事も同日のうちに掲載を中止しており、「わずか1日にも満たない期間であり、掲載によって原告に不利益が生じたとはいえない」などと主張している。

●ヤフーによる反論

裁判記録によれば、ヤフー側の主な主張はこのようなものだ。

まず、ヤフーニュースに記事が掲載されたのは、東スポが掲載したためであって、ヤフー側が掲載・配信を決定しているわけではないというもの。 月間で約225億PV(2020年当時)を記録するヤフーニュースは、「国民の知る権利に資する重要な社会インフラ」として、国民の知る権利と個人の権利侵害との調整の中、適切な対応をとっているとの考えを示した。

毎日数多く配信される記事をヤフー側で事前チェックして、掲載可否を判断することは不可能であるため、具体的には、情報提供元は信頼できるメディアとし、さらに権利侵害にあたるものを掲載しないとの取り決めをかわしたうえで、また、問い合わせがあった場合は、情報提供元に速やかに適切な対応をうながしているとしている。

なお、ヤフコメで、山本さんの社会的評価が低下しているという主張には、次のように反論している。

「コメントは、それ自体が原告の社会的評価の低下をもたらすもので、記事が掲載されたことにより原告の社会的評価が低下したわけではない。したがって、記事に対するコメントをもって社会的評価が低下したとする主張には理由がない」。

●ヤフーの責任を認めた「三浦和義さん写真掲載」判決

過去には、「ロス疑惑」で知られる三浦和義さんの訃報を報じた新聞社の記事(写真)をめぐり、配信先のヤフーの責任を認めた判決(東京地判平成23年6月15日)が出ている。

〈本件サイトに人の人格的利益を侵害するような写真が掲載されないよう注意し、掲載された場合には速やかにこれを削除すべき義務を負うものと解するのが相当である〉(判決文から)

山本さん側は、今回の裁判でも、この先例を自らの主張を支えるもののひとつとしているが、ヤフー側は、この判決については、記事が速やかに削除されなかった事案でヤフーの責任が認められたに過ぎないと反論した。

●山本さんの本人尋問で語られた言葉

2022年10月14日の口頭弁論では、山本さんの本人尋問がおこなわれ、舞台の状況や、記事による損害について証言した。

まず、舞台の感染対策を講じたり、体調不良者が出た場合に出演中止の権限をもつのは「主催者側」であり、座長をつとめる山本さんではないとした。

また、記事によって、主演舞台やドラマ、広告の仕事に影響が出たという。

法廷で山本さんは「全部、僕が悪だと、全部、僕が責任を負うべきだと、損害賠償は僕が負うべきだという今回の記事。よくわからなくて、すごくつらかった。大袈裟かもしれないけど、死にたいなって思いました。何度も自殺を考えました」と声を震わせた。

「この記事を掲載した被告は、僕は本当に許せないし、ヤフーさんも、そのコメント欄とかで誹謗中傷とかむちゃくちゃ受けて、その中にも心無いコメントもいっぱいあった。それを転載するサイトもありました、街歩いてても、後ろ指をさされる感じがして、本当、許されないです」

山本さんは陳述書で、多くの芸能人がメディアの記事、それが配信されるヤフーニュースに苦しめられているとしている。

「私には多くの俳優、芸能人の友人がいますが、同じように、このような一方的に誹謗中傷を行う報道や配信に苦しめられ、精神的に追い詰められています。さらにヤフーニュースに関しては、コメント欄でさらに誹謗中傷に遭いますし、多くの人の目に留まるため、SNSで転載されやすく、さらに多くの誹謗中傷につながります」(山本さんの陳述書)

紹介してきた東スポやヤフー側の主張は、2年以上前となる2020年当時の考えも含まれている。ヤフーは2022年11月15日に、ヤフコメ欄への投稿には、携帯電話番号の登録を必須化する対策などをとっている。

●結審して、判決を待つ山本さんと各社は

弁護士ドットコムニュースでは2022年末に裁判の当事者にコメントを求めたが、3者とも差し控えるということだった(山本さんは代理人が対応)。