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東京五輪・パラリンピックのテスト大会をめぐる入札談合事件で、東京地検特捜部と公正取引委員会が、独占禁止法の疑いで、電通や博報堂など、広告代理店を家宅捜索したと報じられています。そもそも入札談合はどんな問題があるのか。そして、どんな罪に問われるのか。独占禁止法に詳しい元東京地検検事の西山晴基弁護士に聞いた。

●本来は、同業者間で「競い合い」がある

――そもそも独占禁止法はどういう法律ですか?

本来、事業者は、同業者との間で、商品・サービスの価格、品質を競い合い、自分の利益をあげようとします。

その結果、顧客は、より良い条件の取引(できるだけ安く、品質の良い商品・サービス)を選択することができるようになります。

しかし、ときに事業者は、価格、品質を競い合うことを放棄して、あらかじめ同業者間で話し合って取引価格を決めて、お互いの利益を図ろうとすることがあります。

たとえば、ある製品が100万円前後で取引されている状況で、自分だけその製品を200万円で売ろうと思っても、顧客に購入してもらうのは難しいでしょう。

そこで、みんなでその製品を値上げして、みんなで利益を増やそうと話し合うわけです。その結果、どの事業者も200万円で販売するようになれば、顧客はその価格で買うしかなくなってしまいます。

このように、みんなで話し合って競争を放棄することによって、価格を引き上げることができてしまうわけです。

独占禁止法は、このように事業者間の競争が制限されることを防いで、消費者の利益を守ることを目的とした法律です。

●五輪組織委も原則としては「競争入札」しないといけない

――競争入札はどういう制度ですか?

発注者が、受注を希望する者を募り、その中から、一定の条件の下、主に「最も安い価格」を提案した者を取引相手に決定する制度です。

一方で、こうした価格競争によらずに、発注者が選んだ特定の業者と契約する取引を「随意契約」といいます。

国や地方公共団体が取引する場合には、税金が使われることになるため、癒着などによって特定の業者が取引先に選定されることは避けなければなりません。

そのため、この場合、会計法や地方自治体法の定めで、一定の契約以外は、競争入札の方法によらなければならないとされています。また、国や地方公共団体の出資による法人についても、同様の定めがある場合があります。

五輪組織委も、日本オリンピック委員会と東京都が1億5千万円ずつ拠出して設立された法人であり、会計処理規程において、一定の契約以外は、競争入札によりおこなうものとされていました。

●事前の取り決めがあれば「談合」があったと判断される

――入札談合はどういう仕組みですか?

入札において、事業者間で事前に話し合い、あらかじめ受注者や受注価格を決めて、できるだけ高い価格で取引ができるようにして、みんなで利益を得ようとする行為です。

たとえば、ある3件の入札にA、B、Cの3業者が入札するとして、あらかじめ3業者間で話し合って、

・1件目は、Aが受注することとして、Aが100万円、Bが200万円、Cが150万円で入札する ・2件目は、Bが受注することとして、Aが200万円、Bが100万円、Cが150万円で入札する ・3件目は、Cが受注することとして、Aが150万円、Bが200万円、Cが100万円で入札する

と取り決めて、そのとおり入札をおこなえば、それぞれ100万円の利益を確実に得ることができます。

このほか、みんなで利益を得るために、受注しない事業者についても、受注者の下請けに回らせて利益を得させることもあります。 たとえば、事業者間で事前に話し合うことで、ある入札について、Aが400万円、Bが200万円、Cが300万円で入札し、Bが落札・受注した上で、DをBの下請けに回らせて、その利益の50%をDにも得させるということもできてしまいます。

――今回の談合事件は?

このような入札談合は、あらかじめ個々の入札の受注者と受注価格をどのように決定するかを話し合い(基本合意)、その合意に従って、個々の入札の受注者と受注価格を決める(受注調整)という2段階でおこなわれることが多いです。

過去の裁判例では、基本合意をすること自体が、違反行為であると捉えられています。

報道によると、今回の談合事件では、発注者側である五輪組織委の職員が、各社の意向をとりまとめた一覧表を作り、それに従って入札がおこなわれていた疑いがあります。

五輪組織委側を介して、事業者間で当該一覧表に従って入札をするという取り決めがあったとすれば、その取り決めが基本合意と評価され、入札談合がされたと判断されることになります。

――どのような罪に問われますか?

入札談合をおこなった事業者は、独占禁止法上、課徴金命令等の対象になるほか、その事業者の担当者は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処せられます。

また、違反行為を知りながら防止・是正しなかった代表者なども、500万円以下の罰金に処せられ、事業者自体も両罰規定により5億円以下の罰金に処せられます。

これに加えて、発注者側である組織委側が関与する談合は「官製談合」と呼ばれて、「官製談合防止法」(入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律)でも禁止されています。

入札談合等関与行為により入札等の公正を害する行為をおこなった組織委の職員は、5年以下の懲役または250万円以下の罰金に処せられます。

また、その職員が業者側と談合を共謀しておこなっていたと評価されれば、身分なき共犯として、先ほど述べた独占禁止法上の刑事処罰を受ける可能性もあります。

【取材協力弁護士】
西山 晴基(にしやま・はるき)弁護士
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/