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ジャニーズ事務所は11月10日、この日発売の『週刊文春』に掲載された「キンプリ 滝沢秀明を壊したジュリー社長"冷血支配"」という記事をめぐり、「事実と全く異なる虚偽の内容を多々含む記事であり、法的措置を検討しております」と報道各社にコメントした。はたして、「法的措置」はどのようなものが考えられるのだろうか。芸能問題にくわしい河西邦剛弁護士に聞いた。

●法的措置の目的は「名誉回復」を意図している

週刊誌をはじめとして、メディア相手に「法的措置」というワードを使用する場合、多くのケースで「記事内容が事実に反する」という理由で、名誉毀損に基づく損害賠償訴訟を提起して、裁判所に「記事が真実でない」と認めてもらうことを目的としています。

今回のケースでは、退所した副社長と社長との関係性や、キンプリ(King & Prince)メンバーに対する社長の言動などが「事実に反する」という主張になると思われます。

裁判所も損害額を認定する際に注目度の高い大手芸能事務所であることは加味するでしょうが、損害額を決める主な要素は毀損された名誉の程度になります。

なので、犯罪疑惑等に比べれば、今回の掲載内容による社会的評価の低下は比較的小さい部類といえ、仮に名誉毀損が認められたとしても、額としては名誉毀損訴訟の中でも高くはならないかと思われます。

それゆえ、法的措置の目的としては、金銭ではなく、名誉回復、とくに今回の報道で指摘されている事務所関係者の名誉回復を意図していると考えられます。

●メディア側が「報道内容は真実である」ことを立証していく

実際に週刊誌などメディア報道に対して、名誉毀損に基づく損害賠償請求をする際の流れとして、原告側は、記事を引用して、掲載記事が真実でないと指摘することになります。

一般的な不法行為に基づく損害賠償請求の場合には、具体的に被告側にどのような行為があり、それがどういう理由で不法行為になるのか、訴状で主張する必要がありますが、メディア報道の名誉毀損に基づく損害賠償請求の場合には、記事の引用と事実に反する旨の主張で足りるので、訴訟を提起することは比較的簡単です。

また、通常の訴訟において、立証責任は基本的に訴える側の原告にありますが、名誉毀損に基づく損害賠償請求の場合には、被告であるメディア側が「報道内容は真実である」ことを立証していくことになります。

●メディア側も「訴えられること」は想定している

週刊誌など、取材した側も当然、訴えられることは想定しています。特に、責任者である編集長は「訴えられること」を想定して、最終的な掲載の決裁をしています。

では、メディア側は訴えられた場合にどう対応するかというと、具体的には、取材元が証人として出廷するのがベストかもしれませんが、実際に証人尋問というのは、訴訟の終盤におこなわれることが多いので、記事公開から1年以上経過すると、証人出廷が拒まれるケースも少なくありません。

そうした際には、取材した際の録音や、取材元との原稿確認のメールのやりとりなどを裁判所に提出していくことになります。

このように訴訟になることで、逆にどのような根拠に基づいて記事が書かれたかが明らかになっていきます。

もちろん、根拠が弱ければ、事実に基づかない記事として、名誉毀損が認定されることになります。逆に、事実に基づく記事であると裁判所に認定されて、請求が棄却される事例も少なくありません。

これが名誉毀損に基づく損害賠償請求で週刊誌を訴えることがいわゆる「諸刃の剣」と言われる理由かと思われます。

【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/