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10月20日の為替市場では、1ドル150円台を記録し、32年ぶりとなる円安水準となっています。円安傾向は、対ドルに対してだけでなく、対ユーロや対人民元に対しても生じており、円の弱さが際立っています。

円安により、日本の不動産価格も外国から見ると割安になっており、格好の投資対象になっています。

そんな中、歌手の長渕剛さんが、「北海道という街は、その昔開拓民たちが一生懸命に開拓した街だ。お願いだからこの自然に満ち満ちたこの土地を、外国人に売らないでほしい」とステージで発信したことで「外国人の土地の買い占め」に注目が集まっています。

そこで、今回は、外国人に土地を買い占められるとどのような問題が発生するのか、また、逆にどのようなメリットがあるのかについて考察します。(ライター・岩下爽)

●外国人のほとんどは投資目的で土地を購入している

外国人が日本の土地を購入する理由は、ほとんどが投資目的です。日本に住むために購入するという人も一定数はいるでしょうが、日本の永住権を取得することは難しいため居住目的で購入する人は限定的です。

投資が目的ということは、日本の土地が割安だと外国人が評価しているということです。ただ、不動産取引は土地だけでなく建物も一体として売られることが多いので、全体として評価していると言えます。

コロナ禍で旅館やホテルが廃業に追い込まれている中、それを1棟ごと安く購入するというケースが増えているようです。規模感は違いますが、コロナ禍で苦境にあったエイチ・アイ・エスが長崎のハウステンボスを香港の投資会社PAGに売却したというのが大きなニュースになりました。

不動産を購入している外国人投資家の中でも目立っているのは、やはり中国系の富豪たちです。「中国系」としているのは、中国本土の富豪だけでなく、シンガポールやマレーシアの華僑たちも日本の不動産を購入しているからです。

不動産が積極的に買われているのは、北海道、京都、大阪、軽井沢といったエリアです。外国人からすると割安で、日本人に貸してもよいし、コロナ禍が終わって観光需要が戻ってくれば、不動産価格も上昇すると見込んでいるのでしょう。

●外国人に日本の不動産が買い占められることの問題点

日本では円安と原材料価格の高騰でコストプッシュインフレが起こっており、水際対策を緩和して、なんとかインバウンド需要の拡大で、経済の成長につなげたい考えです。その意味では、外国人投資家に日本の不動産を購入してもらうことは良いことのようにも思えます。

しかし、土地の場合には、一般の商品とは異なる性質があります。それは、領土という側面が含まれるということです。極端な話ですが、もし、仮に日本の全ての土地が外国人の所有ということになれば、外国人の許可なしに日本人は日本には住めなくなります。

つまり、外国人が日本の土地を買うということは、日本の領土の一部が外国人に買われているということを意味します。外国人富裕層が単に投資目的で購入しているだけというならそれほど問題ではないかもしれませんが、背後に国家がからんでいたり、国が富裕層の資産を没収したりすると、一気に日本の土地が外国の所有ということになってしまいます。

また、外国人が土地を所有することで移民がしやすくなり、そこに住み着くことになれば、チャイナタウンのようなものが形成され、一定の力を持ちかねません。京都などは中国人に人気がありますが、中国人が京都の不動産を買い占め再開発することになると、京都の文化が破壊される可能性があります。たとえば、京都の至るところに「中国占い」の店が進出するかもしれないということです。

その他、「森林」や「水資源」がある土地を外国人に買い占められることで、日本の貴重な資源を奪われるということも指摘されています。林野庁の調査 では、外国法人又は外国人と思われる者による森林買収は、2006年から2020年の期間の累計で、278件、2,376haにおよんでいます。

このような現状を踏まえ、2021年に、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(重要土地等調査法)が制定されました。この法律は、自衛隊基地、海上保安庁の施設、原子力発電所など安全保障上重要な土地の周辺地域の土地や建物の所有者について国が調査できるというものです。

また、利用目的の報告を求めたり、利用中止を勧告・命令したりすることができます。この命令に従わない場合には罰則の適用もあります。この法律によって、重要な施設の付近については、外国人による土地の買い占めを一定程度制限することができるようになりました。

不動産取引が活発化するメリットも

以上検討してきたとおり、外国人が日本の不動産を購入することにはいくつか問題があるわけですが、外国人に不動産を買ってもらうことのメリットもあります。

それは、不動産取引が活発化することです。不動産を売りに出しても、買い手が付かず遊休資産になっているものがたくさんあります。このような不動産を外国人が購入してくれることで、不動産の有効活用が進むことが考えられます。

また、「空き家」については建物の老朽化の問題があり、「過疎化」についてはインフラ維持の問題があります。空き家や過疎地の不動産を外国人が購入し、移住や再開発によって人が居住するようになれば、これらの問題が解消する可能性があります。副次的に雇用創出や税収も増えることが期待できます。

●中国人の土地買い占めを注視する必要性

このように、外国人による不動産の購入には、メリットとデメリットがあるため、自治体としてもどのように対処するか、難しい判断が求められています。京都市では、外国人による不動産取得を制限はしないものの、居住実績のない住居等に対して課税する「非居住住宅利活用促進税」を2026年度から導入する予定です 。この税制の導入により投資目的での不動産保有者には課税が強化されることになります。

ちなみに、外国人土地法第1条は、「帝国臣民又ハ帝国法人ニ対シ土地ニ関スル権利ノ享有ニ付禁止ヲ為シ又ハ条件若ハ制限ヲ附スル国ニ属スル外国人又ハ外国法人ニ対シテハ勅令ヲ以テ帝国ニ於ケル土地ニ関スル権利ノ享有ニ付同一若ハ類似ノ禁止ヲ為シ又ハ同一若ハ類似ノ条件若ハ制限ヲ附スルコトヲ得」と相互主義を規定しています。この法律は大正時代にできた古いものですが、現在も法律としては有効なものです。

相互主義とは、たとえば、A国が日本人に対して不動産取得について制限している場合には、日本もA国の国民に対しては不動産の取得について制限をすることができるというものです。

中国では個人による土地の取得は認められていないので、日本としては、中国人に対して日本の土地の取得を認めないという取り扱いは可能なはずですが、政府は私権の制限には慎重なスタンスを取っており、この法律は死文化しています。

外国人投資家による土地の買い占めと言っても、欧米諸国の外国人投資家が土地を買い占めるのと、中国人投資家が土地を買い占めるのでは意味が違うように思います。中国人を差別しているわけではなく、中国という国の危険性があるからです。

欧米諸国の場合、私権を制限することは余程ことがない限りありませんが、中国の場合、かなり強引に権利を制限します。中国人投資家が購入した日本の土地を中国が全て没収することなども簡単にできてしまう怖さがあります。

したがって、気づいたら、「日本は中国の大きな影響下に置かれていた」ということがないよう、今後は、重要土地等調査法を積極的に活用して、中国人による土地買い占めについて注視していくことが重要になります。