相場展望10月6日号 英国の大規模減税策に振り回される、インフレにも注意 9月下げ相場、10月急騰は「アヤ戻し」か
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)10/3、NYダウ+765ドル高、29,490ドル(日経新聞より抜粋) ・米長期金利が一時3.5%台と前週末の3.83%から大幅に低下し、株式の相対的な割高感が和らいだ。金融引締めへの警戒から前月末にかけて売り込まれたため、売り方の買い戻しを巻き込んで目先の戻り期待の買いが入った。 ・英政府が10/3に所得税の最高税率を引下げる案を撤回すると表明し、同国の財務悪化に対する懸念が和らいだ。 ・週末には欧州金融大手のクレディスイスの財務不安説が報じられた。金融市場の不安定化リスクに配慮し、米欧の主要中央銀行が利上げペースを緩めるとの思惑が浮上した。「実現すれば絶好の買い場になるとみた一部の投資家が買いを入れた」という。 ・10/3発表の米9月サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数が50.9と、市場予想52.0を下回り、2020年5月以来の水準に低下した。好不況の境目とされる50割れが視野に入り、景気減速でインフレ率が低下するとの見方も株買いを誘い、NYダウは一時+920ドルあまり上げる場面があった。 ・9月は月間の下げ幅が2020年3月以来の大きさとなっていた。短期間に売られすぎたとの見方が強まっており、自律反発を期待した買いが入った。相場が急速に上げ幅を拡大し、売り持ちを整理する動きも強まった。 ・米原油先物相場の上昇を受けシェブロンが大幅上昇、景気敏感株のキャタピラーなどの景気敏感株やアメックスなどの消費関連株への買いも目立った。長期金利低下で相対的に割高感が和らいだ高PER(株価収益率)のハイテク株も上昇。7〜9月に世界販売台数が市場予想に届かなかったテスラは大幅安で終えた。【前回は】相場展望10月2日号 NYダウ、高値から▲20%超下落し、弱気相場入り 日経平均、▲15%超下落と、弱気相場入りに対して 踏ん張る
2)10/4、NYダウ+825ドル高、30,316ドル(日経新聞より抜粋) ・主要中央銀行が利上げペースを緩めるとの見方が広がり、株式を買い直す動きが優勢となり大幅高、2日間の上昇幅は+1,590ドルに達した。 ・オーストラリア準備銀行(中央銀行)が10/4、+0.25%の利上げを決めた。市場予想+0.50%に反して、利上げ幅を縮小し、欧米の主要中央銀行が景気減速に配慮して、利上げを減速するとの見方につながった。 ・10/4発表の米8月雇用動態調査(JOLTS)で非農業部門の求人件数が前月比で市場予想以上に減り、減少幅は2020年4月以来の大きさとなった。インフレ高止まりの一因とされる労働需給の逼迫が和らぎ、米連邦準備理事会(FRB)のタカ派姿勢が緩むとの観測を誘った。 ・NYダウは9月の月間で▲9%下げ、短期的な売られ過ぎが意識されていた。 ・ボーイング・キャタピラーなど景気敏感株が上昇を牽引し、金融・ハイテクも上昇。
3)10/5、NYダウ▲42ドル安、30,273ドル(日経新聞より抜粋) ・NYダウは前日までの2営業日で+1,590ドル上昇した後で、利益確定売りが優勢。 ・米9月雇用統計の発表を10/7に控えて様子見ムードも強く、積極的な売買は手控えられ、一時▲400ドルあまり下げる場面があった。 ・ADP雇用リポートで非農業部門の雇用者数は前月比+20.8万人増と、市場予想+20万人増を上回った。労働市場が堅調であることを示すとの見方から、米連邦準備理事会(FRB)が利上げペースを緩めるとの観測がひとまず後退した。 ・米長期金利が3.7%台と前日終値3.63%から上昇し、株式の相対的な割高感を意識した売りも誘った。 ・取引終了にかけては下げ渋り、NYダウが3万ドルを下回った場面では、値ごろ感があるとみた買いも入り、指数は一時、上昇に転じた。もっとも、米9月雇用統計の発表を見極めたい投資家は多く、積極的な株の買い持ちを積み上げる動きは限られた。 ・前日に大幅高となった景気敏感株が売られ、金融株・ボーイングの下げが目立った。一方、原油相場の上昇でシェブロンが上昇、スポーツ用品のナイキも高かった。
●2.米国株:英国の大規模減税策に振り回される米国・日本の株式市場、インフレにも注意
1)NYダウ・日経平均の推移:直近下げ幅の42〜44%戻り ・ 9/12高値 9/30安値 10/5 NYダウ 32,381ドル 28,725 30,273 ▲3,656 +1,548・下げ幅の42.3%戻り 日経平均 28,614円 25,937 27,120 ▲2,677 +1,183・下げ幅の44.2%戻り2)10月中旬から米主要企業の7〜9月期の決算発表が本格化する(決算ラリーに期待) ・ただし、今回は四半期決算だけでなく、業績見通しの弱さが鮮明化する可能性に注意。 ・宅配大手フェデックス、スポーツ用品ナイキの業績不振による株価下落が目立つ。 ・海外売上高比率の高い米企業は、ドル高による目減りと景気減速の影響に注意。
3)米中間選挙(投票日11/8)前は、経験則では相場は手控えムードが強まりやすい ・バイデン大統領の支持率はいったん上昇したが、健康不安もあり低下傾向。ロイター調査、10/4公表では支持率40%、前週の41%から下方方向。 ・米上院では民主党は共和党と同議席数、下院では僅かに上回る程度。共和党が勝てば、バイデン民主党政権はレイムダックが進む可能性が高まる。政治の不透明感は、株式相場にとって良い材料ではない。
4)英トラス首相の大規模減税策発表は、株式・債券・為替市場に混乱をもたらした。 ・その英国発の波及効果で、長期金利が急伸し米株式市場は大幅下落した。 ・英イングランド銀行の応急措置の英国債無制限購入でひとまず落ち着く⇒株価回復へ。 ・しかし、トラス首相は大規模減税を一部のみ修正したが、主張は変えず。再び混乱復活の可能性がある。 ・トラス首相の保守党は支持率28⇒21%に急落、労働党は45⇒54%と、政治が揺らぎ始めていることに注目。 ・英国だけでなく、米国・日本にも長期金利が振れて、株式市場に動揺を及ぼす可能性がある。
5)WTI原油先物価格と株式市場とは相関関係が高く、原油高はインフレに強い影響を与えるだけにその動向に留意したい。 ・OPECプラスは、原油価格高値維持のため11月以降、日量200万バレル減産で合意。 ・米国原油戦略備蓄の放出によるガソリン価格低下を図ってきたが10月で終了。その後、大幅に備蓄が減少した原油在庫を積み増すことになり、それは原油価格上昇要因になる。WTI原油先物は3週間ぶりに88ドル台に戻ってきており、これはインフレ率上昇の材料となる。 ・国際商品先物指数(CRB)も下落から再上昇に転じる動きとなってきている。 CRB指数 : 9/26 264.3 ⇒ 10/3 280.43 反発上昇 インフレ要因となる。 ・インフレ鈍化を示し始めた指数が出てきたが、改めてインフレの再上昇に注視したい。
6)消費者物価指数と相関関係の濃いWTI原油先物価格 ・今冬の欧州天然ガス価格は、ロシア産ガスの供給停止により高価格が予想される。原油価格もロシア産原油も、欧州は輸入制限をしており、高止まりするとみられる。
7)ポイント ・米株式市場は、英国発の市場動揺に注意しながら、7〜9月決算シーズン入りとなる。 ・しかし、米多国籍企業の業績発表結果次第では、軟調になる可能性がある。 ・特にアップルの株価動向には注目したい。 ・米FRBは、インフレ鈍化をデータで確認できない限り、「金利引上げを継続」するとの高官発言がある。そのため、株式市場では楽観論が支配する相場となりやすいため、警戒感をもって臨みたい。
●3.英国の主要住宅ローン金利が6%超、約14年ぶり高水準(ブルームバーグ)
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)10/2〜7、祝日「国慶節」のため休場●2.中国で不動産開発業界の破綻連鎖で金融危機が深刻化、止まらない破綻の連鎖(Forbesより抜粋)
1)銀行業界:・巨額貸倒れ予想で、貸倒引当金積み増しと資金調達。 ・銀行への不安視で、預金引き出の増加による運転資金減少。 ・住宅ローン不払い増加。2)鉄鋼業界:・住宅需要などの低下で、鉄鉱石価格は3月以降▲36%下落、業界は赤字。
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)10/3、日経平均+278円高、26,215円(日経新聞より抜粋) ・前週末の米株安を受け、朝方は売りが先行し、日経平均の下げ幅は一時▲300円を超えた。ただ前週末に節目の26,000円を下回り、およそ3ヶ月ぶりの安い値を付けていたため、下げが目立っていた銘柄に買い戻しなどが入り、相場は上昇に転じた。 ・市場では一部の年金基金による買いを指摘する声もあった。 ・半導体関連や自動車など、このところ欧米の景気後退懸念から売られていた銘柄を中心に買いが活発になった。海運株の上昇も目立ち、日経平均は大引けにかけて強含んだ。一方、直近まで相対的に底堅かった食料品の一角などには売りが広がった。 ・東エレク・アドテスト・トヨタ・デンソーが上昇、KDDI・エーザイ・日ハムが下落。2)10/4、日経平均+776円高、26,992円(日経新聞より抜粋) ・米国のインフレ懸念がいったん後退し、運用リスクを取る姿勢が強まって心理的な節目の27,000円に接近し、上げ幅は3/23以来およそ半年ぶりの大きさとなった。 ・10/3発表の米9月サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数が市場予想を下回ったことが手掛かりとなった。経済減速を示す内容がかえって米金融引締めペース鈍化を意識させ、米株式相場が大幅に上昇。東京市場にも買いが波及し、東証の全33業種が上昇するなど、ほぼ全面高の展開となった。 ・相場の流れに順張りするCTA(商品投資顧問)の買いが朝方から入り、相場上昇に拍車をかけた。2022年下期入りに伴い、年金を始めとする機関投資家が新たにポジションを取りやすくなったとの見方もあった。 ・日経平均が27,000円に迫ると、戻り待ちの売りや利益確定売りが出た。 ・市場では「世界的なインフレ懸念や、英国の財政悪化懸念を払拭できたわけでなく、先行きの相場の戻り余地は限定的だ」との指摘があった。 ・伊藤忠・丸紅・住友商事・エムスリー・INPEX・ENEOSが高く、川崎汽は下げた。
3)10/5、日経平均+128円高、27,120円(日経新聞より抜粋) ・前日の米国株高を受けて投資家心理が改善し、東京市場でも運用リスクを取る動きから買いが優勢となり、終値で節目の27,000円を9/22(27,153円)以来の回復。 ・直近で相場水準が急伸したため、買い一巡後は目先の利益確定売りで上げ幅を縮めた。 ・市場では「国内の機関投資家を中心に利益確定の売りが出ていた」との指摘があった。 ・前日までは海外投資家が日本株を買い戻す動きが強かったが、買いの勢いが一服したとの指摘もあった。 ・岸田首相は10/5の衆院本会議で、円安について「インバウンドの回復や企業の国内回帰により、経済の活性化につなげることが重要だ」と述べたが、相場の反応は限定的。 ・キーエンス・HOYA・SBG・村田製・太陽誘電・信越化が上げ、三菱自・イオンが下落。
●2.日本株:9月下げ相場から、10月は急速な戻し、チャート的には「アヤ戻し」かも
1)直近の日経平均の推移 ・ 9/12直近高値 9/30安値 10/5 日経平均 28,614円 25,937 27,120 ▲2,677円安 +1,183円高・下落幅比44.2%戻り2)外国人投資家は売越しが続いていたが、10/4に買越し転換。 ・外国人は短期筋が主流であり、かつ先物売買中心の動きであり、警戒が必要。 ・外国人は7月からの買越額を、ほぼ売りで解消したと思われる。 ・10/4〜5の2日間は買い転換、日経平均は上昇した。 ・そのため、今後は売り向かうのか、買い向かうのか、注視したい。
●3.企業動向
1)AGC コロナ・ワクチンのmRNA原材料量産設備を2025年に横浜で稼働(時事通信) 年間数百万人から数千万人の接種に対応できる原料を量産■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします)
・1377 サカタのタネ 業績堅調。 ・4911 資生堂 業績回復。 ・7202 いすゞ 業績好調。執筆者プロフィール
中島義之 (なかしま よしゆき)
1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou