「陰嚢水腫(いんのうすいしゅ)」ってどんな症状?原因や治療法も解説!
出生後の男児に比較的よく見られる陰嚢(いんのう)の病気「いんのう水腫」をご存じでしょうか?陰嚢の腫れや大きさにより違和感を伴うものの、通常は経過観察を行います。しかし、大人になって発症することもあり、日常生活に影響がある場合には手術を行うこともある病気です。
今回は、いんのう水腫とはどのような病気か、症状や原因、検査方法、治療法などを解説します。
いんのう水腫とは
いんのう水腫とはどのような病気ですか?
いんのう水腫とは、精巣の周りに液体が溜まることで陰嚢が膨らんだ状態です。陰嚢に触ると液体の溜まった袋を確認することができ、もうひとつ陰嚢があるように見えることがあります。いんのう水腫は生まれたばかりの男児では、比較的高頻度で起こっており、基本的に痛みはありません。しばしば、鼠経ヘルニアと間違われることもあり、病態が似ているのが特徴です。
乳児にみられる先天性と、大人になって発症する後天性があります。
先天性のいんのう水腫
先天性のいんのう水腫の特徴を教えてください。
通常、陰嚢は、腸が入っているお腹の中と陰嚢の間に「腹膜」と呼ばれる薄い膜が入り込んで精巣にくっついており、胎児期の成長に伴い、お腹から陰嚢まで降りていきます。しかし、先天性のいんのう水腫は、胎児期に、腸が入っているおなかの内部と陰嚢の中がつながっていることで、お腹の中にある液体が陰嚢に達し、そのまま貯留している状態です。通常は2~3歳くらいまでに、お腹の中と陰嚢内部の内部の通り道が自然にふさがります。そのため、特別な治療は行わず、経過観察を行うのが一般的です。
また、似た病気に「鼠経(そけい)ヘルニア」があります。鼠経ヘルニアは、お腹の中の腸が陰嚢に向かって降りてきてしまう病気で、同様の原因で起きるため、先天性のいんのう水腫と鼠径ヘルニアはしばしば同時に存在することになります。
後天性のいんのう水腫
後天性のいんのう水腫の特徴を教えてください。
大人になって起こるいんのう水腫は、精巣を包む膜の中に液体が溜まり、陰嚢が膨らんだ状態です。大人のいんのう水腫は鼠経ヘルニアや炎症、腫瘍が原因で起こることもありますが、多くの場合はっきりとした原因は分かっていません。いんのう水腫の症状
いんのう水腫はどのような症状が現れますか?
いんのう水腫は、基本的に痛みはなく見た目の変化が特徴です。片方もしくは両方の陰嚢が大きくなることで、通常よりも大きく見えます。先天性の場合は、内部の液体がお腹と陰嚢を行き来するため、日や時間によって腫れや大きさが変化することがあります。特に痛みはありませんが、水腫が大きくなると歩行時の違和感や圧迫感が起こる場合があります。
いんのう水腫だと思っていたのに、急に陰嚢が腫れたりお腹や陰嚢の痛みがあったりする場合は、精巣捻転や鼠経ヘルニアを合併している場合や、腸閉塞などが疑われます。腫れや痛みがある場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
いんのう水腫の原因
いんのう水腫の原因は何ですか?
先天性のいんのう水腫は、お腹の中から陰嚢につながる細い通路が閉鎖しないために、細い通路を通って陰嚢内の袋に液体が溜まることが原因です。後天性のいんのう水腫は鼠経ヘルニアや炎症、腫瘍などによっても起こりますが、はっきりとした原因は分かっていません。
いんのう水腫の受診科目
いんのう水腫の疑いがあれば何かを受診すればよいですか?
子どもの陰嚢に左右差がある場合や通常よりも大きくなっている場合は、小児科や小児外科を受診しましょう。大人の場合は、泌尿器科を受診して、必要な検査を受けてください。いんのう水腫で行う検査
いんのう水腫ではどのような検査を行いますか?
いんのう水腫の診断のためには触診・視診、エコー検査、CT検査を行います。触診と視診
触診や視診ではどのようなことを行うのですか?
触診では水腫の硬さや弾力性を確認します。水腫の中身は液体であるため、適度な柔らかさがありますが、腫瘍の場合は陰嚢とは別に固形に触れるため硬さがあるのが特徴です。また、腫れている陰嚢にペンライトなどで光をあてて、袋が透けて見えるかどうかを確認します。液体の場合は、陰嚢に光をあてると透けて見えますが、腫瘍がある場合は物体の存在を確認できるでしょう。
そして、視診では陰嚢の大きさを目視で確認します。通常のサイズと比べて極端に大きくないか、左右差はあるかなどを目視で確かめます。
エコー検査
エコー検査ではどのようなことを行うのですか?
陰嚢、鼠径部に超音波をあてて、鞘膜(しょうまく)腔に液体の貯留があるかを確認します。CT検査
エコー検査ではどのようなことを行うのですか?
いんのう水腫であることが確認でき、手術を受ける場合は、CT検査でほかの病気がないかを確認します。間違いやすい病気に鼠経ヘルニアがあるため、CT検査での鑑別が大切です。いんのう水腫の性差・年齢差
いんのう水腫に性差・年齢差はありますか?
いんのう水腫は男児・男性に起こる病気です。生まれたばかりの男児では、比較的高頻度でいんのう水腫を認めますが、2~3歳ごろまでに内部の通り道が自然にふさがることが多いでしょう。いんのう水腫の治療法
いんのう水腫ではどのような治療法を行うのですか?
先天性のいんのう水腫は、成長とともにお腹の内部と陰嚢の通り道が自然にふさがるため、基本的には経過観察で様子を見ます。後天性の場合は、自然に治ることはないため、見た目が気になるときや、日常生活に支障をきたしているときは手術を行うこともあります。先天性のいんのう水腫の治療法
先天性のいんのう水腫の治療法について詳しく教えて下さい。
先天性のいんのう水腫では、まずは経過観察を行い、通り道が自然に閉鎖するのを待ちます。3~4歳以降になっても腫れが治らない場合や、鼠径ヘルニアを合併している場合は、お腹の中と陰嚢をつないでいる細い通り道を塞ぐ手術を行います。後天性のいんのう水腫の治療法
後天性のいんのう水腫の治療法について詳しく教えて下さい。
後天性のいんのう水腫は自然治癒することはありません。水腫がそれほど大きくなければ、特に治療をすることなく過ごすことも可能です。水腫が大きくなったり左右差が気になったり、違和感や圧迫感があったりして日常生活に支障をきたしている場合は、陰嚢に液体が溜まらないようにする手術を行います。
また、注射器を使って陰嚢の中に溜まっている液体を抜く治療法もあります。ただし、
この治療法の効果は一時的なものであるため、そのうちまた液体が溜まってしまいます。そのため根治はできません。
先天性のいんのう水腫には、この治療法は行いません。
編集部まとめ
いんのう水腫は、精巣の周りに液体が溜まることで陰嚢が膨らんだ状態です。基本的に痛みはありませんが、左右差が出たり通常よりも大きくなったりすることで違和感や圧迫感を覚えることがあるでしょう。
いんのう水腫には、子どもに起こる先天性と大人に起こる後天性がありますが、基本的には経過観察を行い、気にならなければそのまま過ごすことも多くなります。ただし、3~4歳を過ぎても自然閉鎖しない場合や日常生活に支障をきたしている場合は手術を行うこともあります。
鼠経ヘルニアと間違いやすい病気であるため、陰嚢のサイズや左右差が気になるときは小児科や泌尿器科を受診しましょう。
参考文献
東京女子医科大学病院 泌尿器科腎臓病総合医療センター【陰嚢水腫】
済生会【陰のう水腫】
日本赤十字社 姫路赤十字病院【こどもの陰嚢水腫】
執行クリニック【陰嚢水腫とは】
日本泌尿器学会【睾丸(精巣)が腫れてきた・陰嚢(内容)が大きくなってきた】
あおいクリニック【陰嚢の腫れや痛みなど】
中野こども病院 小児科【陰嚢水腫】