美容医療製品を製造・販売するアラガン・ジャパンは今年5月、全国の20代から60代の男女1,000名を対象に美容医療に関する調査を実施。美容医療全般に対してネガティブな印象を持つ人がいまだに多い実態などを7月14日に発表した。

そうした結果を受け、同社は「美」と「美容医療」をテーマにオンラインイベントを7月29日に開催。それに伴い、メディア向けプレスセミナーがオンラインで実施された。

同セミナーでは「美容医療の基本の基」と題し、日本の美容医療のパイオニアで自由が丘クリニック理事長の古山登隆氏が登壇。ボツリヌス注入治療(ボトックス)と、ヒアルロン酸注入治療の基本や、よくある誤解などについて解説した。

■土台が起きる老化のメカニズム

昨今、世間で関心が高まっている美容医療。一方で美容医療に対するさまざまなネガティブイメージから治療に踏み込めない現状、美容医療の施術の知識や正しい情報の普及が課題となっている。

「美容医療はメスを使う手術治療、注射や機器などによるメスを使わない治療、薬を中心とした治療の3つに分かれます。今日は非外科的美容医療治療、ボツリヌス注入治療とヒアルロン酸注入治療を中心に話していきたいと考えています」という古山氏。

年間の美容費用・回数ともに増加傾向にあり、世界的な傾向として外科的手術が徐々に減っている一方で、ボツリヌス注入やヒアルロン酸注入も含む非外科的手術が増えていると紹介する。

「その中で治療の効果とリスクに対して正確な情報が不足していることを危惧しています。私は美容医療には幸せを運ぶ医療であるという確信がありますが、そこにはさまざまな前提条件があり、正確な情報を流すことがいま大切な時期と考えています」

続けて、古山氏はシワやたるみの大きな原因となる加齢変化のメカニズム、肌の老化の仕組みについて解説した。

「人体は骨・筋肉・皮下脂肪、皮膚は真皮と表皮の5つの層でできており、年齢とともに骨密度、筋肉、皮下脂肪の量などが変化し、土台が小さくなることでたるみやシワが起きます。大胸筋や大殿筋が小さくなると、胸が落ちてきたり、お尻が落ちていわゆる梅干し尻になってきたりしますが、体の変化と同じような土台の萎縮から引き起こされる形態学的な老化現象が、顔でも起きるわけです」

また、年齢とともに皮膚の弾力や皮膚組織が減少することで、表情ジワが深い刻みジワになるという。

アラガン・ジャパン株式会社

「若い頃は逆三角形だった膝や大腿部も年をとると、ボリュームが抜けて正三角形に近づいていきます。顔の場合は骨密度が減り、土台の骨が小さく薄くなって、側頭部の凹みが強くなり、眼球を入れている眼窩の周りの骨も薄くなって徐々に広がることで、目の下の溝や膨らみなどの変化が起きる。年齢を重ねるともに顔は小さくなりますが、顔のボリュームが抜けることで横や下に開き、体全体も萎縮していくため、相対的に顔は大きく見えやすくなります」

■ボトックスとヒアルロン酸注入の仕組み

ボトックスという商品名で知られるボツリヌス注入は、神経伝達物質であるアセチルコリンの分泌を阻害し、表情筋の緊張をやわらげて、眉間や目尻のシワなどの表情ジワを目立たせなくする治療だ。世界的にポピュラーな治療法で、アメリカでは年間440万人以上が施術を受けている。

アラガン・ジャパン株式会社

「表情筋に少量の薬剤を注入するという治療方法で、医師によるカウンセリングが必要です。効果は永続的なものではなく、2〜3日で効果が出て3〜4カ月ほど効果が持続し、徐々に戻るという経過を辿ります。技術的な副作用もあり、神経筋疾患の方は注意が必要です。また、65歳以上の方は他のボリュームロスが強く、効果が弱いということもあります」

より良い効果を得るためには、深いシワが定着する前に比較的若いうちから行うこと、3〜4カ月ごとの継続的な治療がポイントになるという。

他方のヒアルロン酸は皮膚や軟骨などの組織中にあるゼリー状の物質で、皮膚の土台となる成分。保水力が高く、1gで6リットルの保水できるといわれている。皮膚のヒアルロン酸は30代の頃から減り始め、ハリが失われることでシワやたるみの形成につながる。

「ヒアルロン酸は飲んだり、塗ったり、さまざまなタイプで使用されています。それぞれ効果もあるでしょうが、クリニックでヒアルロン酸を直接入れることで、内側からボリュームを補いシワや溝を目立たなくし、ハリや弾力の向上が期待できます」

アラガン・ジャパン株式会社

注入治療に使われる製材のヒアルロン酸濃度は目的や注入部位、注入層によって異なる。満足度の高い結果を得るには、医師とのカウンセリングを通じ、適材適所に注入することが求められる。

アラガン・ジャパン株式会社

「非常に大まかにいうと、ヒアルロン酸は硬いものほど吸収が遅く、柔らかいものほど吸収が早い。硬いものは主に土台となる骨のボリュームロスの修正を行い、動きの少ない深い層に使われます。ティアトロフという目の下や口唇など、皮が薄く軟部組織に近い浅いところに対して用いる承認品もあります。最近は肌の内側からの肌質改善についても大変興味を持っています。副作用は厚労省による承認品ではほとんどありませんが、針仕事なので内出血があります」

■カウンセリングで意識すべきポイントは?

セミナー後半ではWWDJAPAN編集長の村上要氏が登場し、古山氏に美容注入治療の気になる疑問をぶつけた。

“ヒアルロン酸顔”という言葉に代表されるように、「不自然な見た目になる」「同じような顔になる」というネガティブな印象も根強いヒアルロン酸の注入治療。不安を持つ人も多いことについて、古山氏は「結論からいうとやり方が悪いと不自然になり、それはプランニングと注入量によって決まると思います」と回答。

「不自然な顔になるのは入れ方の問題で、同じところに多く入れれば入れただけ、特徴が集約されてくるので似た顔になってしまう。注入治療は施術する方も受ける方も感覚でやるべきではなく、抑制の利いたやり方で安全に、理論的にやるべきです」

古山氏は施術前に適切なカウンセリングを受け、クリニックの医師と相談しながら進めていくことの重要性を強調した。

「大切なのは老化のメカニズムを理解し、プランニングでゴールを決めて、注入量・注入製材など安全で適切なやり方で進めること。製材における中毒性は全くありません。ただ、諦めていたことを諦めなくて済むとなると、やはり次もやりたくなりますし、ハマることはあるかもしれません。その意味ではある程度ハマってもいいんですが、予めゴールを決めるプランニングが必要です」

同日開催された一般公開トークイベントには、美容整形の調査を中心に文化社会学を専門とする関西大学総合情報学部教授の谷本奈穂氏も参加した(アラガン・ジャパン株式会社)

ボツリヌスやヒアルロン酸の注入治療でも使う製材にも承認品と未承認品の区別がある状況もあり、承認品と未承認品をきちんと区別して考えることも大切だという。

「承認品は厚労省が安全性に関して成分や運搬・管理などの基準を整えているもので、その承認を取るために、企業もお金や時間をかけている。なので、『安いから』といって未承認品を安易に使うのではなく、承認品があるならなるべく承認品を使うべきだと思います。診察時に自分に使われる製材がどういう製材なのか、承認か未承認かも含めてしっかり聞いて、曖昧な回答で納得できない場合、そこではやらない方がいいでしょう」