VAIO SX12は2022年6月に追加された新しいラインアップで、12.5型ディスプレイを搭載したクラムシェルスタイルのノートPCだ。最軽量構成で900gを切り、携行利用を重視したVAIOで最もコンパクトなラインアップを担うのは従来と同様だが、今回登場したモデルではCPUに第12世代Intel Coreシリーズを採用。これによって機動力と処理能力を高いレベルで実現することを目指している。

この記事では、新世代CPUの採用で従来モデルから向上した処理能力を検証し、性能向上機能「VAIO TruePerformance」をはじめとするVAIOの独自機能や、最新規格に対応したインタフェースなどを確認していく。

第12世代Coreプロセッサの搭載で大きく性能を引き上げた「VAIO SX12」レビュー

今回評価する新VAIO SX12のボディサイズはW287.8×D205×H15.0(前端)〜17.9(後端)mmで、従来モデルと比べると幅が同等、奥行きが1.7mm増、高さが最薄部で0.7mm減、最厚部で0.1mm減となる。数値としては若干違いがあるが、実質的にはほぼ同じといっていいだろう。

重さは最軽量構成で899gとなっており、従来モデルの最軽量構成と比べると12g増えているが、こちらも実質的にはほぼ同じ。携行時の負荷、机上に置いた場合に必要な広さは従来と同様、「何の苦もなくどこにでも持っていける気軽なVAIO」を実現している。

カラーバリエーションは6色展開(ALL BLACK EDITIONを含む)。今回はアーバンブロンズモデルをチェックする

金属調のオーナメントは天板のロゴに加え、閉じると目立つ天板底部にも施されている

評価用機材は実測で905g。とても軽い

屋外利用の使い勝手に大きく影響する無線接続のインタフェースには、6GHz帯の無線LANが利用できる「Wi-Fi 6E」に対応する予定だ(日本国内では現時点で総務省の認可が出ていないため利用不可。総務省の認可後にVAIOが提供するアップデートを適用することで利用可能になる予定)。

また、WAN通信では従来モデルと同様、nanoSIMスロット搭載モデルを用意してLTEによるデータ通信に対応する。SIMロックフリーに対応しており、価格を抑えた通信プランをユーザー自身で選んで利用できる。なお、VAIO SX12の上位カスタマイズモデル「VAIO SX12 ALL BLACK EDITION」では、従来のVAIO SX12では対応していなかった5Gによるデータ通信も利用できるようになった。

本体にはThunderbolt 4(USB Type-C)を2つ搭載し、最大40Gbpsのデータ転送やDisplayPort Alt Modeによる映像出力を利用可能。まだまだ用途の多いUSB 3.0 Type-Aを2つ搭載するだけではなく、最近の薄型軽量モバイルノートPCでは廃止されつつあるHDMI出力に加え、有線LAN用のRJ-45もしっかり用意している。

左側面にはUSB 3.0 Type-Aとヘッドフォンマイクコンボ端子を備える

右側面にはUSB 3.0 Type-A、Thunderbolt 4(USB Type-C)、HDMI出力、有線LAN用RJ-45を搭載する。USB 3.1 Type-Cは電源コネクタ兼用で、RJ-45は折りたたみ式を採用している

正面(手前側)

背面(奥側)

ディスプレイは水平まで開くことができる

屋外に持ち出しで使う場合に重要なセキュリティ機能として、顔認証と指紋認証に加えて、人感センサーを組み合わせた「VAIO User Sensing」による認証システムにも対応する点がポイント。ユーザーがVAIO SX12から離れたことを検知し、自動的にロックをかける「離席オートロック」機能を利用できる。

ディスプレイの解像度は1,920×1,080ドット。非光沢パネルで表示に集中できる

WebカメラはWindows Hello顔認証に対応する

カメラは物理シャッター付き

キーボードのピッチは19mmでキートップサイズは14.5mm。タッチパッドのサイズはW81×D45mm。クリックボタンを備えているので操作が確実だ。電源ボタンは指紋センサーも兼ねている

キーストロークは1.5mm。従来モデルの1.2mmから深くなった

ディスプレイを開くと本体に角度がついてキーボードがタイプしやすくなる

AC電源はUSB-Cに接続する。ACアダプタのサイズはW60×D45×H28mmで、重さは160g(コード込み)

今回登場したVAIO SX12では、新しく第12世代Intel Coreプロセッサを採用した点が大きな特徴だ。個人向けモデルでは省電力・高性能なTDP28Wの“P”シリーズを採用し、今回評価する構成ではCore i7-1260Pを搭載している。なお、カスタマイズ仕様ではCore i5-1240PやCore i3-1215U、Celeron 7305U搭載モデルも選択可能。VAIO SX12 ALL BLACK EDITIONでは、現時点における“P”シリーズ最上位モデルのCore i7-1280Pを搭載している。

Core i7-1260Pは処理能力優先のPerformance-cores(P-core)を4基、省電力を重視したEfficient-cores(E-core)を8基組み込んでいる。P-coreはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては16スレッドを処理できる。動作クロックはベースクロックでP-coreが2.1GHz、E-Coreが1.5GHz、ターボ・ブースト利用時の最大周波数はP-coreで4.7GHz、E-Coreで3.3GHzまで上昇する。Intel Smart Cache容量は合計で18MB。TDPはベースで45W、最大で64Wとなる。

CPU-ZでCore i7-1260Pのスペックを確認

処理能力を検証するため、PCMark 10、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、3DMark Time Spy、ファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを用いてベンチマークテストを実施した。

なお、VAIO SX12では、性能向上機能「VAIO TruePerformance」を活用するユーティリティを用意して、CPUやクーラーユニットの動作モードを「パフォーマンス優先」「標準」「静かさ優先」から選択できるようにしている。ここでは、PCの総合的な処理能力を評価するために「標準」モードを指定してスコアを測定した。CPU以外で処理能力に影響するシステム構成は以下の通りだ。

比較対象として、CPUにCore i7-1165G7(4コア8スレッド、動作クロック2.8GHz/4.7GHz、L3キャッシュ容量12MB、統合グラフィックスコア Intel Iris Xe Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがDDR4-3200 8GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。

ベンチマークテストの結果は、第11世代と第12世代でほぼ同クラスのCore i7プロセッサを搭載しながらも“世代間格差”が如実に出たといえる。

PCMark10では、CPU処理能力のウェイトが高いEssentialとProductivityのスコアに加えて、グラフィックス処理のウェイトが高いDigital Content Creationのスコアでも同じIris Xe Graphicsを組み込んでいるのにもかかわらず、グラフィックスメモリとして共有しているシステムメモリの差やグラフィックスコアの動作クロックの違いなどが影響してVAIO SX12が比較対象ノートPCの結果を上回る。

CINEBENCH R23では、シングルコアテストにおけるスコア差以上にマルチスレッドテストのスコアは倍以上の開きとなった。マルチスレッド処理における、第12世代Intel Coreプロセッサの高い処理効率がうかがえる。

ゲームベンチマークテストの3DMark、ファイナルファンタジーXIV:漆黒のヴィランズのスコアは、PCMark 10 Digital Content Creationと同様の理由で、いずれもVAIO SX12のスコアが比較対象ノートPCを上回る。

ストレージの転送速度を評価するCrystalDiskMark 8.0.4 x64では、シーケンシャルリードにしてもシーケンシャルライトにしても、SSDがPCI Express 1.4 x4に接続しているVAIO SX12のスコアがPCI Express 1.3 x4接続の比較対象ノートPCのスコアを1.5倍近く上回った。

なお、VAIOの公式データでは、VAIO SX12のバッテリー駆動時間はJEITA 2.0の測定条件で約24.6〜26時間となっている。内蔵するバッテリーの容量は、PCMark 10のSystem informationで検出した値で53,020mAhだった。PCMark 10 Battery Life benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは9時間33分(Performance 7044)となった(ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定)。

先に言及したように、VAIO SX12ではユーティリティの設定でCPUとクーラーファンの動作モードを「パフォーマンス優先」「標準」「静かさ優先」で変更できる。これは、VAIOが開発した独自機能「VAIO True Performance」を活用したもので、電源強化や放熱能力の向上によって、処理能力の向上と静音動作の両立を可能にしている。

では、それぞれのモードで処理能力とクーラーユニットの発生音量とボディの表面温度はどのように変わるのだろうか。それぞれのモードでCINEBENCH R23と3DMark Night Raidを実行したときのスコア3DMark Night Raid実行時に測定した表面温度は以下のようになった。

CPUとクーラーファンの動作モードは電源接続時とバッテリー駆動時のそれぞれで3段階のモードに設定できる

静音モードでの発生音量は暗騒音とほぼ変わらず、わずかに「ムー」と聞こえるだけ。標準モードからは明確にファンの音を認識できる。パフォーマンスモードでは「大音量」といっていいだろう。少なくとも、静かなカフェや図書館では使用がはばかれる大きさになる。処理能力は各モードで10%前後の差が現れ、静音モードから標準モード、標準モードからパフォーマンスモードとそれぞれ10%程度のスコア向上が確認できた。

表面温度はキートップやパームレストでほぼ体温レベルに収まっており、ほんのり温かいレベルであって熱い! と感じることはない。しかし、底面に関してはいずれのモードでも最も熱い部分が50度前後に達している。これは日本創傷外科学会が「44℃〜50℃程度の低温のものでも長時間接触しているとやけどになり、これを低温熱傷と呼んでいます」と述べている高温なので、膝において使う場合は注意する必要がある。

底面にはイマドキのノートPCとしては珍しくネジが多用されている

今回取り上げたVAIO SX12の2022年モデルは、第12世代Coreプロセッサの採用で前モデルよりも処理能力が明らかに向上していることを確認できた。機能面においても無線LANの速度(これは後日に対応となるが)やビデオチャットにおける背景ぼかし、自動フレーミング機能の対応など、ユーザーのニーズに合わせた強化もなされている。

持ち運びが苦にならない軽量さで、コンパクトなフットプリントで設置場所に困らず、さらに処理能力に優れたモバイルノートPCを必要としているなら、VAIO SX12は選択肢としてとても有力だと感じる。ただし静かな図書館で周囲の視線が気になるなら、動作モードを「静音」にしておくのがオススメだ。

排気口はヒンジ部に収められており、熱気がディスプレイを伝って上に出ていくよう配慮されている