※この記事は2012年09月22日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第238回

　ついに発売されました、iPhone5。
　僕はこれまでiPhone4を使っていて、4Sは見送っていたので、今回は早々に買い替えを決定。近所のauショップに予約を入れて、一応「どのくらいに入ってきますかねぇ」なんて聞いてみると、発売から２週間くらいかもという返事。
　予約に出かけたのも４時の予約開始に対して、５時頃ふらっと出かけるという気合のなさだったので、最初から入手時期に期待はしていなかったのだけれども、予想に反して、なんと９月21日の発売日に手に入れることができました。ラッキー。

　で、僕はよく散歩に行きます。電車で近場の駅に行ってふらっと周囲を散策するのだけれども、そういう時に大活躍なのがこれまでiPhoneに搭載されていたGoogleマップ。行きたいお店などにあらかじめピンを立てて、その周辺を散策するなど、結構な頻度で使っておりました。
　なので、今回の「アップル独自のマップアプリが酷いのではないか」という話が、とても気になっていました。で、実際にiOS6のマップをいじってみて、すごくダメなのは、いろいろなところで論じられている通り。(*1)
　それは決して日本だけではなく、世界的にも評判は芳しくない模様。(*2)

　ただ、日本のマップについては、ネット上ではあまりに「ネタ」としての話ばかりが持ち上がっている模様で、散策用の地図として何がダメかという部分を論じている人が全くいない現状。もし、アップルがこれらの批判だけを見聞きして地図のアップデートをしたとして、根本的な問題を理解していなければ、何の解決にもならない。なので、街歩きが趣味の立場として、いくつか地図としての致命的な欠陥を提示しておく。

　まず１つめにして、最大の問題は、駅舎の表示が他の建物と同じ灰色ということだけではなく、駅出入口の表示が全くないことだ。
　地上駅であれば西口や東口、そして地下鉄であればA1、A2などの表示が全く見られない。地上駅ならまだしも、地下鉄駅の出入口はただでさえわかりにくいのだから、表示がなければどこから駅に入っていいのか分からないし、目的地に一番近い出口も分からない。ただ灰色の建物表示の中にポツンと駅のアイコンがあるだけだ。これではとても地図の役割を果たしているとは言えない。

　そして2つ目。アイコンが大雑把すぎて、街歩きに重要な「コンビニ」「ファーストフード」が他のアイコンと全く同じものになっているということ。
　普通の地図であれば、コンビニやファーストフードは、そのチェーン独自のアイコンで表示されている。なぜなら、これらは道をたどるときに最も分かりやすい目印として機能するからだ。たとえ少し迷ったとしても、地図と目先のコンビニの位置を照らし合わせれば、「ああここか」と気づくことも多い。

　ところがマップでは、コンビニは全てのチェーンがカゴのアイコンで表示されて分かりにくく、ファーストフードに至ってはその他の食事処と同じナイフとフォークのマークに埋もれてしまっている。これではチェーン店が目印として機能することはない。

　Googleもそうだし、その他の地図アプリや、紙や冊子の地図がカラフルなのは、なにも色とりどりのほうが派手に見えるからではない。ひと目で見て分かりやすいように重要な情報を整理して色付けしていった結果として、カラフルになっているのだ。iOS6の配信前から、今回のマップは地味だと批判されてきたけれども、それは必要な情報が整理されていないから地味なのである。

　そして、そうしたマップのデザインは、基本的にアップルの「地図」に対する思想が、根本から間違えていることを意味している。私たちが欲しいのは、多機能だったりデザインが先に立つマップではなく、使いやすく、機能美あふれるマップなのである。

　今回のマップをいじってみるに、まずは地図に対する思想から修正しなければならないし、マップが使い物になるのは相当先の話になるだろう。とはいえ、今だってブラウザでGoogleマップにアクセスしたり、他社製の地図アプリを使うことはできるのだから、マップがダメだからといって、iOS6にしない理由もあまりないのではないかと、個人的には思う。

*1：iOS 6の新しい地図にネット中が困惑　謎の「パチンコガンダム駅」「マクドナルド駅」などが出現（はてなブックマークニュース）http://news.biglobe.ne.jp/trend/0920/hbn_120920_3382091100.html
*2：アップル「ｉＯＳ６」の地図アプリに不満噴出　「ｉＰｈｏｎｅ　５」にも搭載（CNN）http://www.cnn.co.jp/tech/35022056.html

プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

・@T_akagi - Twitter