ARグラス Nreal Airレビュー。メガネ型モバイルモニタの聖杯、動画・ゲームにテレワークに活躍
国内ではKDDI とドコモが販売するARグラス Nreal Air のレビューをお伝えします。
Nreal Air は、ひと言でいえば「サングラス形状の透過型フルHDディスプレイ」。スマホやPCなどUSB-C端子で映像出力できるデバイスに接続すれば、「4m先に130インチ相当」の画面が視界に浮かびます。
特徴は高輝度・高精細の鮮やかな表示と、サングラスそのものの外見、持ち歩きやすさ。既存モデルNreal Lightより輝度が向上したことで、「ポケットに入る大画面ディスプレイ」としての視認性が大きく改善しました。
単なるメガネ型ディスプレイ以上の機能としては、専用のスマホアプリ Nebula を使うことで、仮想空間に5枚までのアプリウィンドウを配置して、ヘッドトラッキングで見渡すようにマルチタスクできるMR (Mixed Reality)モードも利用可能です。
複数のスマホやPCで試した結論から述べれば、どこでも鑑賞に足る鮮明な大画面で映像やゲームが楽しめるのはもちろん、PCのデスクトップを表示しても細かな字までしっかり読める画素密度と高輝度で、プロダクティビティ用途でも実用性十分。
超小型PCや小型Bluetoothキーボードと組み合わせれば、楽に持ち運べて効率的に作業ができる、ハンズフリーで「デスクフリー」なモバイルモニタとして威力を発揮します。
Nrealとは
Nreal Air は2017年創業のスタートアップ Nreal Ltd.が開発したARグラス。呼び方はAR (Argumented Reality / 拡張現実)グラスだったり MR(Mixel Reality / 複合現実)グラスだったり、ただのメガネ以上という意味で「スマート」グラスだったりしますが、要はメガネの形状をした透過型のディスプレイを主機能に、オープンイヤーのヘッドホンスピーカーやマイク、ヘッドトラッキング用の3DoFセンサなどを加えた製品です。
電源は有線接続したスマホやPCから供給するため、本体にバッテリーは非搭載。充電忘れの心配なく使えます。
構造としてはサングラスのアッパーリムの裏部分、ちょうど眉の前あたりに下向きの有機ELディスプレイがあり、眼の前の小さなハーフミラーに反射した映像が視界に重なって見える仕組み。
表から見えるサングラスのレンズ部分に映像が映し出されるわけではなく、小型ディスプレイとハーフミラーを内側に隠したサングラスといったほうが正確かもしれません。
厚みのある構造上あまり深く(目に近く)かけることはできず、ハーフミラー部分がちょうど眼球の前に来るよう、交換式のノーズパッドやフレームのレンズ角度調節を使ってうまく「浮かせる」必要があります。
人によってフィットもかけ方も変わるため、店頭で試す際は展示品の調節をそのままかけるよりも、手でNreal Airを持ってちょうど良い位置を探ったほうが本来の実力を確認できます。
従来モデルNreal Lightとの違い
NrealのARグラスには今回発売になった Nreal Air のほか、2020年発売の既存モデル Nreal Light もあります。
大きな差はNreal Lightが複数のカメラを備え、平面認識やハンドトラッキング、6DoFヘッドトラッキングなどAR機能を訴求するのに対して、Nreal Airはカメラを廃して動画視聴などディスプレイ用途に最適化したこと。
価格も Nreal Lightの税込6万9799円から、Nreal Air は3万9799円と大幅に安くなっています(いずれもau Online Shop価格)。
単に機能を省いた下位モデルというわけでもなく、後発のNreal Airは
・明るさが280ニト相当から400ニト相当へ向上し視認性が改善
・直付けで取り回しが悪かったケーブルを着脱式で柔軟なものに変更
・レンズ部分の角度をヒンジで上中下三段階に調整可能
・つる部分が40度開く構造で装着感を改善
・つる部分にワンタッチの表示オフボタンを追加
など、映像の見やすさと装着感、使い勝手を改善しています。サングラスとしての外見も、丸みを帯びたレンズと主張の激しいカメラで目立っていたLightに対して、Airは平面のレンズで一般的な(でかい)サングラスに近くなりました。
ディスプレイ部分の解像度は、Light / Air どちらも片目につき1920 x 1080のフルHDで共通。視野の広さはLightの対角52度から、Airでは46度にやや狭くなりました。
視野角がやや狭くなった点はダウングレードではありますが、周辺視野も含めて覆う没入感が重要なVRヘッドセットとは異なり、Nreal Airはディスプレイ部の周辺はそのまま周囲が見える透過型の設計であることから、視界に浮く1枚のディスプレイとしての視認性は必ずしも損なわれていません。
逆に表示領域が周辺まで覆っていないことで、眼を落とせば手元のスマホ画面が見えてタッチ操作できたり、キーボードやマウスやPC側のディスプレイや飲み物等が確認できることは利点です。
視野角が狭い分、画素密度は49ppd (pixel per degree)と高精細。たとえばVR環境でのプロダクティビティ用途を推すVRヘッドセットMeta Quest 2は片目につき1832 x 1920ですが、視野角は約90度と広いため密度は約20ppd程度と粗く、同じサイズの仮想ディスプレイ1枚に限った視認性はNreal Airのほうが大きく勝っています。
ミラーリングとMixed Reality
Nreal はスマホやPCに接続するだけでシンプルな外部ディスプレイ+オープン型ヘッドセットとして使えるほか、専用スマホアプリ Nebula を併用すれば、広い仮想空間に複数のディスプレイを並べてヘッドトラッキングで見渡せるモード『MR Spaces』も使えます。
Nebulaの2つのモードのうちひとつの『Air Casting』は、スマホの画面をそのままミラーリングするモード。たとえば縦画面表示なら、1920 x 1080の枠の中央に縮小表示されることになります。
表示領域をフルに使えるのは、たまたま縦横比9:16のスマホを横画面表示した場合のみ。21:9など細長い縦横比のスマートフォンでは、縦画面では中央の細い柱状にしか表示できず、横画面にしても上下に余白が残ります。
Air Castingではミラーリングを中央ではなく片側に寄せることで、横目にスマホ画面を確認する使い方も可能。小さな動画をながら見するような用途を想定したオプションです。
もうひとつのMixed Realityモード(『MR Spaces』)は、Nebulaアプリ側がスマホの本体画面とは別のスクリーンを出力することで、仮想空間に最大5枚までのアプリ画面を配置できるモード。
表示領域は視野角46度分でも、MR Spacesではヘッドトラッキングを使うことで、上下左右を見渡せばそちらに置いたウィンドウが確認できる仮想3D空間的なインターフェースを実現します。
ただし任意のスマートフォンアプリを開けるわけではなく、使えるのはNebula側が用意したYouTubeやTwitter、各種SNS、スマホの写真ギャラリー、Webブラウザ等のみ。複数の WebViewウィンドウを配置する仕組みのため、あらかじめ用意されたアプリのほかは、ウェブブラウザで開けるウェブアプリのみが使えます。
『MR Spaces』は動画サイトとSNSとブラウザを同時に開くなど一定の実用性はあり、今後の可能性も感じさせるものの、制約も多く現時点では手放しで称賛できるものでも、『電脳メガネ』的な新しいインターフェースにも遠い段階です。
制約のひとつは、スマホ側とは別の仮想スクリーンであるために、スマホ本体の画面を直接タッチして操作できないこと。かわりにスマホのジャイロセンサを使い、手元から光線が伸びるプレゼンポインター的なUIで操作します。
このポインターの精度が静止状態でもあまり高くないため、小さなUI要素を狙ってタップするのは難しく、どうしても動画視聴など、たまに限定的な操作をするだけの受け身用途になりがちです。
また5枚まで窓を開けるといっても、それぞれはWebViewで動いているため、ゲームなど普段利用しているネイティブのスマホアプリは使えないのも制約。たまたまウェブでも使える動画サイトやSNS、サービスならばブラウザ窓で使えます。
仮想空間に配置したウィンドウはNreal Airのジャイロや加速度計を使った3DoFヘッドトラッキングで頭を動かして見渡す仕組みのため、たとえば走っている電車内など、トラッキングが狂う状況ではまともに動作しません。トラッキング無効のオプションも選べますが、その場合は固定の1画面になります。
PCとの併用でも使える
専用スマホアプリNebulaを使った『MR Spaces』とは別に、接続先デバイスを問わずアプリ不要の外部ディスプレイとして使うこともできます。
スマホの場合、外部ディスプレイに対してはほとんどの端末が標準ではミラーリングしかできないため、表示領域を有効に使うにはスマホ側を横画面にする必要があるのは難しいところ。それでも動画アプリやゲームを大画面に表示しつつ、操作は手元のスマホ画面を直接タッチできるのは快適です。
外部コントローラでゲームしたり、あるいはBluetoothマウスとキーボードでアプリを操作するなら、手元画面と行ったり来たりすることなく仮想画面だけに集中できます。
一方、PCなどセカンドディスプレイへの出力に対応した機器ならば、ミラーリングではない追加の画面としても利用可能。ノートPCとの接続では手軽なマルチディスプレイ環境になりますが、Nreal Air側の仮想画面は体感約3mほど先、ノートの物理画面は数十センチ先と焦点距離が違うため、頻繁に見比べる用途に不向き。
画面が数インチ級の超小型PCを大画面で操作するなど、Nreal Airをメイン画面にしつつ、必要なときに眼を落として物理画面を参照するような使い方ならば実用的でした。膝の上にPCを載せたまま、大画面のTVを見るような感覚です。
主な使い方の利点と制約を並べると、
・スマホのミラーリング:ゲームなど任意のアプリが使える、タップ操作できる。表示領域はスマホの物理画面の縦横比に依存。スマホの画面消灯で消える
・NebulaアプリのMR Spaces:複数アプリを並べてヘッドトラッキングで見渡す未来的なインターフェース。ネイティブアプリは使えず、リモコン操作に難。ヘッドトラッキングは移動中に使えない。
・ノートPC等との接続:大画面のセカンドディスプレイに。デュアルディスプレイ環境としては焦点距離が違うため一覧はしづらい
それぞれに一長一短ありますが、主たる用途である動画視聴など、Nreal Airの画面をメインに見る使い方ではいずれも実用的に、鑑賞に足る画質で観られます。
Samsung Dexが大勝利
ここからがやっと本題。複数のスマートフォンやPCで試したところ、本来は想定も推奨もされていない使い方ながら、Galaxy 系スマホの機能『DeX』との併用がプロダクティビティ環境として予想外に便利でした。
サムスンのDeXはスマートフォンを外部ディスプレイに接続して使う、PCライクなデスクトップ環境。一般的なデスクトップOSのように複数のウィンドウを開いて自由に配置でき、マルチタスクでアプリを使えます。
重要なのはDeXモードの画面がスマホの本体ディスプレイとは独立したセカンドディスプレイ扱いで、Nreal Airを最大限に活用できる1920 x 1080 (16:9)横画面出力になること。
ミラーリングではないためスマホ画面の縦横比に左右されず、横画面に切り替える必要もなく、スマホ側の画面をオフにしてもそのまま利用できます。
Androidは標準でマウスやキーボード操作に対応するものの、スマホでは解像度が高くても狭い画面に最適化したタッチ前提のインターフェースになってしまい、情報量も制限されてしまうため、大きなディスプレイにミラーリング接続してもPCの生産性は望めません。
しかしDeXモードなら、フルHD解像度をPC同様に活かせるインターフェースで、ウィンドウ2枚横並び程度のマルチタスクも十分に実用的。スマホの画面では難しい「資料を参照しながら別窓で編集」もタスクスイッチせずにこなせます。キーボードにポインタがない場合、マウスやトラックボールまで持ち歩かない場合でも、DeXの機能でスマホ画面をタッチパッドとして利用可能です。
非常にニッチな「ノートPCを持ち歩かない軽装でも、いざとなったらスマホと(小型 / 折りたたみ)キーボードでなんとかしたい」需要の話をすれば、従来でもテーブルさえあればスマホの狭い画面を我慢しつつ作業はできました。
しかしここにハンズフリー・デスクフリーなディスプレイとしてのNreal Airが加われば、スマホを置く机すらなくても膝上キーボードだけで、使い物になるサイズと解像度のディスプレイで作業ができることになります。
(スマホを立てられるスタンド付きキーボードもありますが、膝上で安定するものは選択肢が限られるうえ、角度的に首に負担がかかる、横から覗き見し放題という問題も)。
持ち歩き用のキーボードまで吟味して「どこでも快適に作業できる最小ロードアウト」を追求するピンポイント需要がどこまであるかはさておき、持ち物は軽く小さく少なく、どこでも快適な環境で映像を観たり作業したい根源的なニーズは、昨今のテレワークやハイブリッドワークの流れでますます強くなっているはずです。
スマホやPC、iPad (USB-C端子モデル)と接続するだけで実用性十分な大画面になり、サングラス(とケーブル)の体積しか専有しないNreal Airは、組み合わせる機器とユーザーの数だけ使い方が広がる、大げさにいえば持ち歩く機器のロードアウトを刷新する可能性を秘めています。
課題と気づいた点
主にモバイルモニタとしての映像品質と可搬性について激賞しましたが、とはいえ発展途上のカテゴリではあり、仕様的に微妙な点、さらに改良されたモデルに期待する点は多々あります。
・「AR」は限定的
製品そのものの瑕疵というより、使う側の期待マネジメントの話として、現実と映像を重ねるAR機器としての使い方は限定的。
カメラを廃した簡易版なので、平面認識(床や壁にキャラクターや画像を重ね合わせる)、ハンドトラッキング(カメラに映った手を解析してジェスチャ操作認識)など高度なAR機能は使えません。透過型なので映像は現実に重なってみえますが、物体や壁、床に重ね「合わせる」機能はなし。
同様に、空間にウィンドウを配置するMR Spacesも一定の実用性はあるものの限定的。AR / MRの可能性を体験したいなら併売のNreal Lightや、それこそMagic LeapやHoloLensなど別のデバイスを試すべきです。
・有線式はやはり面倒
有線式が結果として小型化やコスト低減、バッテリー不要仕様につながっていることは確かですが、サングラスのつるの先から伸びたケーブルがスマホとつながるのは絶妙に不便。
付属ケーブルは斜め後ろ下方に伸びるため、そのまま折り返すか、背中なり首の後ろを回して手元の機器と接続することになりますが、ケーブルの柔軟性にも限りがあり妙な方向に余って邪魔になるか、逆に頭を動かすと引っ張られるなど、さばき方に悩みます。
幸いUSB-Cケーブルはシールドとデータ伝送帯域がしっかりしたものならば動作はするため、より柔軟なものを探したり、クリップで襟に止める、市販のメガネ落下防止ストラップと一体化する等の改善はできそうです。
別売りのアクセサリとしては無線で映像のキャストを可能にするNreal Streaming Boxもあり、iPhoneなど直接USB-Cで有線接続できない機器でもミラーリングには対応しますが、無線部分とバッテリーを内蔵した箱をやっぱりケーブルでNreal Airと接続する仕組みです。
・明るい場所ではコンテンツを選ぶ
透過型の仕組み上、周囲が明るいときは映像を貫通して向こう側が見えます。Nreal Airは輝度が高くなったため、屋内やあまり明るくない時間・天候ならば十分に見やすくなったものの、もっとも暗い部分でも原理的に「やや濃いめのサングラス」の暗さ。暗いシーンが多いコンテンツは、屋内でも向こう側の現実がはっきり見えてしまい没入感が損なわれます。
こうした場合のために付属するのが、サングラスの前面に取り付ける「目隠し」のライトシールド。自室での動画鑑賞など、見えなくて逆に危険という状況でなければ、向こう側が透ける問題はライトシールドで解決可能です。
・裸眼視力に依存。視力補正は要レンズ作成
一般的なメガネと同じく耳にかけたツルと鼻あてで保持する仕組みのため、メガネ on メガネは困難。普段の視力矯正用眼鏡を使いたいなら、何らかの手段で固定する必要があります。
対策としては視力矯正用のインサートレンズフレームが最初から付属しており、度付きレンズを眼鏡店などで作成したのち、Nreal Airに装着して使うことは可能です。
まとめ
AR機能は限定的。しかし映像視聴や単なるモバイルディスプレイとしては、高輝度・高精細による視認性の高さ、周囲を確認しやすい視野角も含め実用性十分。
ファッションや当人の美学的にアリかは別として、知らない人が見れば単なる大きめのサングラスにしか見えないこと、周囲を確認できるため公共の場所で利用しやすいのも利点です。
何よりサングラス+ケーブルだけの体積で汎用性のあるモバイルディスプレイを持ち歩け、手持ちのデバイスが多いほど応用が広がるのは大きな魅力。
しばらく使い慣れてから持ち出し忘れると、長距離移動中にイヤホンを忘れたことに気づいたときと似た感覚に襲われるほど手放せなくなるアイテムです。
追記。ノートPCなどと違い横から肩越しに覗き見されるリスクはありませんが、ハーフミラーにはばっちり映像が映っています。文字どおり鼻を突き合わせる至近距離から君の瞳に乾杯されると、どんな種類のコンテンツを見ているか程度は漏洩するかもしれません。何が映っているかは分からないまでも、周囲の環境によっては「サングラスの奥の眼が光ってる謎キャラ」になる可能性もあります。