「上場企業財務力ランキング」

写真拡大 (全10枚)


アメリカ・ニューヨークでブラックフライデーに任天堂の店舗に入るために並ぶ買い物客たち(写真:2021 Bloomberg Finance LP)

ESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)など非財務関連の情報を企業分析に使おうという動きが広がりつつある。だが、これだけで企業の評価は難しく、やはり財務力が基本になることは間違いない。

この財務面での企業の真の力を探ろうとする「財務力ランキング」は今回16回目の作成となる。成長性、収益性、安全性、規模の4つのカテゴリーで、それぞれの財務指標(3年平均)を多変量解析の「主成分分析」で相対評価。各得点を合計して作成した。

指標は財務諸表分析で基本的な項目が中心。このうち収益性、安全性、規模の3つの得点はCSR企業ランキングの財務得点としても使用している。

ランキングの対象は2021年9月1日時点で上場している一般事業会社(銀行、証券・先物、保険、その他金融は除く)で、2021年3月期までの財務データが1期以上取得可能な3580社だ。今回は、このうち上位300社をご紹介する。なお上位1000社は4月発売の『CSR企業白書』2022年版に掲載する予定だ。

2年連続で任天堂が首位に

ではランキングを見ていこう。1位は2年連続で任天堂(3870点)だった。


昨年発売した『CSR企業白書』2021年版(東洋経済新報社)。書影をクリックすると東洋経済STOREのサイトにジャンプします

成長性950点、収益性920点、安全性1000点、規模1000点と高得点がずらりと並び2位以下を圧倒。2021年3月期の総資産2兆4469億円のうち現金預金が1兆1851億円を占める。2020年3月から1年間で現金預金が2947億円増加するという「超キャッシュリッチ」だ。自己資本比率76.6%、有利子負債ゼロといった安全性の高さを示す指標は数多い。

売上高は2021年3月期に1兆7589億円と昨年から34.4%上昇するなど成長性も高レベル。売上高営業利益率36.4%、ROE25.6%など収益性も高い評価となった。

ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の爆発的な人気も一服し、今期2022年3月期の会社予想は売上高1兆6500億円、純利益は4000億円と若干低下傾向にある。だが、各指標は圧倒的な強さを示す。第3回から第5回まで3年連続トップだった同社が、再び3年連続首位となるか注目だ。

2位は昨年7位から上昇した中外製薬(3809点)。成長性908点、収益性914点、安全性987点、規模1000点と高得点。12月決算のため、2020年12月期までが対象となっている。売上高は2018年12月期の5797億円から2020年12月期には7869億円と35.7%増加。純利益は同じく924億円から2147億円と2.32倍になった。売上高営業利益率、ROE、ROAなどの利益率の高さで収益性得点も高レベルとなっている。

政府に供給するコロナ抗体カクテルなどで2021年12月も増収増益で最高益も更新を続ける。サステナビリティ面での評価も高い同社の財務トップが見えてきたようだ。

3位は昨年6位から上がった武田薬品工業(3788点)。成長性952点、収益性853点、安全性983点、規模1000点と高得点。アイルランドの製薬大手・シャイアー買収で売り上げ、利益とも急拡大し、3年平均データを使う成長性得点は高水準を維持。さらに大衆薬事業売却で2021年3月期の営業利益が5092億円と昨年1004億円から5倍となり収益性も上昇した。

伊藤忠商事は昨年3位から一歩後退

4位は昨年3位から一歩後退の伊藤忠商事(3755点)。成長性908点、収益性863点、安全性984点、規模1000点と安全性、規模が高得点だった。豪州石炭事業の減損などで2021年3月期の純利益は4014億円と昨年比で19.9%減益。成長性得点も悪化した。しかし、2022年3月期は鉄鉱石価格上昇などで一転、最高益の見込み。次回はさらに上位に食い込む可能性も高そうだ。

5位は村田製作所(3728点)が昨年11位から上昇。電子部品大手の同社はセラミックコンデンサーで世界トップ。2021年3月期にROE、ROAが改善し、収益性が昨年の830点から888点に上昇。総合ポイントを押し上げた。

6位は東京エレクトロン(3722点)。半導体製造装置で世界4位の同社はもともと高い安全性、規模が今年も満点。だが、成長性が昨年の846点から797点に下がり、順位を落とした。

以下、7位KDDI(3719点)、8位ファーストリテイリング(3710点)、9位Zホールディングス(3706点)、10位キーエンス(3685点)と続く。

11位以下で大きく順位を上げたのは、111位→57位のTDK(3565点)、121位→60位の東芝(3558点)、251位→79位のヤマダホールディングス(3515点)などだった。

続いて、各業種のトップ企業をいくつか見ていこう。水産・農林業/鉱業/建設業は17位大和ハウス工業(3660点)が24位積水ハウス(3636点)を抑えた。食料品は36位JT(3611点)が飲料・食品メーカーを上回った。

医薬品は2位中外製薬(3809点)。機械は15位ダイキン工業(3668点)。情報・通信業は7位KDDI(3719点)、小売業は8位ファーストリテイリング(3710点)、不動産業は19位三井不動産(3659点)、サービス業は11位リクルートホールディングス(3674点)だった。

過去のトップ企業の現状

最後に過去15回のランキングトップの現状をご紹介する。第1・2回トップの武田薬品工業は3位。第3〜5回の3年連続トップ任天堂は2年連続首位。任天堂を上回る4年連続トップ(第6〜9回)だったINPEX(旧:国際石油開発帝石)は58位(3559点)、第10・11回トップのSUBARU(旧:富士重工業)は64位(3554点)と若干低下気味。第12、13回トップのZホールディングス(旧:ヤフー)は9位(3706点)と過去のトップ企業はいずれも100位内に残っている。


すでに2022年3月期は第3四半期の発表を終え、第4コーナーも終盤だ。コロナ禍の中でも最高益を狙う企業が多数存在している。こうした企業はコロナが終息した後でも好業績を維持できるのか。今回のランキング上位企業も含めて今後のランキングの行方に注目したい。







●第16回東洋経済・上場企業財務評価(東洋経済財務力ランキング)について

東洋経済新報社「財務・企業評価チーム」が作成。アドバイザーは明治大学大学院商学研究科の山本昌弘教授。東洋経済が保有する財務データを使い、多変量解析の主成分分析手法で成長性、収益性、安全性、規模の4つの分野で評価した。

対象会社は原則として2021年9月1日時点に上場している一般事業会社で、銀行、証券・先物、保険、その他金融を除き、各新興市場を含む。決算期は2021年3月期までが対象。財務データは上場後の決算で直近3期平均(最低1期は必要)を使用。指標データなどで分母がマイナスになり計算ができない場合、その期は「計算不能」となる。

決算ベースについては、各期とも連結優先。ただし、連結開始や廃止などで連結と単独が混在する場合もある。また、変則決算がある場合は6カ月以上の決算期のみ使用。売上高、営業利益、経常利益、当期純利益などのフロー項目は12カ月に調整した。

分析手法として使ったのは多変量解析の主成分分析。この手法は多数の変数を要約し、少数の情報で全体の特性を代表させることができる。財務データのような多数存在する項目を少ない情報に集約でき、総合評価が可能になる。

主成分分析で求められた第1主成分得点を偏差値化し、異常値をならすために最大70、最小30に変換。さらに最高1000、最低500に調整して各分野の得点とした。4つの評価分野の各得点を合計したものが総合得点となっている(総合得点の最高は4000点)。

■ランキング算出に使用した財務指標

【成長性】売上高増減率、営業利益増減率、営業キャッシュフロー増減率、総資産増減率、利益剰余金増減率
【収益性】ROE(当期純利益÷自己資本)、ROA(営業利益÷総資産) 、売上高営業利益率(営業利益÷売上高)、売上高当期純利益率(当期純利益÷売上高)、営業キャッシュフロー
【安全性】流動比率(流動資産÷流動負債)、D/Eレシオ(有利子負債÷自己資本)、固定比率(固定資産÷自己資本)、総資産利益剰余金比率(利益剰余金÷総資産)、利益剰余金
【規模】売上高 、EBITDA(税引き前利益+支払利息+減価償却費)、当期純利益、総資産、有利子負債
注)EBITDAの支払利息と減価償却費はキャッシュフロー計算書掲載の数字を使用

(岸本 吉浩 : 東洋経済『CSR企業総覧』編集長)