「10万円超の最新iPhoneがなぜか1円」携帯キャリアがスマホの投げ売りに走る意外なカラクリ
■最新のiPhoneが1円で売られるカラクリ
家電量販店やキャリアショップでアップル・iPhoneが「1円」「23円」といった破格値で投げ売りされている。
昨年はiPhone SE(第2世代)という4G対応の、やや古い(といっても2020年発売)iPhoneが投げ売りされていたが、最近ではiPhone 12 miniやiPhone 13 miniといった5G対応モデルも1円で売られるようになった。しかも、NTTドコモやau、ソフトバンクなど各キャリアで同様の売り方をしている。
果たして、なぜこんな値段で売られているのか。実際に購入して、損したりだまされたりすることはないものなのか。
まず、どのようなカラクリで1円が実現されているものなのか解説していきたい。
■実際は最新iPhoneを2年間“レンタル”できる仕組み
例えば、auで売られているiPhone 13 mini 128GBの場合、本体代金は10万1070円となっている。
ここに「対象機種限定特典」として3万2509円、「他社からの乗り換え」として2万2000円の割引を提供。残りの額が4万6561円となる。
1円での購入は「スマホトクするプログラム」という24回の分割払いへの加入が条件となるが、23回分はそれらの割引が適用されるため、本体代金については契約から23カ月間は1円しか支払わなくていい。24回目の支払時に残りの額となる4万6560円が設定されている。
この24回目の支払いは、端末をauに返却すれば請求されない仕組みとなっている。つまり、この1円というのは「24回目の支払い前に端末を返す」という「2年間のレンタル契約」といった方が実態に近いと言えるのだ。
「iPhoneを2年ごとに買い換えたい」という人にとっては2年間、iPhoneを1円で使えるというのは大きなメリットだろう。2年後、手元にiPhoneは残らないが、また同じ仕組みでiPhoneを調達すればいいだけの話だ。
2年後も同じiPhoneを使い続けたいのであれば、残債となる4万6560円を支払えばいい。それでも5万円以上の割引が適用されたiPhone 13 miniを使えるのだから、かなりトクしていると言えるだろう。
■スマホの割引をあえて複雑にする理由
すんなりと割引を適用すればいいものの、かなりわかりにくい仕組みで、「1円」を提供しているのはなぜなのか。
背後にあるのは総務省によるスマートフォンに対する割引規制だ。2019年秋に電気通信事業法が改正され、キャリアはスマートフォンの販売に対して、大幅な割引ができなくなってしまったのだ。
端末の販売価格が一気に高騰したのだが、それではユーザーはスマートフォンを購入してくれない。これまで「1円」「ゼロ円」での販売が当たり前だっただけに、10万円を超える値付けでは「高い」と言って購入を見送る人が多くなった。そこで、各キャリアが苦肉の策として投入してきたのが、以前からあったレンタルのような売り方に高額な割引を適用させて売るやり方だ。
総務省による改正電気通信事業法では「回線契約している人」に対しては2万2000円まで割り引いていいという条件がある。先述の「他社からの乗り換え」として2万2000円が割り引かれるのはこのルールが適用されている。キャリアとしてはiPhoneを目玉に新規顧客を獲得していきたい。そこで、他社から乗り換え、回線契約をしてくれる人に2万2000円を割り引くのだ。
■ドコモユーザーであってもauショップでスマホは買える
一方で改正電気通信事業法では「回線を契約していない人にも端末を販売しろ」としている。つまり、今ではauを契約していないユーザーでもauショップでiPhoneを購入することができるのだ。
もちろん、回線契約をしていない人の場合、2万2000円割引は適用されない。
今回の1円販売の場合、「対象機種限定特典」として3万2509円は誰が購入しても適用される。つまり、auショップでiPhone 13 miniを3万2509円割り引いているから、ドコモユーザーが購入することも可能だ。
ただし、3万2509円の割引を受けるには先述のauが提供する「スマホトクするプログラム」で購入しないといけない。
そもそも、「ドコモユーザーがauショップでも買える」ということはあまり認知されておらず、さらにわざわざドコモやソフトバンクユーザーがauの提供する販売プログラムで購入するというのも面倒だ。結果として、キャリアが新規に顧客を獲得するために1円で投げ売りされているのだ。
ユーザーからすると、1円で購入するには他社に乗り換えなくてはならないというハードルが存在する。
しかし、今では同じキャリアを長期間、契約し続けても割引などのメリットはない。「メールアドレスが変わるのが困る」といっても、昨年12月から、メールアドレスの持ち運びが可能となり、「@docomo.ne.jp」のアドレスは、NTTドコモを解約しても、月額300円程度を追加で支払えば、auやソフトバンクでも利用可能だ。
キャリアを乗り換える障壁はなくなっており、2年ごとに乗り換えやすい環境が整っているのだ。
■5Gスマホユーザーは2.5倍もデータを使ってくれる
新規に顧客を獲得したいとはいえ、最新のiPhone 13 miniを投げ売りするとは驚きだ。
しかし、ここにもキャリアのしたたかな戦略が見えてくる。昨年、iPhone SE(第2世代)を投げ売りしていた時、キャリア幹部に話を聞いたところ「iPhone SE(第2世代)ではなく、本来ならiPhone 12 miniを売りたい。今更4Gスマートフォンを投げ売りしても仕方ない」というのだ。
4Gスマートフォンと5Gスマートフォン、大した違いがないように見えるが、KDDIの決算資料によれば、5Gスマートフォンのユーザーは4Gスマートフォンのユーザーに比べて2.5倍もデータ通信量を消費するという。
菅政権により、各キャリアは料金値下げを迫られ、UQモバイルやワイモバイルといったサブブランドや、「ahamo」などのオンライン専用プランを強化せざるを得なくなった。
これらの安価な料金プランはデータ容量が数GBから20GBの小・中容量が中心だ。「データ容量が少ないから料金が安い」という立て付けになっており、4Gスマートフォンのユーザーがこうした料金プランに大挙して移転されては、キャリアにとってみれば収益に大きなダメージを被りかねない。
■キャリアはやや割高なプランで動画を見まくってほしい
一方で、5Gスマートフォンに乗り換えてくれれば、高速通信に対応し、チップの処理速度も速く、画面も大きくて奇麗なので、ユーザーは大量にネットにアクセスして、NetflixやYouTubeなどの動画を見まくってくれる。結果として、サブブランドやオンライン専用プランではデータ容量が足りずに、メインブランドが提供する、やや高めの「データ使い放題プラン」に乗り換えてくれるというわけだ。
auでは、NetflixやYouTube Premium、Apple Musicなどに加えて、Amazon Prime、先ごろ、3000円へ値上げが発表されたDAZNの使用料がセットになったプランを投入するなど、コンテンツをお得に見られるようにしつつ、データ通信量を稼ごうとしている。
キャリアにとってみれば、値下げ圧力で通信料収入の減少が危惧される中、通信料収入を上げるには5Gスマートフォンを早期に普及させる必要がある。そのエンジンとして期待されているのがiPhone 13 miniの1円販売というわけだ。
1円販売の条件にはもうひとつ「新規契約(22歳以下)」という条件をつけているところも多い。iPhoneをあまり利用しないユーザーを獲得しても、キャリアにとってもメリットは低い。むしろ、LINEやInstagramといったSNSや、YouTubeやTikTokなどの動画を視聴し、データ通信量を大量に利用するであろう22歳以下の若い年齢層をターゲットにした方が収益増を期待できるというわけだ。
■年度末はスマホデビューの絶好のタイミング
例年、スマートフォン業界は2月から3月にかけてが1年の中で商戦期といわれている。
卒業、入学、進学、就職など、学生や新社会人が、こぞってスマートフォンデビュー、あるいはキャリアを乗り換えたりする需要が一気に高まるのだ。
「これまで親がスマホの通信料金は支払っていた」という子供が社会人デビューするとなれば、新しいスマートフォンを購入するとともに、親とは別のキャリアを契約することにもなるのだ。
つまり、iPhone 13 miniの1円販売はこれからが活況になってくる可能性が高い。もしかするとiPhone 13 mini以外の機種にも派生する可能性もあるし、さらにお得な販売方法が登場してくることもあり得るだろう。
過去にも1円やゼロ円の販売が広がったが、総務省が待ったをかけ、事業法が改正されて今のルールに落ち着いてきた。
ここ最近、広がるiPhoneの1円販売について、KDDIの高橋誠社長は「基本的に事業法の範囲内で対応しており、端末価格は代理店が設定している。お客様は端末をお買い求めになるときに本体価格をとても重視していると感じている」とコメント。キャリアではなく、販売店側が主導して、1円販売を展開しているとのことだ。
iPhoneを定期的に買い換えたい人や、この春スマートフォンデビューを予定している学生や新社会人は、ぜひとも、家電量販店やキャリアショップで、お得にiPhoneを「レンタル」するといいだろう。
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石川 温(いしかわ・つつむ)
ジャーナリスト
1998年、日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、月刊誌『日経トレンディ』編集記者に。2003年に独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、テレビ、雑誌で幅広く活躍。
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(ジャーナリスト 石川 温)