コロナ禍を機にリモートワークが増え、働く場所や住む場所に対する考え方が変わりつつあります。地方への移住もそのひとつ。今回は香川県で特に移住に力を入れている三豊(みとよ)市をフォーカス。その充実の支援内容と移住者の声を紹介します。

暮らしやすさ満点! 三豊市の魅力

香川県西部に位置する三豊市は、海や山が近く、自然豊かな場所です。最近では日本のウユニ塩湖と呼ばれる「父母ケ浜(ちちぶがはま)」や、瀬戸内の多島美と桜が美しい「紫雲出山(しうでやま)」が有名になりました。

また三豊市はフルーツ王国といわれるほど、果物の栽培が盛んな地域です。みかん、いちご、桃、ぶどう、柿、梨など一年中さまざまなフルーツを味わうことができます。産地直売所も多く、店頭には旬の果物や野菜がずらりと並んで毎日活気にあふれています。

食や自然の魅力に加え、充実の移住支援制度も整っている三豊市では近年移住者が増えつつあります。

三豊市の移住支援策

拠点探しを強力バックアップ!

まずご紹介したいのが、拠点探しの強力な助っ人「空き家バンク」制度です。空き家を売りたい・貸したい人と、買いたい・借りたい人との橋渡しを行うシステムとして全国の自治体で取り入れられていますが、、三豊市では地域の空き家を利活用しながら、定住を促進する制度として取り組んでいます。移住者にとっては移住の“はじめの一歩”をサポートしてくれる重要な制度となっており、人口10万人未満の都市のなかでは、空き家バンクの成約件数が全国一位となっています(2020年度、宝島社『田舎暮らしの本』調べ)。

三豊市の移住定住ポータルサイト「みとよ暮らし手帳」には、常時約90件の空き家情報が掲載されています。価格やエリアなどから検索できるようになっており、豊富な選択肢の中から、自分たちの求めるライフスタイルによって物件を選べるのが魅力です。

<空き家バンクの物件登録件数と成約件数の推移>

物件の登録件数(三豊市提供)
成約件数(三豊市提供)

住まいに関する補助金が充実

また、三豊市では、空き家の改修に対してのサポートも行っています。
空き家バンクの登録物件を購入した場合、リフォームに要した金額の2分の1(上限100万円)の補助が受けられます。また、借りる場合には月1万円の家賃補助が最大2年間、さらに礼金や仲介手数料の初期費用の補助(上限3万円)があります。

空き家バンクを利用しない場合、40歳未満の住宅取得者に対して最大100万円の補助金があります。また、県外から移住した人の家賃補助(上限:月2万円、初期費用6万円)が最大2年間受けられる制度もあり、移住者の心強いバックアップとなっています。

※補助制度については、変更の可能性があるので、最新の情報をご確認ください。
※各補助金には要件があります。また、併用して受けられない補助金もあります。詳しくは、三豊市政策部地域戦略課にお問い合わせください。

手厚い子育て支援

三豊市では、子ども医療費助成をはじめ、妊娠期・子育て期のホームヘルプや子どもの一時預かりの利用をサポートする「子育て応援サービス券」の支給、3歳~5歳までのすべての子ども達の給食費が無償といった、手厚い子育て支援策を展開。香川県内外を問わず、移住を考えている人からの注目が高くなっている理由は、そんなところにもあるようです。

移住者の声~職場の火事をきっかけに人生のリスタートを決意した澤井元気さん

今回は大阪から三豊市に移り住んだ澤井元気さんをご紹介します。奥さまと子どもさんの3人家族。さらに1匹の猫と一緒に暮らしています。

澤井さんが移住したのは2018年。きっかけは当時働いていた職場が火災に遭い、これからの人生を考えたときに、誰も通ったことのない自分の道を歩んでみたいという想いに駆られたこと。

「誰かが決めた道ではなく、自分が決めた道を歩く人生を選びたい!」そんな強い想いを胸にリスタートする場所を探しました。仕事はもちろんのこと、創作活動が可能か、暮らしやすい場所かといったことを、前提にして考えました。

 

移住先として京都や淡路島など関西圏の街を調べるところから始めたものの、なかなか「ここだ!」と思える町に出合えなかった澤井さん。

そんな折、大学時代の友達にUターンで三豊市に住んでいる友人がいたことを思い出し、相談してみたそうです。※写真は2020年に香川県内で開催されたアートイベント参加時の澤井さんファミリー(澤井元気さん提供)

先輩移住者の生の声を聞いて、三豊市への移住を決断

「実際に三豊市を訪れると、友人が同世代の地元の友達を紹介してくれて、みんな家族連れで鍋をつつきながら、いろんな話をしてくれました。三豊市のいいところや空き家バンクのこと、子どもの医療費助成のことなど、生の声をたくさん聞くことができて、具体的なイメージがつかめましたし、安心感も得られました」(澤井さん)

このことをきっかけに、澤井さんは三豊市への移住を決断。空き家バンクを利用して拠点を構え、三豊市の地域おこし協力隊としての活動を通して地域になじんでいきました。現在は、移住当初からの目標だった自分の道を歩むべく、起業に向けて準備を行っているところです。

地域おこし協力隊メンバーとして竹林の整備に参加する澤井さん(澤井元気さん提供)

空き家バンク制度と各種補助金を活用し、起業準備をスタート

澤井さんご夫妻はともに大阪芸術大学ご出身。卒業後も芸術祭への出展など美術活動を続けています。また、学生時代の作家仲間との交流が今も続いていることから、多様なクラフトを集めた、クラフト雑貨店をオープンさせる予定なのだとか。

前職で自主制作の家具を作っていた経験も活かし、技術やアートを盛り込んだ空間になる予定。まさに澤井さんにしか歩けない道を歩んでいます。

「空き家バンクには賃貸物件が少ないのですが、私の場合、運良く賃貸物件に出合うことができました。今回の起業に向けて店舗併用住宅が必要となり、前の家を引っ越すことになったのですが、これも賃貸だからできたこと。幸運でしたね」(澤井さん)※右写真は澤井さんファミリーの作品(澤井元気さん提供)

 

次の拠点となる店舗兼住居も空き家バンクを利用して購入したという澤井さん。リフォーム補助金を使って住居部分のリフォームを行う予定で、さらに、起業をバックアップしてくれる創業補助金も申請予定。三豊市創業支援事業補助金は新たな事業活動を促進し、市内産業の活性化を図る目的で実施されているもので、広告宣伝費や印刷製本費のほか、多言語への翻訳料なども補助金に含まれるそう。

空き家バンクを利用して購入した、新たな拠点(澤井元気さん提供)

加えて、澤井さんのように空き家バンクを事業所として活用する人については改修費も含まれ、補助対象経費の3分の2以内で最大50万円(空き家バンクを利用しない場合は最大30万円)の補助が受けられます。(澤井さんのように住宅と店舗部分が明確に分けられる場合、空き家バンクのリフォーム補助を住居部分に、店舗部分を創業補助金に充てることで、併用が可能です。)

大切なのは移住先でどうなじんでいくか

実際に住んで感じる、三豊市の良さについてもお聞きしました。

「大阪での暮らしは家のすぐそばに道路があり、子どもが飛び出したらと思うと心配でしたが、今は子どもをのびのび育てられていい環境だなと思いますね。あと、子どもの医療費も大阪では数百円は支払っていましたが、こちらでは無料なのも驚きましたし、うれしいサポートだなと感じています」(澤井さん)

最後に移住を考えている人へのメッセージもいただきました。

「私の場合、思い立ったときに行動できたのがよかったと思います。友人が友人をつないでくれるなど、今も“いいつながり”が保てていますから。移住に関していろいろ相談を受けることもありますが、“全部が思い通りになるなんて思わない方がいい”と答えています。自分の思いを通すために移住するよりも、移住先で自分がどうなじんで行けるかが大事。そういったスタンスでいれば、自然と仲間が増えてくるんじゃないかなと思いますね」(澤井さん)

地域おこし協力隊での活動も、地域になじむ助けとなった(澤井元気さん提供)

土地の魅力と市の強力なサポートがあって、人の暮らしが根付き、いつか花を咲かせる。そんな理想的な移住を垣間見ることができました。

まとめ

移住計画を進めるにあたって重要なポイントとなる住まいについては、賃貸にするか、購入にするか、場所はどうするか、など決めることはたくさんあります。三豊市のように空き家バンクだけでなく、家賃補助やリフォーム補助などが充実していると、移住後の生活も安定しそうです。移住先として気になる地域があったら、まずは住宅支援制度をチェックしてみるといいでしょう。

【取材協力】
三豊市政策部地域戦略課
澤井元気さん

【参考サイト】
三豊市移住定住ポータルサイト「みとよ暮らし手帳」