青い梅は青いままに。「青梅の甘露煮」の作り方【神谷よしえさんの12カ月の手仕事 #1】

7月の手仕事:青梅の甘露煮

四季折々、さまざまな風景や風情が感じられる日本には、代々受け継がれる季節の手仕事があります。便利になって日常ではなかなか目にできなくなったものもありますが、こうした先人たちの知恵に今一度目を向けるのも、ひとつの季節の楽しみ方といえるでしょう。

この連載では、大分を拠点に全国の調味料や食材の魅力を発信しているフードアドバイザーの神谷よしえさんに、生活の知恵ともいえる手仕事を季節のレシピと共に教わります。

初回のテーマは、さわやかな酸味と梅のおいしさがぎゅっと詰まった「青梅の甘露煮」。5~7月の短い期間にしか採れない青梅は、甘露煮にすれば保存食としておせち料理などでも一楽しむことができます。

「梅雨が近付くと、スーパーの店先には青梅が並びます。最近は、梅酒や梅シロップを手作りする方が増えましたよね。

この時期になると、私のいる工房でも青梅が木からぽろぽろ、ぽろぽろと落ちてくるんです。なので毎日、梅仕事に追われています(笑)。

採れた梅は梅ジャムや梅干しなどさまざまな形に加工するのですが、特に先人の知恵がすばらしい青梅の甘露煮をご紹介したいと思います」

梅の甘露煮は、完熟した梅ではなく青梅を使いますが、青梅は火を入れると黄色く変色してしまいます。そこで、色粉を入れずにきれいな青色に仕上げる方法を、神谷さんが教えてくださいました。

夏のぜいたく。青梅の甘露煮のレシピ

調理時間:2日
保存期間:冷蔵で約6カ月(しっかりと蜜に漬けた状態で)

「一番手前が普通の鍋で煮た甘露煮で、奥側の2個は、銅鍋で煮たものです。全然、色が違うでしょう?梅は火を入れると青から黄色へと変化します。青梅は青いまま楽しみたいですよね。

きれいな色に仕上げるポイントは、煮込む際に銅鍋を使うこと。銅の作用で、何度もゆでこぼしていく間に鮮やかな青色が戻ってきます。また、低温でじわじわと火を入れることで果肉がやわらかくなり、美しい梅の甘露煮に仕上がりますよ。

そう、梅の甘露煮は想像以上に手間暇のかかる、ぜいたくなスイーツなんです」

材料(作りやすい分量)

・青梅……約500g
・水(アク抜き用)……約500cc
・塩(アク抜き用)……40g
・砂糖……500g(白ザラメ、グラニュー糖などでも可ですが、味わいは変わります)
・水(シロップ用)……500cc

下準備

・青梅をよく洗い、ヘタを取る
・針打ちをして、8%の塩水につけてアクを抜く
・銅鍋の内側もしくはよく洗って消毒した10円玉にしょうゆを塗って、緑青(ろくしょう)を作る

作り方

1. 緑青を生成した銅鍋に青梅を入れ、梅が浸るまで水を加える。ごく弱火で50℃まで火を入れて、そのまま常温で冷ます

2. 再び50℃まで火を入れて冷ます。この工程を3回繰り返す

3. 煮崩れに気を付けながら、鍋の脇から流水で水を入れ替える

4. ごく弱火で80~90℃まで火を入れて、そのまま常温で冷ます。冷えたら、鍋の脇から流水で水を入れ替える

5. 再び80~90℃まで火を入れて冷まし、水を入れ替える。この工程を3回繰り返す

6. 別の鍋に水と砂糖を入れて煮立てて蜜を作り、その蜜に青梅を浸し冷ます

7. 密閉容器に移し、冷蔵庫で保存する

コツ・ポイント

まんべんなく針打ちをする

煮崩れを防ぐために、青梅をまんべんなく針打ちします。その後、8%の塩水にひと晩つけアクを抜きます。

「針打ちは、ホームセンターや100円ショップなどで手に入る小ぶりな剣山を使うのがおすすめです。針山の上に梅を転がすだけで均等に穴が空きます。

360度まんべんなく針を打つことが大事。全体に穴を空けないと、煮込んだときに空気が膨張し、梅の実が破裂してしまうんです」

銅鍋、10円玉を使って緑青を作る

梅を青くするのが、緑青(ろくしょう)と呼ばれる青色の溶液。銅鍋を用意し、内側に濃口しょうゆを塗って少し置けば、緑青ができます。

青梅の甘露煮作りには銅鍋の使用が推奨されていますが、神谷さん曰く、銅鍋がない場合は10円玉20枚ほどに濃口しょうゆを塗って置いておくことで代用可能だそうです。

「よく洗って消毒した10円玉に1枚ずつ本醸造しょうゆを塗ると、30分ほどで緑青ができますよ。

緑青が作れたらその銅の溶液と梅を一緒に鍋に入れます。10円玉の場合も同じです」

じっくりと火を入れ、同じ作業を根気よく繰り返す

梅と銅の溶液を入れたら、ひたひたになるまで水を張り、ごく弱火で50℃まで火を入れます。

「梅の実は、じっくりと火を入れることで、果肉がやわらかくなります。一気に温度が高くなってしまうと梅の皮が破れる原因に。火加減がとても重要なので、温度計を使いましょう」

冷やして50℃まで火を入れる作業を3回繰り返したら、水を入れ替えます。そして今度は約80℃まで火を入れ、冷ましては水を替えます。これを3回繰り返します。

「90℃くらいになると、梅が鍋の中で踊りだし、皮が破れてしまいます。

火を入れて冷ます作業を繰り返すことで、梅の実から酸味と銅が抜け、黄色からきれいな青色へと色が戻ります。ちょっと手間ではありますが、梅の酸っぱさが苦手な方はこの作業を4回おこなうとよいでしょう」

青梅の甘露煮の楽しみ方

ふっくらとして果肉のやわらかい青梅の甘露煮ができました。青々とした色が清々しく、梅のほどよい酸味がする上品な味わいです。

そのまま頬張るのもいいですが、せっかくの甘露煮は、心ゆくまで堪能したいもの。きれいな色味と風味を生かしたアレンジを神谷さんに聞いてみました。

「青梅の甘露煮は、まろやかな甘さと酸味が格別です。煮崩れたものはカレーの隠し味に使うチャツネに似ています。甘露煮を漬けた蜜をカレーに加えると、子どもでも食べやすい甘口カレーになりますよ。

また、梅はしょうゆやみそとの相性もよいので、加えたり混ぜたりすると梅風味が楽しめます。

梅ジャムも定番でおいしいですが、これからの季節には甘露煮の蜜をかき氷のシロップとして使うのもおすすめです。仕上げに甘露煮をのせると、あっという間に高級かき氷のできあがり。スパイスとして山椒を添えたり粉山椒をふりかけたりすると、少しピリッとした大人のかき氷になりますよ」

先人がこだわった青梅の青さに思いをはせて