「フラット35」不正利用で借金地獄にハメられた男性の末路

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フラット35」などの住宅ローンを利用して不正にお金を引き出す「なんちゃって」と呼ばれる手口が横行している。

不動産業者らの手引きによって不正の「当事者」にさせられるのは、お金に悩む若者たち。『やってはいけない不動産投資』著者で朝日新聞記者の藤田知也氏がレポートする、借金地獄へ引きずり込まれた若者の恐怖とはーー。

地獄への入り口

1万円札を何枚も重ねて形作った一輪の花が、ガラスコップに挿して飾られていた。

横浜市内にある築古マンションの一室。がらんとした部屋には、テーブルとソファなど最低限の家具だけが置かれ、異様な雰囲気を醸し出している。

20代後半の男性会社員が、そこで初めて会った40歳前後の男はモリ(仮名)と名乗った。モリは髪を短く刈り込み、見た目は強面だが、淡々とこう説明した。

「名義を貸してくれれば、いまの借金は返せるし、さらに数十万円の現金をすぐに受け取れる」

千葉県内の賃貸マンションで一人暮らしをしていた男性は、そんな言葉で「もうけ話」に引き込まれた。2014年の夏のことだ。

男性は約400万円の年収がありながら、マルチ商法にはまって消費者金融で300万円の借金を抱え、さらに田舎に住む親から医療費の仕送りを頼まれて悩んでいた。

そこへマルチ商法の知人らから紹介されたのが、不動産投資で借金を帳消しにする“スキーム”。不動産業と自称するモリに引き合わされた。

モリの説明はこうだ。

住宅ローンで中古マンションを買って人に貸す。そこに名義を貸せば、借金を低金利の住宅ローンに集約し、現金で数十万円をすぐに受け取れる。ローンの返済や管理費・修繕費と同額のお金(=家賃)を負担してくれる業者もいるから、1円も使わずに不動産を手にできる――。

選べるプランは二つあった。

プラン1は、毎月の収支が5000〜10000円のプラスとなる程度の家賃をもらえるが、家賃保証はナシ。空室の場合は自分でローンを返済しないといけない。購入物件はファミリータイプだから、いちど入居すれば空室にはなりにくいと、モリはプラン1を推してきた。

プラン2は、空室でも家賃をもらえる家賃保証付き。ただし、家賃とローン返済などの出費はとんとんとなる。50万〜100万円のキャッシュバックがもらえるのはどちらも同じだ。

親の医療費をとにかく早く捻出したい男性は、迷わずプラン2を選んだ。ただし、男性は借入額や賃料といった数字を確かめることもなく、安易に誘いにのっかった。後戻りできない地獄への入り口をくぐった瞬間だった。

借金をどんどん立て替え

しばらくすると、東京都内にある中古マンションのチラシを見せられた。「この物件でいいか?」と念押しされ、承諾した。この時点で、融資を受けられるかどうかの事前審査は済んでいたとみられる。

モリは男性を引き連れ、借り入れのあった複数の消費者金融の窓口を回り、計300万円あった借金を立て替えていった。

札束の入ったポーチから100万円単位の現金を抜き出し、残額を払うたびに「完済証明書」を発行させる。住宅金融支援機構が提供するフラット35なら、他に借金があっても融資審査は通るが、融資を受ける前に完済しておく必要があるからだ。

男性はモリから不動産業者「S住建」(仮名)を紹介され、その手引きで都内にある築十数年のマンションを買った。

相場は2000万円強とみられる物件だが、国の補助金で金利が低くなる「フラット35S」で3000万円弱の融資が引き出された。

住宅ローンのフラット35は本来、自分で住む住宅の購入資金を借りることしか認めていない。投資目的でお金を借りるのは融資契約に違反し、発覚すれば全額返済を求められる。

住宅ローン専門会社での融資契約時には、男性もS住建の指示に従い、「自分で住む」とウソをついた。住民票は購入物件に移し、半年ほどでもとに戻した。

借りたお金を巻き上げられた

問題は、2015年初めに物件を購入したあとに起きた。

まずはS住建から、リフォームなどの名目で600万円を信販会社で借りるよう求められる。喫茶店で「そんな話は聞いていない」と抵抗してみせたが、モリも現れて「キャッシュバックはそこで捻出するんだ」「聞いていないほうが悪いだろ」と責められ、泣く泣くハンコを押した。

話はそこで終わらない。

今度はモリから、銀行カードローンで300万円を借りるよう迫られる。モリは男性に「消費者金融に行って立て替えたお金を、これで返せ」と言い出す始末。男性はさらに抵抗したものの、最後はやぶれかぶれになってサインし、借りたお金を巻き上げられた。

これでは消費者金融で借りたお金が、銀行カードローンにつけ替えられただけだ。

住宅ローンにリフォームローンやカードローンも合わせると、男性は数ヵ月のうちに計3700万円ものお金を借りさせられた。消費者金融の借金はなくなり、50万円弱の現金と中古マンションを手にしたのは間違いないが、S住建やモリの側には1000万円程度の余剰資金が流れた計算となる。

余剰資金の一部は、S住建が赤字の家賃収入を補塡するためにプールしていたとみられるが、S住建から男性に、約束された金額が振り込まれた期間は数ヵ月しかなかった。

入金が少なかったり払われなかったりするたび、催促を繰り返すハメに。何度も電話してようやくつながると、「こちらの手違いですね、すみません」などと言って不足分を振り込んでくるが、翌月もまた払われなくなる。

そんなやりとりを2年ほど続けると、最後は完全に入金が途絶え、連絡もつかなくなった。

「フラット35不正」の疑いは100件超

その後、男性は入居者らと掛け合い、家賃が自分に入ってくるように賃貸管理契約を結び直した。すべてのローンの返済や物件管理費などの支出と家賃収入の差額は毎月6万円以上あり、いまも男性は身銭を切り続けているという。

フラット35で不正に融資を引き出した”ツケ”も、いずれ払わされることになるだろう。

フラット35を提供する住宅金融支援機構は、昨秋に情報提供のあった100件超で不正の疑いがあるとし、調査を進めている。さらに5月中旬からは、フラット35の全債権を対象に不正のあぶり出しにも乗り出した。

不正が判明すれば全額返済を求める方針で、前出の男性にもいずれは機構からの“沙汰”があると思われる。

男性は自身の選択をこう振り返る。

「当時はキャッシュバックを受け取るのに必死で、(投資目的なのに居住用と偽ることが)いけないことだという思いはありませんでした。あとでネット検索してみて、『これはマズイことをしたのかも』という気はしましたが……。

新たなローンを後から追加されたときは自分なりに抵抗したんですが、これさえ受け入れれば親に渡すお金がもらえるんだと思うと、途中で引き返すのは難しかったですね」

いまも業者はのさばっている

不正な状態から早く脱したいという思いもあり、物件の相場を調べたこともある。だが、相場は2000万円台前半で、売れば1000万円程度の借金が残るため、すぐには身動きが取れない。それでも機構から要請があれば、物件を処分し、残債を分割で払うなどする意思はあるという。

この男性はまだマシなほうかもしれない。

S住建は2014〜17年に数十人の顧客を集め、17年の途中からは約束した家賃を払わなくなった。顧客の中には、入居者からの家賃を取り返すこともできず、競売で物件を手放して残債の請求から逃げたり、自己破産の手続きを進めたりしている人も多いようだ。

だが、住宅ローンやリフォームローンなどで多額の融資金を引き出し、多くを懐に入れた不動産業者や紹介ブローカーらには、何のおとがめもない。一部はいまも平然と営業を続け、新たな獲物に声をかけて回っている。

「自己資金ゼロで不動産が手に入りますよ」などと言って――。

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