人の健康と電力で社会貢献を両立する戦略商品を開発!? インター・ドメイン 杉本信策氏の描く「体力発電」が普及した未来

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「体力発電」とは、人力で電力を生み出すことができるエコシステムだ。
インター・ドメイン 杉本信策氏は、フィットネスマシンに「体力発電」を組み込んだ製品を展開中だ。


■海洋開発から風力発電へ 商社から独立して少数精鋭でのビジネス

インター・ドメイン株式会社 代表取締役 杉本信策氏


杉本信策氏(61歳)は、インター・ドメイン株式会社 代表取締役。
静岡県清水市の出身で、東京工業大学工学部土木学科を卒業。
住友商事に入社後、東京本社に4年勤務し、中東向けの充電プラントの輸出に携わる。
その後、4年間、中東のバーレーンに勤務している。

杉本信策氏は「清水市は海に囲まれており、駿河湾という深い海もあることから、昔から海洋開発に興味があった」という。大学での学科選択も、住友商事への就職も、すべては海の仕事がしたかったからだという。1970年代は、海底の鉱物資源を求める時代であり、住友商事もそうしたビジネスを展開していた。

しかし、杉本信策氏が心に描いていた海洋開発は、当時の住友商事ではできないと判断し、9年目のバーレーンから帰国後に、住友商事を退職。
インター・ドメインを設立する。

杉本信策氏
「海洋開発といっても何をやっていいか、暇があるごとに海の産業を調べていました。自分個人でできることは限られているし、何ができるのかもわからなかったので、名前もそうだし、(会社の)定款もそうだし、何でもできる会社にしました。

会社を立ち上げて3年目(1990年代前半)、ヨーロッパの会社とお付き合いがあったことから、風力発電を知り、日本でもビジネスができないかと考えました。
風力発電がビジネスとして芽生えてきたときで、その分野は日本では誰もやっていなかった事業なので、自分で作るしかないと考え、小型の風力発電機をヨーロッパから輸入して販売しました。」

小型の風力発電機は当時、メディアでも取り上げられ、大学や研究所、最終的には個人にもよく売れたという。そして風力発電は、インター・ドメインのメイン事業となった。


インター・ドメインが扱う、小型風力発電機


インター・ドメインの従業員は、杉本信策氏を含めて3人。
創業当時から、杉本信策氏自身がプログラムを開発し事務処理を行っており、外注することでコスト削減も図ってきたことで、小人数でもビジネスを展開できたという。


■60mの鉄塔で日本各地の風況調査へ
1997年12月、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が開催された。
自然エネルギー(太陽光、風力など)に注目が集まり、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が日本全国の風の調査を始めた。

杉本信策氏
「日本の風の分布を調査できる装置がないかとの問い合わせがあり、アメリカの会社から装置を輸入して販売しました。当時、NEDOの補助金プログラムで、風況調査の費用は100%保証してくれました。
小型風力発電に加えて、風を調査する機械や風況調査を行っていますが、現在は風況調査(風の観測)がメインの業務となっています。」

風況調査とは、
大型の風力発電機の設置場所で、どれだけの風が吹くのかを調査するもので、事前調査は不可欠となる。
そこで最大60mの鉄塔を建てて風速風向計を設置し、風力がどれくらい得られるのかを1年間かけて測定する。




風況調査のために建てた鉄塔(画像提供:インター・ドメイン)


杉本信策氏
「最近では、ドップラー・ライダーでも風の調査を行っています。
ドップラー・ライダーで風の調査では、レーザーで上空の風を測定するので、鉄塔を建てる必要がありません。」

通常は上空のほうの風が強い。しかし日本は山が多く、風が山に当たって風の状態が変わってしまうため、上空のほうの風が弱いこともあるという。

鉄塔での調査では60mまでしか測定できないが、ドップラー・ライダーを使うと、高さ200mまでの風を測定することができる。


■体力発電が日本を救う時代へ
風力発電など再生エネルギー分野で活動していた杉本信策氏が、「体力発電」に取り組み始めたのは、ある開発がきっかけになったという。

杉本信策氏
「アメリカの風力発電の会社が、手でペダルを回す発電機を作ったんですよ。
それを見て1台個、買ってみたんです。

発電機のペダルを回すだけだとペダルは軽いが、バッテリーに繋いでペダルを回すとペダルは重くなるんです。電磁誘導です。
回す力を電流に変えることができるなら、フィットネスマシンに発電機を付ければ、電流の大きさでトレーニング負荷を変えるシステムができると考えました。

ただ、それだけだと面白くない。
そこでフィットネスマシンを使っている人がどれくらい発電するのかを計測することにしました。

人ごと、場所ごとで、発電量を計測してデータベース化すれば、誰が、いつ、どれだけ発電したのかを記録に残せる。

これを組み合わせて、ひとつの製品ができるのでは? と思ったのがきっかけです。」

体力発電とは、
・発電の電流を調節してトレーニング負荷をコントロールする
・人や場所の電流を計測して、データを集めて利用する

ただ、もう一歩行きたい。
ITの時代。みんなPCを使い、スマホを見ている。みんなの発電をみんなが見られるようになれば、競争心が生まれて発電も加速するに違いない。体力発電で発電すれば運動も加速する。これなら社会が喜ぶ。


発電の電流を調節して負荷のコントロールに使う「体力発電」のマシン(画像提供:インター・ドメイン)


小型の風力発電機は、電気をバッテリーに蓄える。
このため、体力発電機も当初はバッテリーに充電(蓄電)する方式だった。

しかし、バッテリー法式には、さまざまな問題があった。
・バッテリーが満充電になると、体力発電マシンのペダルの負荷もゼロになってしまう
・バッテリーが満充電になると、空のバッテリーに交換しないとならない

こうした問題を解決するために、体力発電マシンは、バッテリー充電式をやめた。

杉本信策氏
「系統連系といって発電機で生まれた電気を配電線に流そうと。
人間の運動が電気になるんだから、それをそのまま世の中に送って、そのまま世の中の役に立てたほうがいいなと思って、バッテリー充電式から系統連系に切り替えました。」

こうして現在の「体力発電マシン」は完成した。

杉本信策氏
「停電のときに電気を起こして配電線に送ると、停電の復旧作業をしている人が感電します。それは危ないから、そういう風にならない装置がちゃんと入っています。

本来の系統連携連系では、発電した電力を電気会社に売ります。
けれど体力発電マシンを使って人が発電できる電気の量は非常に限られています。
コンセントの中に発電した電気を送っても、家庭から外に電気が流れる心配はないのです。」

つまり、体力発電マシンで発電した電力は、家庭や施設内で消費されるという。



様々な場所で「体力発電」のイベントも実施している(画像提供:インター・ドメイン)


杉本信策氏
「体力発電を商業施設で利用する方法もあります。
ショッピングセンターに体力発電を配備すれば、
1. お店で待つお父さんは暇つぶしに漕ぐ。このところ運動不足だしメタボだし。
2. お店は電気をもらったお礼にお買い物ポイントをお父さんに出す。
3. 一巡りしてきたお母さんと子どもはポイントに喜ぶ。お父さん満足。
4. ポイントを使ってみんなでもう一度お買い物。お父さんはドリンクとタオルもほしい。
5. お父さん来週も漕いでね、健康になってね。
6. お店は集客効果が出て喜ぶ。おまけにエコと地域の健康アピール。

自然災害の多かった平成の流れは今後も続くかも知れません。そうなるかどうかは誰もわかりませんが、備えておくことも社会的需要です。体力発電は、常設して漕げばいつでも社会に電気を送ります。停電の非常事態のときは、蓄電用の充電器を引っぱり出してきてつなげば、漕いでバッテリーを充電することができます。ついでに避難者の運動不足も解消することにもなります。非常事態のときはこのような使い方もできるのです。」


様々な場所で「体力発電」のイベントも実施している(画像提供:インター・ドメイン)


杉本信策氏
「体力発電で売電できる仕組みはまだないのですが、もっと体力発電を普及させて、環境エネルギーどころか、健康エネルギーにしたいですね。
FIT制度(固定価格買取制度)のメニューのひとつに体力発電を加えてもらうことが、いまの目標です。そのときには国民健康の付加価値を買取価格に反映してもらうことがポイントとなります。」


FIT制度とは、
再生可能エネルギーの普及と発電コストをサポートするため、発電した電気を一定の値段で国が買い取ることを保証した制度。

日本は高齢化社会で、健康は大きな社会問題となっている。
電気が作られるとともに、人の健康にも繋がる体力発電は、
・発電から二酸化炭素を排出しない
・電力生産が枯渇しない
などのメリットがある。
日本の電力問題すべてを解決はできないが、身近な生活レベルの電力と健康を改善できる一つの方法になるのかも知れない。

体力発電
インター・ドメイン


執筆:ITライフハック 関口哲司
撮影:2106bpm