海宝直人、イヴ・サンローランを演じる「いままでにないミュージカルになる」
日本のミュージカル界の中でもトップクラスの歌唱力&演技力を持つ逸材、海宝直人さん。昨年はロンドンのウエストエンドでオペラショーにメインキャストとして出演したり、好評を博した『アラジン』『ジャージー・ボーイズ』の再演などで大活躍。
そして今年は、さらなる飛躍の年になりそう。ひとつめは、伝説的デザイナーの人生をミュージカル化する『イヴ・サンローラン』。海宝さんは東山義久さんとWキャストでサンローランを演じる。
実は男性だか女性だかも知らなかった
「お話をいただく前は、サンローランといえば高い服のブランドというイメージしかなくて、実は男性だか女性だかも知らなかったくらい(笑)。でも、この機会に伝記映画を見たり、パリのイヴ・サンローラン美術館に行ったりして彼のことを知るうちに、いろいろなことを感じました。
すごく思ったのは、“本当に生まれながらのアーティストだったんだな”ということ。美術館には衣装がたくさん展示されていましたし、彼が実際に働いていた場所が再現された空間もあって、本棚に日本の美術書があったり。ほかでは感じられない空気をしっかりと感じることができました」
作・演出を務めるのは、宝塚歌劇団出身の演出家、荻田浩一さん。海宝さんは絶大な信頼を寄せている。
「荻田さんとは、僕がまだメインの役をさせていただく前から何度もご一緒しているのですが、どの作品でもほかの人には表現しえない“荻田さんワールド”が確実にあるな、と思うんです。表現が繊細でとても深いんですよね。
荻田さんの描くサンローラン像は、すごく美意識が高くてプライドが高い。でも一方では脆い部分が共存していて、プライドと現実のせめぎ合いで精神的なバランスが崩れてしまう瞬間があったりする。
自分の中でいろんなものを消化しきれなくて苦しんだり、それでドラッグに逃げてしまったり。そういう内面の機微を描かせたら、荻田さんの右に出る者はいないと思います。人間味あふれるキャラクターなので、演じがいがありますね」
音楽面でもチャレンジングな要素がたっぷり。
「すごく長い期間を描く作品で、曲数も30曲以上と多く、しかも音階が精密で難易度の高い楽曲ばかり。シャンソンっぽい曲はもちろんありますが、それだけではなくポップスやロックっぽい曲調があったりと、幅広いんです。
役柄によって歌のジャンルが変わってきたりして。これをそれぞれの役者たちがきちんと表現することができたら、すごく奥行きのある作品になるだろうなと思っています。いままでにないミュージカルになるんじゃないかな」
もうひとつの大きなトピックは、1月にディズニーのレーベルからメジャーデビュー盤となるソロアルバム『I wish. I want.』が発売されたこと。多くのディズニー作品に出演してきた海宝さんが、大好きなアラン・メンケンの曲を集めたディズニー・シングス・アルバムだ。
驚くほど深いディズニーとの縁
「ミュージカルの歌は作品の流れがあって、その役の感情があったうえでの歌ですので、感情を伝えるお芝居なんです。コンサートや収録の場合は音楽性と、1曲の間にそこに込められているものを伝えきる、ということを意識して歌っています。
でもこのアルバムは、僕がいままで出演させていただいたディズニー作品で学んだことを俳優として出したかった。
マイクの前で歌ってはいますが、息遣いや表現の面で、コンサートよりは芝居に近い形で仕上がるといいな、と思いながら収録をしていました」
海宝さんとディズニーとの縁は、驚くほど深い。
「初舞台が7歳の『美女と野獣』、それから『ライオンキング』のヤングシンバで、俳優としてのスタートは幸せでしたね。実家が千葉にありましたので、ベビーカーに乗せられていたころからディズニーランドへよく行っていて、物心がついたころには生活の中にディズニーが欠かせませんでした。
大人の俳優になってからも『ライオンキング』『アラジン』『ノートルダムの鐘』と縁が続いたことはありがたいですし、ディズニーのレーベルからアルバムを出すことは、ずっと夢でした」
驚きなのは、圧倒的な歌唱力を持つ海宝さんが、特別な音楽教育を受けていないということ。
「現場で学んだ感じです。才能というよりは、歌うのがとにかく好きだということが大きいんじゃないかな。それが僕にとってはすべての原動力になりました。例えば『ライオンキング』のときは稽古ピアノの方が素晴らしくて、音符が多い曲のハネ感とかにワクワクして“めっちゃ楽しい!”と思いながら歌っていたことなど、よく覚えています」
“好きこそものの上手なれ”を実証し、夢を叶えた海宝さんにとって、いまの「I wish. I want.」は?
「昨年、ロンドンで舞台に立ちましたが、この1度だけで終わらせたくないんです。ロンドンのミュージカル俳優さんたちが来日した『ヴォイス・オブ・ウエストエンド』を見て、歌声に刺激を受けまして。また海外に出て、こういう方たちと共演できるような俳優になりたいと、強く思いました。
もちろんハードルは高いと思いますが、もっと自分をブラッシュアップして、絶対に実現したいですね」
ファッションの世界で美を究め、“モードの帝王”と呼ばれたデザイナー、イヴ・サンローラン。その偉大な功績と人生の光と影を、音楽に彩られたつかの間の幻として浮かび上がらせるミュージカル。作・演出:荻田浩一、音楽:斉藤恒芳。2月15日〜3月3日 よみうり大手町ホール、3月26日 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで上演。詳しい情報は公式ホームページへ(https://www.yume-monsho.com)。
PROFILE
かいほう・なおと◎1988年7月4日、千葉県生まれ。7歳のとき『美女と野獣』のチップ役でデビュー。’99年には『ライオンキング』のヤングシンバ役に抜擢され、3年間務めた。近年は『レ・ミゼラブル』、『アラジン』、『ノートルダムの鐘』、『ジャージー・ボーイズ』など、ミュージカルを中心に幅広く活躍。2018年にはオペラショー『TRIOPERAS』でロンドンデビューも果たした。また、コンサートやロックバンド「シアノタイプ」などでボーカリストとしても活動中。4月からは『レ・ミゼラブル』で3度目のマリウス役に挑む。
(取材・文/若林ゆり)