ヘブリスギョン岩月

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【連載・地下4回】地下芸人数珠繋ぎ。今回のゲストは、ヘブリスギョン岩月さん。もちろん彼の事を知っている人はほとんどいないだろう。私もその一人だった。しかし、地下芸人の方と話していると何かと地下芸人界の最有力候補として、彼の名前が挙がるのだ。だったら、会うしかない。それがこの企画なのだから……。 岩月さんの芸歴は24年で事務所には所属せずフリー、同期には元Wコロン(2015年解散)の木曽さんちゅうさんがいるそうだ。

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とにかく生気がない岩月さん

 8月の某日、都内にて取材前の打ち合わせで岩月さんにお会いしたが、約束の直前に大雨、嵐、強風と荒天になり、お互い足止め状態。

 嫌な予感がするなかで、予定より2時間遅れで対面することに。

 この連載で多くの地下芸人さんとお会いしてきたが、彼らの多くは自分の好きなことを追求して生きているので、だいたいその眼には輝きがあり、生き生きとしていた。

 しかし、岩月さんはまったく違う。彼を見た瞬間、明らかになった。

「生気がなくないか?」

 これがすべてだった。

ーー岩月さん、初対面で失礼かもしれませんが、大丈夫ですか?

岩月(以下、岩)「何がですか?」

ーー目が死んでいるような気がするんですが……。

岩「わ、わかりますか? なんか最近、疲れがまったく取れないんですよ。もう48歳ですし、クタクタで。メシも、コンビニの期限切れ商品をもらって食べていますしね。一日一食だとやっぱり力が出ない。なんかカラダもダニに刺されているのか痒くて痒くて」

 負のオーラが出まくり! それでいて、やたらと声がデカい。

 打ち合わせ場所にいた人々が、岩月さんが喋ると振り向くくらい。それでいて、内容が悲観的なことばかり。

 このままでは、こちらも飲まれてしまうと察し、ある提案をしてみた。

ーーあの、突然ですが占い師さんに岩月さんの今後のことも含めて、鑑てもらいませんか?

岩「もちろんです! よろしくお願いします!」

ーー声が、デカいっす!

 意外にもあっさりOKが出たので、占い師を探してみることにした。

 すると、ある芸人さんの名前が挙がった。

「ギブ大久保さん」だ。

 芸人をしながらも、副業のタロット占いが当たると評判になり、本業(お笑い)そっちのけで占い師として活躍しているとのこと。しかも、かの有名な「原宿の母」のお弟子さんで、兄弟子には超人気占い師の島田秀平さんがいる。

 そして芸歴31年、御年51歳。彼もまたひとりの地下芸人なのだ。

 これは何か面白いことが起きるのではとワクワクしながら、ギブさんにオファーした。

実現! 地下芸人を地下占い師が占う

 すると、数日後、ギブさんから取材許可が下り、岩月さんの自宅で直接、彼を占ってもらうことに。

 しかし、これが予想外の事態を招くことにーー。

 こちらが北新宿にある岩月さんの自宅アパート。このアパートの後方の建物では、首つり自殺があったというウワサも……。

 彼の部屋は1階の一番奥にある。

 招いたギブさんと現地で待ち合わせることに。

 しかし時間になっても現れないので連絡してみると、もう現地にいるという。

 だが、どこにも見当たらない。

ーーギブさんどこですか? ギブさん?

ギブ大久保(以下、ギ)「はい、ここです」

ーーあれ、トランプマン?

ギ「違いますよ。ギブ大久保です」

ーーあっすみません、似てるなと思って。ちなみに、そこは違いますよ。

 このド派手な衣装で登場したのが、ギブさんだ。

ギ「占いではココと出たんですが……」

ーーいや、ここです(大丈夫かな……)。

ギ「まぁ、とりあえず、外観を鑑てみましょうか」

ーーあの、一階なんですが。

ギ「そうですか、二階と出たんですが……」

ーーいや、一階ですから。

ギ「では、改めてもう一度」

ーーどうですか? 何か映ります? 何か見えますか?

ギ「やはり、中に入らないとわかりませんね」

ーー!!

ギ「では、部屋を案内してください」

ーースルーですか……。

 不安ではあるが、当たると定評のあるギブさんだから、ここは信じよう。

 というわけで「鍵かけてないから自由に」と言っていた岩月さんの自宅に入ることになった。

 しかし、この後とんでもない光景を目にすることに!!

ギ「えっ?????? これは???????」

ーー!!!!!!!!

ギ「一旦、退散しましょう」

ギ「やばいな、あの部屋……」

ーー着替えちゃった! 早っ!

ギ「やばいですよ、あの部屋は。占いどころじゃないですわ」

ーーそれを占うのが仕事じゃないですか! お願いしますよ!

 よほどの衝撃だったのか、嫌がるギブさんを説得し、突入してもらうことに。というか、岩月さんはどこにいたのだろうか……。

ギ「では、改めて」

ーーお願いします!

岩「さっきから、何を騒いでいるんですか?」

ーー出た…………!!!

ーー岩月さん、目に力入りすぎじゃ? あ、すみません、あまりの衝撃で……。

岩「たしかに、ウチに来た人は3分と持たないですから。どうします? 帰りますか?」

ギ「出来ることなら………」

ーー入りますよ、ギブさん!

 嫌がるギブさんを強引に部屋に押し込む。

ギ「玄関がクローゼットみたいになっている! ひどいな、これじゃあ中に入れないないぞ」

 確かに、玄関から私物が溢れるように詰め込まれていて、とてもではないが人が入れる状態ではない。

ギ「こりゃあ、酷いわ……。足の踏み場もない」

 6畳一間の空間に、モノを最大限に詰め込むとこうなるんだと圧巻させられた。しかも空気もかなり悪い状態だ。とにかく生臭い。

 そして入室するや否や、気持ち悪くなったギブさんはトイレへ。そこには衝撃的なモノが……⁉

ギ「こっこっこれは‼」

ーーだから職務放棄しないでください。逃げ足早いな!

ギ「今の見ました! ゴキブリの死骸ですよ! なんで放置しているんですか?」

ーー私に聞かれても困りますから。とにかく戻りますよ! 

 深呼吸し、気持ちを落ち着かせてから再度入室。しかし、この部屋は汚い。

ギ「岩月、これやばいでしょ」

 あまりにも汚染された部屋を前に笑うしかないギブさん。

ーーこれ、ヤバすぎないですか?

岩「あっ、これは……、冬をイメージしま……」

ーー嘘でしょ! ホコリでしょ! 普通、こんなにホコリって溜まります?

岩「ここに住んで18年になりますが、自慢じゃないですけど一度も掃除してないですから」

ーー本当に自慢になりませんよ、それ。

岩「ちなみに布団も……」

ーーそれ以上言わないでください。

ーーあれ?

ーー布団……、カビ生えていますよね………。

岩「これも冬をイメージ……」

ーーこれ、火事になるのも時間の問題ですよ⁉

ーーこれだって、もはや何がいるのかわかりませんから。

岩「あっ、これはですね…」

ーー説明はいいですから! さすがにヤバくないですか。これ占い的にどうなんですか、ギブさん。

ギ「…………」

ーーギブさん?

ーーボケっとしてる場合じゃないですよ。

ギ「いや、二人が盛り上がっているから……」

ーー拗ねてる場合じゃないでしょ! ちゃんと鑑てくださいよ!!   

ギ「すみません。ただ、この部屋狭すぎて、できるかな……」

 ひとりが入るのにやっとのスペース。そんな所に、カメラマンさんを含めて成人男性が4人もいる部屋で、うんこ座りしながらタロット占いを始めるギブさん。

ーー今気づきましたが、土足ですね……。

ギ「まっ、一応、このスタイルで普段やっていますので……」

ーーでも、自宅ですから、さすがに岩月さんが……。

岩「部屋が汚いから、仕方ないですよ(笑)」

ーーだから、汚くなるんですよ! で、どうですか、この部屋は占い的に?

ギ「調子上がんないですね、なんか邪気が多すぎて……」

ーーその邪気の原因とかを占うのが役目じゃないんですか?

ギ「手相にしてみましょうか?」

ーーどうですか?

ギ「ダメだ、邪気が強すぎて、気持ち悪くなってきました」

ーー憑りつかれてどうすんですか?

ギ「ひとまず、居酒屋行きません?」

ーーどんな発想してるんですか? 飲みたいだけでしょ?

ギ「いえ、決してそんなことは………」

ーー行く気満々じゃないですか!

ギ「しかも、なんかカラダが痒くないですか?」

ーー確かに、さっきから僕もなんか痒いし、空気も悪いですが……。岩月さんは?

ーー生き生きしてますね(笑)! さすが住人。なんか若返っていないですか(笑)?

岩「もう、僕は18年住んでいますからね。さすがに、免疫が出来ているんでしょうね」

ーー初対面の時と全然違う……。

 岩月さんの自宅でのドタバタがあり、このままでは衛生的に限界と判断。というかギブさんの占いが機能しないということもあり、居酒屋に向かうことになった。

占いをちゃんとやる

 以前、打ち合わせを行った某居酒屋に到着。ひとまず、仕切り直すことに。

ーーあれ? 顔、石田純一さんじゃないですよね??

ギ「それ、よく言われます……」

ーー似てますよ。

ギ「やっぱり」

ーー………。

ギ「何でですかね?」

ーーモノマネとかできるんですか?

ギ「………さっ、占い始めましょうか?」

ーーあ、……お願いします。

ーーあの占い用の眼鏡かけないんですか?

ギ「そうだそうだ、ありがとうございます。だから、石田純一に似てるって言ってきたんですね(笑)」

 飲酒しながらの占い師は見たことはないが、まぁひとまず占ってもらうと……。

ギ「私から見て左側に出ているカードからは、芸人を辞めて就職をした場合ですが、とにかく張り切り過ぎてしまうことがわかります。

 でも、仕事を理解して仲間と楽しくやれば、就職後はうまくいくと出ていますよ。そして、右側のカードがこのまま芸人を続けた場合ですが……」

岩「はっはい………」

ギ「なるほど……」

ーーどうなんですか?

ギ「もっと、努力しないと何も変わりませんよ」

岩「マジですか………!」

ーーそれはどう見ても明らかでしょ! もっと具体的な答えはでてないんですか?

ギ「そうですね、岩月のキャラクターの味をもっと強調するか、まったく別の性格の人とコンビを組むかです。どちらの場合ももっとお笑いを追求して、努力しないと売れないでしょう!」

岩「やっぱりね………」

岩「やっぱりそうか、いや正直ね、48歳なんですが、この年齢までやっていると、もう惰性でしかないんですよ。正直、いつ辞めるか、そのきっかけを探しているくらいなんですよ」

ーー占いでは就職すればうまくいくと出ていますよ。

岩「ただね、こんな私でも一人だけファンがいるんですよ。全く怒らない仏様のような人が。その人のためにも…」

ーー就職した方がよい未来が待っているそうですよ!

岩「………」

ギ「岩月、これが人生をやり直す最後のチャンスかもな………」

ーーなぜ乾杯??

岩「そ、そ、そうですね、いい機会ですし、一度よく考えてみますか。今日はこのような機会を与えてくださりありがとうございました。本当にいい思い出になりました………」

 最後の一言が胸に突き刺さってしまったのか、やけに素直に受け入れてしまった岩月さん。こちらとしては、もうひとアクション返ってくると思ったのだが……。

 その後は、黙々と酒をあおり、静かに時間が過ぎていった。

 そして宴が終わると一言も発さないまま、岩月さんはあのゴミ屋敷にゆっくりと歩(ほ)を進めたーー。

 はたして、岩月さんは、本当に就職するのだろうか?

 乞うご期待!

ギブさんの考察

ギ「私も実に多くの芸人さんを占ってきましたが、売れていない芸人さんて本当に部屋が汚いし、物が多いんですよね。売れている人って意外と物が少ないんですよ」

ーーなるほど、それは岩月さんの部屋を見れば一目瞭然ですが………。

 ちなみになんですが、ギブさんの部屋は……?

ギ「物は少ないし、綺麗にしていますよ。整理整頓、命です!」

ーーあれっ(笑)、ギブさんて、売れてましたっけ??

<ライター・新津勇樹> ◎元吉本新喜劇所属。芸人、役者時代の人脈を活かし、体当たり取材をモットーに既成概念にとらわれない、新しいジャーナリスト像を目指して日々飛び回る。