「弱い安倍首相」が日本経済にプラスなワケ
なぜ日本経済には「弱い安倍首相」のほうがプラスなのだろうか(撮影:尾形文繁)
安倍首相が獲得した党員票55%は「ギリギリの数字」
9月20日の自民党総裁選挙は、「安倍3選」という結果だけ見ると「ノーインパクト」だったが、中身的には「ビッグサプライズ」であった。
すなわち、予想通り安倍晋三首相の続投が決まったことに外国人投資家は安心し、「もうしばらく日本株を買っていいんだな」と好意的に解釈しただろう。しかし永田町は震撼し、「こりゃあ3選後の安倍内閣は大変だぞ」と深刻に受け止めたはずだ。どちらも間違ってはいない。マーケット目線で言えば、「ビッグサプライズだったけどノーインパクト」なのである。
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あらためて今回の投票結果を振り返ってみよう。
2018年の自民党総裁選挙は議員票405票、党員票405票、併せて810票をめぐって行われた。当初、石破茂さん(元幹事長)の目標ラインは200票程度で、それに届かないようなら政治生命が危うい、いや、「敗戦後の石破離党説」まで流れたものだ。
それくらい「安倍1強」体制は強力であって、ひょっとすると再度、党則を変更した上で「安倍4選」を目指すのではないか、という観測まで一部では語られていた。しかし勝負はやってみなければわからない。この選挙結果を見た後では、さすがにもう「安倍4選」を語る人は居なくなるだろう。
議員票 % 党員票 % 合計
安倍晋三 329 81.2% 224 55.3% 553
石破 茂 73 18.0% 181 44.7% 254
棄権 3 3
合計 405 405 810
今回の石破さんの得票は、目標ラインを大きく超えて254票。特に党員票では181票、実に全体の45%を確保した。逆に安倍さんは党員票でも圧勝するつもりが、そうはならなかった。
選挙戦の終盤になって、安倍陣営の甘利明事務総長が「(2012年の総裁選で石破さんが獲得した)55%は超えたい」と言っていたけれども、安倍さんの党員票はずばり55%の得票率に落ち着いた。現職の首相としては、かろうじてメンツを保てるギリギリの数字と言える。
厳密に言えば、2012年の党員票は各都道府県の「持ち票」を取り合う方式で、アメリカ大統領選挙における選挙人制度みたいであった。それが制度変更となり、今年の党員票は全国を集計した票数をドント式で割り振っている。両者を比較するのは、本当は変なのである。それでも、こういう「意味深」な数字が浮かぶところが長年の伝統というもので、自民党総裁選は今回も独特のバランス感覚を発揮したと言えるだろう。
こうなると、事前に言われていたように「石破派を人事で干してやる」というのも難しくなる。なにより党員の45%が「反安倍」であったという事実は重い。議員票も、当初の予想より20票程度、石破陣営に上乗せがあった。どうやら当日になって小泉進次郎議員が「石破支持宣言」をしたところ、それに釣られて迷っていた票が動いた模様。これでは安倍さんとしても、しばし党内への「気兼ね」が必要になる。
低姿勢の「弱い安倍首相」はマーケットにはプラス
差しあたってのポイントは、近いうちの憲法改正のシナリオは消えたということだろう。以前は「3選後の安倍首相は、この秋の臨時国会で改憲案の発議を目指す」との声もあった。しかし自民党員の反応がこの程度なのでは、せっかく衆参3分の2の同意を得て改正を発議したところで、国民投票で否決されてしまいかねない。
改憲を発議した場合、法律では「60日以降180日以内」の国民投票を求めている。仮にこの秋の臨時国会で議論を始めて、年末くらいに発議ができたとして、それから「2カ月以降、半年以内」のどこかで国民投票を実施しなければいけない。しかし来年は4月に統一地方選挙、5月に改元、6月に大阪G20サミット、7月に参議院選挙という重い日程がずらりと並んでいる。10月には消費増税という難関も控えている。いったいいつ、どういうタイミングで国民投票を実施すればいいのだろう?
そうこうするうちに、7月の参院選で与党が大敗すれば、「衆参で3分の2」という発議の要件を失ってしまうかもしれない。その場合、石破氏を中心に党内で「安倍降ろし」の声が高まるのではないか。3選後の安倍首相は、当面は低姿勢で行かねばならないだろう。
過去5年9か月の安倍首相は、支持率が上がるとタカ派になって憲法や安全保障政策に突き進み、支持率が下がると低姿勢になって経済政策に重きを置いてきた。ゆえにマーケット的視点からは、弱い安倍首相の方が歓迎ということになる。「安倍さんが勝ち過ぎない3選」という今回の自民党総裁選は、日本経済にとってグッドニュースだったというのが筆者の見立てである。
他方、総裁選当日、アメリカのドナルド・トランプ大統領はこんなツィートを送っている 。
Congratulations to my good friend Prime Minister @AbeShinzo on his HUGE election victory in Japan. I’m looking forward to many more years of working together. See you in New York next week! (わがよき友人、日本の安倍晋三首相の選挙戦大勝利、おめでとう。あと何年も一緒に仕事できることを楽しみにしているよ。来週、ニューヨークで会おう!)
一時はトランプ氏が、「日米通商交渉が不調に終われば、シンゾーとの関係も終わりだ!」と発言したとのことで、日米関係には緊張が走ったものだ。この週末から、安倍首相は訪米して一連の外交日程に臨む。ニューヨークでは国連総会の一般討論演説に立ち、トランプ大統領とは8度目の日米首脳会談を行う。
トランプさんからは、牛肉関税の引き下げから自動車の輸出自主規制まで、いろんな要求を突き付けられそうだ。しかし、ここで管理貿易を呑むわけにはいかない。逆に通商問題を無難にまとめられれば、「さすがは安倍さん!」の声が上がろうというもの。
前途は「地雷原」のように多くのリスクが待ち受ける
今回、気になるのは「ゴルフ日程」がないことである。一説によれば、9月24日にニュージャージー州ベッドミンスターのトランプ・ナショナル・ゴルフクラブに予約が入っていたらしい。ああ見えてトランプさんは、「メディアには強く、対面には弱い」癖がある。4度目の日米ゴルフが成立していれば、日本側としては大いに心強かったはずである。
しかるにいかんせん、トランプ大統領も多忙な身の上だ。11月6日の中間選挙を前に、「お友だちとゴルフ」はさすがにマズイと思ったのかもしれない。安倍首相との会談の前日には、3度目の南北首脳会談を終えたばかりの文在寅・韓国大統領も飛び込んできた。
23日以降の政治外交日程を書き出してみると、前途には地雷原のように、いろんなリスクが埋まっている。米中貿易戦争はどんどん戦線を拡大しているし、来週のFOMC(米公開市場委員会)は今年3度目の利上げを決めることだろう。アメリカ経済と株式市場はなおも絶好調が続いているが、減税効果もそろそろ息切れしてくるはず。年末に向けて、気の抜けない日々が続くことだろう。
<3選後の安倍首相を待ち受ける政治外交日程>
自民党総裁選挙(9/20)
第2回日米通商協議=FFR(ニューヨーク、9/24)
対中第3次制裁追加関税2000億ドルを実施(9/24)
安倍首相、国連総会で一般討論演説(9/25)
米韓首脳会談(ワシントン、9/25)
FOMC(9/25-26)→今年3度目の利上げへ
日米首脳会談 (ワシントン、9/26)
米中閣僚級協議(ワシントン、9/27-28)?
沖縄県知事選挙(9/30)
内閣改造、党役員人事(10/1)
EU定例首脳会議(10/18)→Brexit交渉間に合わず?11月に臨時首脳会議?
安倍首相が訪中(10/23)→日中平和友好条約発効40周年記念式典
臨時国会召集(10/26頃)→災害復旧の補正予算が急務
米中間選挙(11/6)
(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が、週末の人気レースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
ここから先はいつもの競馬コーナーである。
少し秋らしくなって、今週末は中山競馬場で産経賞オールカマー(G2、23日11R)、阪神競馬場で神戸新聞杯(G2、11R)が行われる。例年、この日が来ると「ああ、いよいよ秋競馬が本番だなあ」と感じる。同様な競馬ファンは少なくないだろう。
3歳馬の精鋭がそろった神戸新聞杯はエポカドーロから
今年は特に神戸新聞杯が面白い。なにしろ皐月賞馬のエポカドーロ、ダービー馬のワグネリアンがそろっている。2歳でホープフルステークスを制したタイムフライヤーも併せるとG1馬が3頭。頭数は少ないが、悩み甲斐があるレースとなった。
阪神競馬場は中山競馬場と親和性が高いので、ここは中山を得意とするエポカドーロから。ワグネリアンはあいにく鞍上の福永祐一騎手が負傷のため、藤岡康介騎手に乗り替わっていることで一段評価を下げる。
あと1頭、気になっているのはゴーフォザサミットだ。札幌記念では7着に終わったが、3歳馬は夏に大きく伸びることがある。引退説(調教師への転身)が流れている蛯名正義騎手に、何かいいことがあるんじゃないかという予感がしている。