今年も強い広島カープは昨年よりも早く優勝するかも。しかし強いだけじゃない。売り上げはこの10年で3倍強。200億円に迫る規模になっているのだ(写真:共同通信)

ほぼ1年ぶり、久々の「広島ネタ」です。


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今からお話しするネタ自体はすでに今年の3月に公表されていたのですが、こんなことをシーズン前に書いちゃって4月最下位発進……とかになったら目も当てられないので、温存していたわけです。条件次第では月末にも球団史上最速のマジック点灯というニュースがあり、そろそろ出すか、というわけですね。

野球の話も書きたくて仕方がないのですが(ついにあの王貞治を抜く大打者がでそうである……など)、これはまた別にカープ(広島東洋カープ)特集を組んでいただくことにして、今回もいつものように経済面からアプローチします。

カープの売り上げはこの10年で3倍強に!

2017年度、カープの売り上げはついに180億円を超え、188億円を達成しました。そのうちのグッズ売り上げがなんと60億円(推定)。3分の1がファンによるグッズ購入に支えられているという、まるでジャニーズ事務所のような売り上げ構成になっています(公表はされていませんけどね)。


広島東洋カープの売り上げはジワジワと伸びている(作成:「グッチーポスト」)

これは野球チームとしては異質なものです。DeNA球団(横浜DeNAベイスターズ)が168億円売り上げていますが、親会社とのさまざまな関係取引が入っていたり、選手の費用などを一部親会社が補填していたりする球団が一般的で、そのあたりを「オール自前」でやっているカープとは比較になりません。

さらに注目していただきたいのは日本企業がどん底に叩き落された2008年リーマンショック以降の動き。売り上げが急降下し、いまだに売り上げが伸びずに四苦八苦している日本企業が多数あるなか、当時売り上げがわずか60億円余しかなかった広島カープという企業が日本経済の停滞をしり目に売り上げを3倍強に増やしている、という事実です。

少子高齢化、年金の減額、実質給与の減少、非正規社員の増加……等々の難問題は広島も同様で、広島だけに特別なことが起きているわけではありません。東京と違って、広島もまた典型的な一地方都市(極端な高齢化社会)であることが、今回の豪雨で露呈したくらいです。

その広島において、こういうビジネスが出てきている、という点に注目していただきたいのです。偶然かもしれませんが、広島発祥の企業は皆さん、割と元気です。世の中「売り上げ3割減」なんて当たり前の企業があるなかで、みなさんしっかり売り上げを伸ばしておられます。その中でも、たとえば、ダイカストの大手メーカーであるリョービ(RYOBI)さんはテレビに写るバックネットのところのフェンス広告を「占拠」しておられ、全国発信の役に立っています。

グッズに関して言うと、広島にいると(東京の人間からみると)とんでもないコラボ商品がいくらでもあります。地元・広島の会社の製品は当然ですが(もう、みそから海苔から牛乳まですべてカープバージョンの商品が販売されている)、たとえば大正製薬の「リポビタンD」など全国区の商品が、すべての球団のロゴ入りモデルを販売しているはずなんですが、カープのバージョンしかワタクシ、見たことがありません。これは広島のコンビニ!で普通に売っているのです。

カープが「ほぼ100点満点」といえる理由

キリンホールディングスの「一番搾り」や、アサヒグループホールディングスの「アサヒスーパードライ」もカープバージョン。昨年からサントリーの「黒ウーロン茶」もついにカープバージョン(菊池涼介選手起用)を販売開始しました。

全国で売っている商品の「カープバージョン」が次から次へと登場している。これは実は昔からあるのですが、変わったところではゴーフルで有名な神戸風月堂さんなんかも出してますね。そういう他地域からのお金がロイヤリティーという形でカープに入り、それが利益の源泉となって、選手の年棒を支えている……というほかの球団ではできない構図が広島カープにはある。まさに市民球団といわれるゆえんであります。

そしてわれわれが地方再生において最も重要視していること……いかにその地域のマネーを外に持っていかれないか、いかに外の地域からマネーを「収奪」するか……という点においては「ほぼ100点満点」と言っていい成果を上げている。ただ、リポビタンDを飲んでもそれは東京の大正製薬が儲かるだけですが、広島はカープのロイヤリティーという形で取り返せるわけです。

どのくらいのものがあるかというのはこの地元の百貨店の福屋さんのHP が参考になるかもしれません。もちろんここに出ていないものもたくさんあるので、そのレベルはもう「ビョーキ」といっていいかもしれません。

偶然かもしれませんが、カープに引っ張られ、広島所以の企業は業績も好調な所が多いのです。まさに、景気は気ですから、カープが元気であることが会社の従業員のみなさんの活力になったり、直接的にはカープの応援という形で町中が盛り上がり、企業の売り上げも上がる、という地方都市の理想的な形が出来上がっていると言えます(カープコラボグッズで5億円の売り上げが15億円になってしまった……なんて会社もあるんです)。

ちなみに前にも書きましたように、カープと同じことをやろうと思ってもそう簡単ではありません。

傍から研究していると、カープのコアファンとは、おばあちゃん、お母さん、娘さん、そしてその孫とつながっていくいわば「4代継承カープ女子」でありまして、「若いカープ女子」だけのことを言うわけではありません。

彼女たちが継承者ですから、財布のひもを代々握っている人たちがカープファンになればそれはグッズの売り上げも上がろうというもの。おじさんがいくらファンと言ってもお小遣い2000円では球場のビールが700円ですから、そうそうカープグッズなんて買えません。

いつもわたくしが地方ビジネスにおいて強調している「いったい誰に売りたいのですか」という質問に対し、「外国人旅行者」とか「独身女子」とか漠然とした答えしか出てこないようでは話にならない、と言っているのはまさにこれなのです。カープは親子4代にわたる女子を顧客にすると明確に規定し、各世代の女子が喜ぶ、それぞれに相応しいかわいいグッズが目白押しであります。

ショップに言ってもおじさんが喜ぶようなグッズが並んでいるわけではありません。このあたりがターゲティングのはっきりしているビジネスの強みで、逆にここが本当にわかれば、ほかの地方企業がパクれる要素、十分であります。

地方ビジネスにおけるカープの存在、今一度注目であります。

アメリカ経済はいまどうなっているのか?

アメリカ経済(米中貿易問題)の話を書こうと思ったのですが、カープのせいで、ここまでで文字数がすっかり増えてしまいました……。

いくつか気になることだけ書いて、詳しくは次回に回します。ご了承ください。

メディアの記事をかなり細かく読んでみたのですが、特に貿易問題について、日本ではドナルド・トランプ大統領の一人勝ちで、中国は慌てふためいて焦っている、という論調がすごく多い、のが気になります。

確かにあれだけわけのわからないことをやられれば中国も多少は面食らうでしょうが、どうも根拠というのが、中国の対米輸出額が5000億ドルに対しアメリカの対中輸出額は1300億ドルに過ぎないから……というところに至るケースが多いように思います。

しかし、この根拠はあてにはならないでしょう。数字的には確かにそうですが、しかし、この問題はすでに完全な「政治イシュー」で元々経済的には大した意味を持つものではない。いつも言っていますが、アメリカの貿易依存度はわずか15%程度で、対中国の貿易赤字額などアメリカGDP全体の数%もない。それを経済問題として取り上げること自体、いくらトランプでもありえない。これはある意味「完全な政治ショー」なのです。

事実、中国のZTE制裁においてかなりの譲歩をして見せたのはトランプ独特の「ディール」でしょう。今週は対欧州貿易交渉において、自動車問題をまずはきちんと棚上げして見せています。

ちゃんとマットに倒れてくれればギブアップする必要はない、といういつものプロレス流。それにのれない中国ではありませんね。

「中国の一人負け説」は間違っている

問題は、すでに政治問題と仮定すると、米中両国のトップ2人の支持基盤です。トランプは今がいちばん強力な基盤を有しており、共和党支持者に限れば90%を超える支持者をあの米ロ首脳会談の失態をもってしても維持しているのです(それどころか、全体の支持率まで上がってきた)。イランとの関係も気になるところですが、トランプ自身としてはある意味イケイケでしょう。(参考記事:WSJ)

一方の中国の習近平主席はすでに全権を掌握する経済大国の独裁者。何か都合の悪いことが起きればいくらでも法律を変えたり、揉み消したりできてしまう。中国内部にもさまざまな権力闘争により、いろいろ問題を抱え始めたという報道もありますが、あまり正確とは言えない記事が多いようです。「墨汁事件」にしても、焼身自殺事件にしても、中国が隠す気さえあればいくらでも隠せるレベルの事件です。それが出てくる……ということは何か裏があると考えるのが本筋です(つまり習近平には別な思惑がある)。

おそらく長期化する、という見通しは間違いないとすると、ある日突然支持率が下がってしまうリスクのあるトランプ大統領よりは、いくらでも情報規制や法律改正ができてしまう習近平主席のほうが明らかに有利に私には見えます。向こうはゲームのルールをいくらでも変えられますが、さすがにトランプ大統領といえども、議会や民意をそこまでは無視できない。ここが今後どう出てくるかはかなり未知数ですね。特に中間選挙が近いということを考えるなら、むしろトランプ大統領はあまり楽観視できない気もします(参考記事)。

はたして次のわたくしの順番まで、どんなことが起きているやら……ただ、大筋での見方として「中国の一人負け」のような考え方は間違っていると思いますよ、私は……。