2018年のギリシャは大丈夫だろうか。今のところ誰も話題にしないが、問題化しないという保証はどこにもない(写真:898/ PIXTA)

すでに記憶が薄れている人も多いだろうが、今から約3年前、ギリシャ情勢は非常に緊迫化していたことを覚えているだろうか。つまり、2015年1月のギリシャ総選挙では、緊縮財政を求めるEUに対して、「反緊縮」を唱える民族主義政党、急進左派連合(SYRIZA)が政権を奪取、アレクシス・チプラス党首が首相職の座に就いた時のことである。

2018年は「第3次金融支援」が終了する年

今一度、簡単に振り返っておこう。「国家的な粉飾決算」の発覚後、一段の緊縮強化を求める欧州連合(EU)との関係が悪化する中、2015年6月末には国際通貨基金(IMF)からの借り入れに対する返済が滞り、「第2次金融支援」がストップ(第1次支援は2010年に実施)した。

同年7月5日、チプラス首相は緊縮継続の是非を問う国民投票を実施。反対が61.3%、賛成が38.7%という結果がもたらされた。事態の緊迫化を受けて欧州の金融市場が不安定となる中で、ユーロ圏首脳は会談を開き、ギリシャに対する「第3次金融支援」の実施で合意に達した。そして同年8月14日、EUが欧州安定メカニズム(ESM)に基づく「期間3年、最大で850億ユーロ(約12兆円)」の支援パッケージの実施を正式に決定したことで、事態はようやく落ち着きを見せた。

その後ギリシャの債務問題は、第3次金融支援が曲がりなりにも継続されていることから、比較的落ち着いていた。その第3次金融支援が、2018年の夏にも終了することになる。言い換えれば、ギリシャの債務問題は2018年の前半にも再燃し、欧州の金融市場を圧迫する可能性がある、と考えられるのである。

さて、ギリシャ経済は2013年に入り下げ止まり、回復に向かうかに見えたが、足元にかけてはゼロ成長が常態化している。ひとことで言えば、輸出を中心に持ち直しの動きが見られるものの、その輸出の「景気けん引力」がそもそも乏しいため、外需の好調が内需に反映されない状態が続いている。

いわゆる「双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)」に関してはすでに解消されており、フロー面での調整は一服している。一方で、「ストック面」での調整は停滞を余儀なくされている。とりわけ政府の借金を意味する公的債務残高の削減は進んでおらず、その規模は2017年6月末時点で3100億ユーロ(約42兆円)と、名目GDPの175%に相当する。経済のゼロ成長が常態化している中では、政府の借金など返せるわけがない。

結局、ギリシャ経済は、身の丈以上の借金を負ったために正常な経済活動が営めない、「支払い能力(ソルベンシー)危機」の状態が今も続いている。こうした中では、借金の返済負担を政策的に軽減して財政出動の余地を広げていくことこそが、事態の改善が見込まれる唯一の手段と言える。

幸か不幸か、これまでの金融支援の結果、ギリシャでは政府債務の大部分がEUとIMF(国際通貨基金)からの借入となっている。当事者間の合意さえ成立すれば、債務の返済負担に対する救済措置が成立する見込みがあるということでもある。

「リスケ」がメインシナリオだが…

ギリシャの財政状況を考えると、「第3次金融支援」が終了した後も、何らかの金融支援が必要不可欠となる。

最も実現可能性が高い政策オプションは、利子減免や支払い延期などといった「リスケジュール」による債務再編だろう。この手段であれば、ギリシャ側にとっては負担の大幅な軽減につながるし、EU側にとっては損失の顕在化も避けられる。

政治的にも、景気底打ちと「支援の卒業」を実績としたいギリシャのチプラス首相にとって、また支援疲れの世論に配慮したいEUの指導者にとって好都合である。これがメインシナリオとなりそうだ。

EUでは、カタルーニャの独立問題に揺れるスペインや、2018年5月までに総選挙を控えるイタリア、2019年3月までをEU離脱の期限としている英国など問題が山積している。それらを抱えながら、ギリシャの債務問題が再燃すれば、欧州各国における反EUの機運を刺激しかねない。EUとしては、2018年いずれかのタイミングで再燃する可能性のあるギリシャ債務問題は、何としても軟着陸させたい問題だ。

だが、ギリシャ債務問題は、その節目ごとに混乱が生じ、欧州の金融市場を不安定化させてきたことも事実だ。第3次金融支援終了後の支援の在り方を巡る交渉もまた、一筋縄ではいかないと考えられる。実は、ある大きな問題が存在するのだ。

その懸念事項とは、ギリシャ債務問題の解決に努めてきたEU側のキーパーソンが続々と引退することだ。

2017年9月のドイツの総選挙の結果、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)で圧倒的な存在感を示したウォルフガング・ショイブレ氏が財務相を勇退し、下院議長に転出した。また2018年1月には、オランダ財務相のイェルーン・ダイセルブルーム氏がユーログループ議長を任期満了で引退する予定だ。欧州委員長を務めるジャン=クロード・ユンケル氏やECB(欧州中央銀行)のマリオ・ドラギ総裁も、2019年の任期切れで退任することになる。

先の総選挙で与党が議席を減らしたことを受けて、ドイツのアンゲラ・メルケル首相の求心力も低下した。その結果、今後のEU統合をけん引すると期待されたフランスのエマニュエル・マクロン大統領との「共同リーダーシップ」(メルクロン)に対する期待もやや萎んでいる。

EU側のキーパーソンたちがこのように、世代交代を迎える中、ギリシャ債務問題を最前線で経験したことがない政治家達が、第3次金融支援終了後のギリシャを適切にマネジメントできるか、まったくもって未知数である。

再び、金融市場の不安定要因に?

一方、ギリシャ側でも、チプラス首相が2018年中に解散総選挙を実施するという観測が高まっている。与党SYRIZAの支持率は低迷しており、次期総選挙では最大野党の中道右派、新民主主義党(ND)を首班とする連立内閣が成立する公算が大きい。いまのところ、チプラス首相には、敢えて「政権を早く譲り渡す」という戦略をとることで、野党として党勢の回復に努めたいという思惑があるようだ。場合によっては、第3次金融支援後の金融支援の交渉そのものを、新政権に丸投げするリスクシナリオも考えられる。

繰り返しになるが、現時点では、リスケジュールによる債務再編でEUとギリシャは最終的には合意に達すると考えられるものの、交渉は一筋縄ではないかないだろう。当然、欧州や世界の金融市場にとっては不安定要因となり、リスクオフの流れを受けて株安やユーロ安などになる可能性がある。確率は高くないものの、交渉が決裂し、ギリシャ債務問題が本格的に再燃するような事態になれば、金融市場へのショックはより大きくなる。

EUはギリシャ債務問題に端を発したユーロ危機を受けさまざまな金融安定化のためのセーフティネットを整備してきた。象徴的な存在がESM(欧州安定メカニズム)だが、「欧州版IMF」への機能拡大構想に前進が見られず、また反EUのうねりのなかで、その機動力が低下していないか心配だ。欧州中央銀行(ECB)や米国が量的緩和プログラムの段階的縮小(テーパリング)に着手するなど、世界の金融環境が変わりつつある時、ギリシャ債務問題が相場を腰折れさせる引き金になるのか、注意が必要だ。