ゴロフキンのドローで混迷続くミドル級。そこに村田諒太の居場所は?
ミドル級の最強を決める一戦――。
9月16日に行なわれた、WBA、WBC、IBF世界ミドル級王者ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/WBAはスーパー王者)vs元WBC同級王者サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)戦にはそんなキャッチコピーがついていたが、”時代の覇者”は誕生しなかった。両者は12ラウンドを戦い抜き、判定は3者3様のドロー。激しいペース争いが繰り返される熱戦ではあったが、やや消化不良の結末になった。
引き分けでのタイトル防衛となったゴロフキン(左)
「ひとりのジャッジの採点は残念なものだった。なんであんな結果になったのかはわからない。ともあれ、カネロが再びタイトルに挑みたいなら、再戦が準備される。彼らからオファーを受け取れば、成立させるつもりだよ」
ゴロフキンを抱えるK2プロモーションズのトム・ローフラー氏がそう述べた通り、大方の関係者は「カザフスタンの無敗王者がやや優勢」と採点していた。人気者のカネロが判定に救われた感は否めず、特に、3人のジャッジのうち女性のジャッジがつけた「118-110でカネロ勝利」という公式採点が、試合後に物議を醸(かも)した。
こうした新たな因縁が、興行面でプラスに働くのがボクシングだ。判定問題が新たなスパイスになり、ローフラー氏の述べたように、遠からず両者のリマッチが用意されることになるだろう。ターゲットは2018年5月のシンコ・デ・マヨ(メキシコの国民の休日)か、あるいは9月のメキシコ独立記念日か。あまりにも筋書き通りであることが釈然としない人も多いだろうが、第1戦でのドロー裁定が発表されたと同時に、”ゴロフキンvsカネロ2”へのカウントダウンも始まったと言っていい。
その一方で、このカードのリマッチは”ミドル級最強決定戦”とは呼ばれないかもしれない。依然としてそう称されたとしても、同階級の他のファイターたちとの差は縮まっているように思える。先週の試合では、ゴロフキンとカネロから絶対的な強さは感じられず、それと同時に、一時は完全に”トップヘビー(ランキング上位だけに強豪が集中している)”と呼ばれていた同階級に、多くの好選手が揃い始めているのだ。
昨春まで23連続KO勝利、17連続KO防衛と無敵の強さを誇ったゴロフキンだが、ここ2戦は判定にもつれ込んでいる。TKO勝ちした昨年9月のケル・ブルック(イギリス)戦も含め、相手のレベルが上がるとパンチをもらうシーンが目立つようになった。
アマチュア時代を含めて約400戦を戦い、35歳を迎えたベテランボクサーゆえ、すでにピークを過ぎていたとしても不思議ではない。衰えがどの程度進んでいるかは意見が分かれるところだが、一時期のゴロフキンが纏(まと)っていた”不可侵のオーラ”が薄れたのは事実。今後、カネロ以外のチャレンジャーと対戦するとなっても、相手選手は一時ほど気圧(けお)されることもなく怪物王者に挑めるだろう。
昨年3月にゴロフキンを苦しめた、元WBA世界ミドル級王者ダニエル・ジェイコブス(アメリカ/32勝(29KO)2敗)、ミドル級に昇級してきた元IBF世界スーパーウェルター級王者ジャマール・チャーロ(アメリカ/26戦全勝(20KO))は脅威となる存在だ。「この2人は、ゴロフキン、カネロの両方を打ち破るスタイルを持っている」と話す関係者は少なくない。
また、こちらもミドル級転向が予定される、WBA世界スーパーウェルター級王者デメトリアス・アンドレード(アメリカ/24戦全勝(16KO))も見逃せない。そして、8月25日のIBF挑戦者決定戦でタフなトレアノ・ジョンソン(アメリカ)をストップした、元トップアマのセルゲイ・デレビャンチェンコ(ウクライナ/11戦全勝(9KO))の株も急上昇している。
その他、WBO同級王者ビリー・ジョー・サンダース(イギリス/25戦全勝(12KO))、元IBF王者デビッド・レミュー(カナダ/38勝(33KO)3敗)、現役最後のファイトを大興行にすることを目論む4階級制覇王者ミゲール・コット(プエルトリコ/41勝(33KO)5敗)……と、今のミドル級にはビッグネームが目白押しだ。
ゴロフキンが絶対王者だった季節は終わりに近づき、ミドル級は群雄割拠の時代を迎えようとしている。”次代の覇者”と目されたカネロも、ミドル級ではパワー不足に苦しむかもしれない。ジェイコブス、チャーロあたりがうまくマッチメイクすれば、1年後の9月には、ゴロフキン、カネロに勝るとも劣らない評価を得ている可能性もありそうだ。
日本のファンにとって気になるのは、その中に村田諒太(帝拳)がどうやって食い込んでくるかだろう。ここに挙げた豪華メンバーと比べ、知名度で劣っていることは否めない。ただ、村田にもロンドン五輪金メダリストという肩書きや、米国内でもESPNが中継に興味を持っているという事実、そして、世界的なリスペクトを集める帝拳プロモーションの後押しといったプラス材料がある。
まずは、10月22日に予定されているWBAミドル級王者アッサン・エンダム(フランス)との再戦を、第1戦以上の内容で勝つことが絶対条件となる。ESPNの中継のもとでそれを成し遂げれば、”ムラタ”の知名度は一気に上がり、いきなりゴロフキンとの対戦とまではいかないまでも、アメリカでのビッグファイトが視界に入ってくるだろう。
前述の通り、”今年最大のファイト”と呼ばれたゴロフキンvsカネロ戦はやや煮え切らない結末を迎えた。しかし、それと同時に、ミドル級戦線は少しずつ動き出している。ゴロフキンvsカネロは”ゴール”ではなく”新たなスタート”。ボクシング界において、伝統のミドル級がしばらく注目の階級であり続けることは間違いなさそうだ。
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