「ジョジョの奇妙な冒険」岸辺露伴爆殺の衝撃

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ジョジョ世界で輝く子どもたち


超常の力を持つ異能者たちの戦いのゆくえ、勝利の鍵を握るのは子ども。強者の眼中にない彼らは、主役以上に輝く瞬間がある。吹き荒れる暴力を前に立ちすくまず、驕り高ぶった悪党どもの足下をすくうのだ。
第一部に登場したポコも、村の不良にいじめられて「(仕返しを)あしたやってやらあ!」と言いながら、姉に「あしたっていつのあしたよ?」と聞かれる気弱な少年だった。しかしジョナサンが絶体絶命のとき勇気を奮い起こし、小窓から決闘場の中に入って扉を開いた。「あしたっていまさ!」という名言、そしてジョナサンの首をへし折ったタルカスに殴られても生きてた頑丈さ!


若き日のジョセフと行動をともにしたスモーキーも、吸血鬼と化したストレイツォとの戦いに巻き込まれたり、柱の男達との最終決戦に臨むジョセフに母親・リサリサの真実を伝えようとしたり(未遂)、常識を超えた世界に気丈に付き合った。その後は苦学して政治学を修め、地元ジョージアで初の黒人市長に。柱の男以上に手強い差別に屈しなかったという意味で、彼もまた「勇者」だ。

アレッシーに子供に変えられながら命がけで女性を助けようとしたポルナレフや、大人のスタンド使いを素手で叩きのめしたチビ承太郎も、勇気ある「子ども」だった。第四部でも敵とはいえ、露伴先生を追い詰めたジャンケン小僧(大柳賢)は精神力もすごかったし、成長力の高さも子供ならでは。

そして頂点に立つと言われるジョジョ子ども、その名は川尻早人。今回は吉良のいいように利用されて酷い目に遭ってるが、次回以降の黄金の精神に刮目せよ!

吉良吉影の手がかりをついにつかんだ露伴先生


「この写真、露伴ちゃんが撮ったの?」

前回、振り返ってはいけない小道にて、チープ・トリックを倒した直後のこと。サラリーマン盗撮写真集の中で、鈴美さんは印がついてる1枚に目をつけた。露伴先生いわく「コソコソしてる風なんでちょっと興味持っただけ」とのことだったが、「川尻浩作」と姓が同じ。

「アンタが調べたんでしょ?」というお姉さん口調がカットされてなくてうれしいが、ようやく手がかりが繋がった……ところを観ていた吉良のおやじ。「このままでは岸辺露伴が吉影にたどり着いてしまう!」とすっ飛んでいくところは、原作にないアニメ版の補完だ。

7月15日(木) 20時48分

「早人ったら呼んでるのよ!返事ぐらいしなさい!」

風呂場の前に脱ぎ散らかされていた衣服を手にして、息子を呼ぶ川尻しのぶ。このとき、早人が返事ができないことには「ある理由」があった……。

ドアから顔を覗かせたのは、早人ではなく川尻浩作(の顔をした吉良吉影)。上半身裸の夫に顔を赤らめるしのぶは「あなたと違って何度言ってもだらしないやつだわ」と息子より夫を信じていて、とことん早人に救いがない。

が、黙り込んでいる吉良。その指からは血が出ているのに気づいたしのぶはクローゼットから絆創膏を取り出そうとするが、吉良が壁ドン!いやクローゼット・ドン。ちょっとドアに指を挟んだだけと言いつつ、扉の向こうには早人の死体! 服が「廊下までふっ飛ばすように」散らかっていたのは、「爆弾でふっ飛ばされた」からだった。

7月15日(木)20時50分

「川尻早人?この小学生が吉良と関係あるってのか?」
東方家で、仗助と康一くんが緊急ミーティング。7月15日はまだ終わってなかった…。このやり取りもアニメオリジナルで、実にていねいに行間を埋めてくるいい仕事だ。

「まだ100%ってわけじゃないんだけど、何か気になるって露伴先生が」と言伝てする康一くん。露伴先生が大嫌いな仗助の家に来ないのはもっともだが、7月15日だけでエニグマに紙にされる→仗助たちにより救出→露伴先生をサポート→東方家。康一くん、過労で倒れちゃう!

仗助と康一くんは、明日の朝待ち合わせして川尻家を訪問することに。住所は露伴先生が調査済みで、仗助が億泰を誘い、承太郎には康一くんが声をかけ(さり気なく信頼関係を盛り込むウマさ)来るべき決戦への伏線をまとめて張っている。

「それじゃ朝8時半、ペプシの看板がある交差点で」

ペプシの許可を取ったんだ! 「たべっ子どうぶつ」(第22話)でギンビスとコラボしていたことといい、アニメ版スタッフは根回しも完璧だ。

謎の自信に満ちたニュー川尻浩作


顔色が悪いと心配する妻を、指を挟んだだけだと追い払う吉良。しのぶの「急に思ったんだけど私最近あなたのこと不死身だって思うもの」という言葉は真実の一端を突いていて、まるで異変に気づいてないわけではない。その目を曇らせてしまう夫へのラブ!

爪をかみながら、吉良は昨夜を回想する。殺人の瞬間を収めたビデオテープを人質に「これは取引じゃない!お前は従わなくっちゃあいけない!」と脅す早人を許すわけもなく、転んで頭をぶつけたように見せかけて頭を破壊。しかし、時期が悪かった。

「お前ともあろうものが早人を始末するなんて…馬鹿なことしたなぁ…」

そう嘆くオヤジをよそに、ひたすら爪を噛み続ける吉良吉影。画面に黒く規制が入るまで指を噛むアニメキャラは、おそらく史上初だ。

「かわいそうに…お前は今とても絶望しているのだね…もう切り抜ける方法はない!街を出るしかないぞ吉影!」

思いやりに満ちた優しい父親の声。が、息子を野放しにして殺人鬼になるのを許した優しさであり、肉親の愛は時として倫理を踏みにじる。

「この私が杜王町から逃れるだと!?この私が追ってくるものを気にして背後に怯える人生はまっぴらだということはよく知ってるだろう!」

植物のように平穏な人生と、杜王町を愛する心。平凡な一市民が持つ心情が「異常な愛情」の核になってるのだからやりきれない。

が、「矢」はそんな執着に応えた。勝手に吉良の腕に突き刺さり、やがて首にまで達し……そしてキラークィーンが新たな能力に覚醒!

7月16日(金) 7時30分

「いつまで寝てるの早人!」

ついに16日になった。そして川尻早人も生きている! 原作でも「一体何が起こったの」と呆気にとられた金曜日の朝がやってきた。

殺人の証拠を握って優位に立ってる早人はよく眠れなかったのに、弱みを握られたはずの吉良は鼻歌まじりのゴキゲン。ネクタイも派手になり、髪型も白黒ツートンで昨夜からガラリとイメチェンだ。

息子のハイテンションに異常を感じた吉良のおやじは「やつらは明日にもこの家を調べに来るぞ!」と忠告するが、吉影は「キラークイーンは第3の能力を身に着けた」と余裕しゃくしゃく。一夜にして変わったヘアスタイルの秘密は、ブラシで梳いてとかしていたからだった!と明かされるアニメ版。そのブラシはなんなんだ?と謎も深まってますが。

放送事故を起こすテレビのアナウンサー、けたたましく鳴る川尻家の電話。吉良の変貌に気を取られた早人は「速く電話に出て!」と言われても上の空で、焦ったしのぶは大切なポッドセットを落として割ってしまう。なお、原作にあった「ウェッジウッド」のブランド名は出せなかったようだ。

息子の心を親は知らず、たかだか電話に出なかったことを責める母しのぶ。そこで「朝から喧嘩はやめような。割れたんならまた買ってあげるよ」となだめる吉良。いかにもいい父親してるが、そもそもアンタが喧嘩の原因ですよ。「家族なんだ。みんな仲良くしなくっちゃあな」と良き父のセリフを、殺人鬼がぬけぬけと言うことにゾッとする。

ハイになった吉良は、しのぶの頬にお出かけのキス、それを見つめる早人はブチ切れ寸前だ。怒りを押し殺して「父親」の出勤をやり過ごしたかと思えば……。

「いや。いるよ。途中まで一緒に行こうか」

さわやかな朝の登校時間がホラーに! 珍しく青い杜王町の空も恐怖をいや増す。

清々しい気分になったり(殺人)絶望に落ち込んだり(秘密がバレた)いろんなことが起こるんで気分の波の差が激しかった吉良。しかし「昨夜君に追い詰められたおかげで成長できたんでね」と最も聞きたくない告白をする。

「昨夜の君には実に強い意志を感じたよ。この吉良吉影を逆に脅迫するとはね」

まさか本名を名乗った!? 早人は「やっぱり僕を殺す気か?」と反応するが、それに対する答がさらに恐ろしかった。

「そんなことは必要ないよ。成長したんだからね。君がどこで誰に何をしようと私は無敵になったんだ。これからはみんな仲良く生活するんだよ。安心してね。親子のように」

殺人鬼と「仲良く」「親子のように」は、悪夢以外の何ものでもない。父親の顔をした見知らぬ男は、「息子」を学校へと送り出す……。

(無敵…今あいつ無敵って言った。つまりあいつの他にも同じような能力を持つ者がいるってことだな。でも一体あの不気味な自信は…)

小学生にして、その洞察力も恐ろしいよ! しかしジョジョ世界においては強さ=異能力×本人の精神力という方程式があり、普通の人間でもスゴみがあれば渡り合えることは先人たちが証明済みだ。

「君…川尻早人君…だよね?」

どうすればいいか迷う早人の前に、車から降りてきた露伴先生。すごいポーズに、へそ出しファッションした大人が子供に話しかけてきた。声掛け事案だー!

露伴先生が「第三の爆弾」にBITE THE DUST(負けて死ぬ)


「この写真のことなんだ。映ってるの君だよね? 端っこに映ってるお父さんをビデオで撮ってるのかい?」

途方にくれていた早人にとって、待ちに待ってた味方。だが、いきなり車から降りてきた初対面のへそ出し男(露伴先生)を信用するのは難しい。しかも、「パパじゃない」男は不気味なことを言っていた……という心理が働いたのか、逃げようとする早人。

待てよ!というが早いがヘブンズ・ドアー! 潔いほど真正面から聞くつもりはないが、「面倒くさく質問するより、この川尻早人自身を読んだ方が手っ取り早いし正直な答えが得られるという所かな」はうなずける。いや、児童を失神させて車に連れ込んでいて、かなり面倒くさいことになりそうですが。

「本」に変えた川尻早人をめくると、いきなり「【警告】これより先は読んではいけない」とのメッセージ。ヘブンズ・ドアーが本にして読むのは、本人が記憶している嘘偽りのない人生の体験のはず。しかし、背中を見られてはいけないなど「絶対押すなよ」系の誘惑に弱いことに定評ある露伴先生は、意に介さずに先を読み進む。

「ズボンのチャックを開けたオヤジが通った」
「クシャミをした。ちくしょーと言った」
「女の人がクスクス笑った」

へぷしっ!とオヤジがクシャミをし、社会の窓を空けた姿に女性が声を忍ばせて笑う。まるで予知能力のようだが、ヘブンズ・ドアーが読むのは「すでに起こったこと」だ。

「雨が降った」「8時27分 雷がペプシの上に落ちた」も時間通りに起こる。もしも早人がスタンド使いだとしても、本に記述させるのは「経験したこと」で、先のことを体験している説明がつかない。どう考えても時間軸がおかしい…。

どこかにその答えが書かれているはずだが……「パパはパパじゃあない」「殺人鬼だ 正体を見てしまった」喉から手が出るほど欲しかった情報を前にして、めくる指にブレーキを掛けられるわけがない。やがて早人の本は、決定的なページへと差しかかる。

「パパの名はキラ ヨシカゲ」

たまたま興味を惹かれた小僧を調べてみれば、一発で大当たり。追跡するメンバーの中では最も因縁が深い(殺されかけた)露伴先生が、吉良吉影=川尻浩作に成り代わっていることを突き止めた盛り上がりは筆舌に尽くしがたい。が、川尻早人の本には続きがあった。

「岸辺ロハンも殺された→成長したキラに殺された」

過去形……? カチリとスイッチが入り、小さなスタンドが現れる。

「キラークイーン第3の爆弾!バイツァ・ダスト!」

バイツァ・ダストとはBITE THE DUST(負けて死ね)ということ。元ネタはクイーンの楽曲「Another One Bites the Dust」(地獄に道連れ)だ。ヘブンズ・ドアーで本に変えようとする露伴先生。が、スタンドの腕は像をすり抜け、ときすでに遅し。キラークイーンはすでに露伴先生の瞳の中に入っていた。そして無音……爆発して血を噴出する露伴先生の背中。

「キラークイーン第3の能力。それは私を追ってくる者全てを消し飛ばす爆弾。私の正体を探ろうと早人に近付く者には全て作動する!」

早人が吉良の正体を言葉で喋っても、文書で書いても、その場で作動する。つまり早人そのものが爆弾に変えられているわけだ。

「そ…そういえば…8時30分に康一君達とここで会う約束…だった…ついに吉良吉影の正体を見つけたんだ…」

最後の最後まで康一くんのことを、キラの正体を伝えることを思い続ける切なさ。背中が裂けながら、叫べば声の届きそうな場所に来ている康一くんに手を伸ばしながら。

「そしてここからが真のキラークイーン第3の能力なのだ!」

露伴先生の想いを断ち切るようにスイッチを押すキラークイーン。第三の爆弾がふっ飛ばしたのは、康一くーん!!という断末魔の叫びだけではなかった……。

強くしすぎて原作者も攻略を諦めかけたラスボス吉良吉影


またもやベッドから飛び起きる川尻早人。時計が指すのは7月16日の7時31分。ゆ、夢か……?と思うのは当然の反応だ。

(昨夜は…あまり眠れなかった。何度も変な夢を見て…)

部屋に起こしに来た母・しのぶ。朝のテレビもなぞったように放送事故を繰り返し、(間違い)電話に出て!と叱られることもピッタリ同じ。

(お…同じ朝だ!繰り返している…今日の朝がまた繰り返している!)

時間のループ構造や、「無敵の能力」が自分の中に仕掛けられていることを一瞬で理解する早人。やはり小学生のレベルを遥かに凌駕した、スーパー小学生!

母がポットセットを落っことすことを分かってたみたいに(分かってるんだが)、ナイスキャッチする早人。しかし、吉良は電話が間違い電話であることを知らない。時間のループを認識しているのが世界で早人だけで、バイツァ・ダストを仕掛けた吉良本人も認識してないのが面白い。

「どうやら誰かをブッ飛ばして戻ってきたようだな。いや。私にはお前が何をしてきたかわからんのだよ本当」

能力自体は認識しているが、自らの記憶も「巻き戻される」本体の吉良吉影。ここで、バイツァ・ダストの能力をザックリまとめておこう。

1.吉良が絶望した状況でのみ発現する(早人に正体がバレた)
2.自分の秘密を知る人物に能力を使うことで時間は1時間戻り、その間の事実は消え去る(「早人を殺した」という事実もなかったことに)
3.能力を使われた人間は、吉良を守る爆弾に変わる

ジョジョのラスボスは時間操作系の能力が多いが、バイツァ・ダストはとびっきりのややこしさ。とはいえ、とはいえ、「不快な出来事をリセットする」「自分の正体を探る者だけを抹殺する」ということで、吉良に興味を持たない相手には全くの人畜無害。トラブルを嫌い平穏を愛する心が生み出した「究極のカウンター能力」ではある。

誰をぶっ飛ばして来た?と小学生にキツすぎる質問をする吉良に、誰にも喋ってないという早人。

「そうか。じゃあ探りを入れられたろう。きっと岸辺露伴だ。お前に喋る気がなくても相手が私の事を探ろうとお前に質問しただけでもバイツァ・ダストは作動する」

早人の洞察力もすごいが、吉良吉影の察しも良すぎる……。

「そしてお前はそいつを爆破し戻ってくる。岸辺露伴にお前が会ったという事実さえ消して来た。それがキラークイーン・バイツァ・ダスト。お前は誰にも喋れない。お前を探れるものは誰もいない」

あまりに強くしすぎたために、原作者の荒木先生も「主人公が負けてしまうと諦めかけた」というバイツァ・ダスト。誰にも助けを求められない、質問されただけで相手を殺してしまう絶望を前に、川尻早人の孤独な戦いが今始まる…えっと主役は誰だっけ?
(多根清史)