NMB48「道頓堀よ、泣かせてくれ!」HKT48「尾崎支配人が泣いた夜」どっちが泣けるか徹底比較

写真拡大 (全2枚)

1月29日より全国の映画館で「道頓堀よ、泣かせてくれ! DOCUMENTARY of NMB48」「尾崎支配人が泣いた夜 DOCUMENTARY of HKT48」と、AKB48の姉妹グループのドキュメンタリー映画が公開されている。

NMB48は大阪、HKT48は福岡を拠点に2010年、2011年にあいついで誕生したグループだ。じつは、NMB48の映画は昨年8月、HKT48は同11月にそれぞれ公開予定だったが、いずれもよりクオリティの高い内容を目指すため延期となり、けっきょく年をまたいで同時公開されるにいたった。なりゆきとはいえ、公開が重なり観客動員などで競わざるをえなくなったのは、48グループの宿命なのだろうか。せっかくなので、ここでは2作を比較しながら、それぞれの見どころを紹介してみたい。なお、両方ともタイトルが長いので、以下、それぞれ「道頓堀」「尾崎支配人」と略称させていただく。


“映画監督”指原莉乃vs.“哲学者志望アイドル”須藤凜々花


「尾崎支配人」の監督を務めるのは、HKT48のメンバーである指原莉乃。その手があったか! と思わせる人選だ。何しろ指原は、グループの活動拠点であるHKT48劇場の支配人を兼任し、メンバーの指導や外部に向けたPRにも余念がない。ドキュメンタリーの監督はまさにうってつけといえる。

今回の映画では監督自らメンバーにインタビューするばかりか、撮影した映像をチェックしたりスタッフと話し合ったりとメイキング的な要素も盛りこまれている。メンバーに対して外部の人間には聞きにくいことも自然と聞き出せるのはやはり指原の強みだし、個々人に向けて自分の思いを率直に伝えるところを見ると(とくに兒玉遥へのメッセージにはグッと来た)、彼女のプロデューサー気質をあらためて実感させる。

これに対し「道頓堀」の舩橋淳監督は、劇映画とドキュメンタリー映画を手がけ海外の映画祭にもあいついで作品を招待されている実力派。しかし舩橋はアイドルについて今回監督を引き受けるまで全然知らなかったという。そのためか、本作ではNMB48というグループ、ひいてはアイドルについて外部からとらえようという視点が随所にうかがえる。この点、インサイドレポートという趣きの「尾崎支配人」とは対照的だ。

「道頓堀」の作中、アイドルの存在をとらえるうえで象徴的な役割を担っているのが須藤凜々花である。48グループの第1回ドラフト会議(2013年)で指名されてNMB48に加入した須藤は、当初より哲学者志望と公言してきた。映画では、彼女が大阪の道頓堀川を船で下りながらニーチェなどの哲学者の言葉を引用した詩を朗読する。とりわけ印象に残ったのは、「個人は自身の肉体を支配する権利を持つ」というジョン・スチュアート・ミルの言葉を引きながら、しかしアイドルにはその言葉が当てはまらないとの逆説を示唆する場面だ。現役アイドルによって語られるだけによけいドキッとさせられる。

センター争いと次期エース対決


48グループでは、シングル曲を歌うメンバー(原則的に16人で構成される)を「選抜メンバー」、シングルや劇場公演などで中心に立つメンバーを「センター」と呼ぶ。AKB48ではこれを長らく前田敦子が務め、SKE48では松井珠理奈と松井玲奈、NMB48では山本彩と渡辺美優紀によるダブルセンター体制がそれぞれ結成以来通常化していた。だが、HKT48の場合はちょっと事情が異なる。

結成時より、劇場公演ではセンターは1期生の兒玉遥でほぼ固定されていたにもかかわらず、HKT48初のオリジナル曲「初恋バタフライ」(2012年。AKB48のシングル「永遠プレッシャー」Type-Cに収録)のセンターには、2期生として加入したばかりだった田島芽瑠が抜擢され、グループ内に動揺が走る。以後も、田島や同じく2期生の朝長美桜がセンターに選ばれ、先輩の兒玉がそのポジションに就いたのは4枚目のシングルにしてようやくだった。映画では、そのときの当人たちの心境が、指原によって聞き出されている。


一方、「道頓堀」では次期エースと目される矢倉楓子と白間美瑠の“対決”にスポットが当てられている。母子家庭で育った苦労人で「家を建てるのが夢」と語る矢倉と、お嬢様キャラの白間はいかにも対照的。カメラは、握手会での行列の長さや選抜総選挙の速報(投票開始翌日に発表される途中結果)など、両者の明暗が分かれる現実を映し出す。もっとも当事者のひとり、矢倉からすると白間とライバルと見なされることに対して複雑な思いがあるらしい。映画のなかで矢倉が正直な気持ちが吐露されていて興味深い。

非選抜メンバーが報われる日は来るのか


「尾崎支配人」と「道頓堀」の最大の共通点は、HKT48では坂口理子と上野遥、NMB48では沖田彩華と、選抜メンバーになかなか抜擢されない“非選抜メンバー”をフィーチャーしていることだ。とくに上野と沖田は、劇場公演で欠席したメンバーの代役(アンダー)を頻繁に担い、ほかのメンバーよりもたくさんの振付をマスターしている。ここから沖田は「劇場職人」の異名をとり、上野はとくに代演することの多い指原莉乃から直々に感謝される。

「努力は必ず報われる」とはAKB48グループの前総監督・高橋みなみの口癖だが、その言葉どおり地道な努力を続ける彼女たちが報われる日は訪れるのか? このテーマは両作ともに大きな軸となっている。ここでメンバーを応援するファンにスポットを当てている点も共通する。「道頓堀」では、沖田のファンらが握手会でNMB48劇場の金子剛支配人に直訴する場面も出てきて、その熱意が伝わってくる。

アイドルは家族と何を食べる?


両作がアイドルを支える存在としてスポットを当てるのはファンばかりでない。家族もその対象だ。そこではメンバーたちが家族と食事をする場面も出てくる。見るほうとしては、会話とともに何を食べているかもつい気になってしまう。「道頓堀」で、沖田彩華が郷里・広島に帰ったときに家族と食べていたお好み焼きもおいしそうだったが、あえて一等賞を選ぶとするなら、「尾崎支配人」で村重杏奈の実家を訪れた指原監督がごちそうになっていた、ロシア人の村重ママ手づくりのボルシチに差し上げたい。

山本彩の涙、選抜メンバー決定の舞台裏……初めて明かされる真実


昨年の選抜総選挙の速報で、NMB48から順位の出る80位以内に入ったのは4名とグループ最少だった。このとき、めったに人前で泣かないリーダー格の山本彩が涙を見せて話題を呼んだ。映画では、そのあとの様子もカメラに収められ、彼女の涙にどんな思いが込められていたかがあきらかとなる。HKT48の映画のタイトルにならえば、まさに「山本彩が泣いた夜」であった。

この手の特ダネ映像を「尾崎支配人」からあげるなら、何といっても選抜メンバーを決める会議のシーンだろう。秋元康総合プロデューサーをはじめ、HKT48劇場の尾崎充支配人、レコード会社の担当者などの出席するこの会議にカメラが入ったのはおそらく初めてではないか。そこには居合わせていないものの、指原の意見も尾崎を通じて提案されるほか、どのような基準でメンバーが選ばれているのかがつまびらかにされている。

総評


一般的な関心度からすれば、やはり指原莉乃監督の「尾崎支配人」が一歩リードというところか。実際、私が観に行った名古屋の劇場では、平日昼間にもかかわらず(月初めの割引デーではあったが)、大半の席が埋まっていた。これとくらべると「道頓堀」はやや空席が目立ったように思う。

先に書いたとおり「尾崎支配人」にはメイキングの要素もある。手の内を見せながらエンターテインメントとして展開していく手法は、秋元康が得意とするところだが、それを指原莉乃はみごとに引き継いだともいえる。

これとくらべると「道頓堀」のつくり方はオーソドックスといえるかもしれない。握手会や選抜総選挙などファンには当たり前のシステムについてもナレーション(俳優の萩原聖人が担当)で丁寧に説明されている。もちろんこれはファン以外の観客を想定してのことだろう。総選挙で推しメンのため何票も投じるファンコミュニティにも取材し、なぜそうするのかを率直に訊ねていたのも目を惹いた。これまで9.11後のニューヨークの移民社会など小さなコミュニティを作品でとりあげてきた舩橋監督らしいアプローチだ。

このように監督のパーソナリティからしてまるで異なる2作だが、だからこそ、それぞれの切り口が際立って面白い。ファンはもちろん、そうでない人にも、わずかでもアイドルに関心があって時間が許すのならぜひ両方とも見てもらいたい。同時公開になったからには、それが最良の楽しみ方のはずだから。
(近藤正高)