あの漫画はなぜ凄いのか『俺物語!!』『透明なゆりかご』『東京タラレバ娘』……漫画雑誌編集長が徹底討論
雑誌をつくる編集者のトップに立つ編集長は何を考えているのか? 女性向け漫画誌「Kiss」「ハツキス」の鈴木学編集長と「BE・LOVE」「ITAN」の岩間秀和編集長にお話をききました。
――ライバルだと思っている雑誌はありますか?
鈴木学編集長(以下鈴木) 「Kiss」は「Cocohana(ココハナ)」と「FEEL YOUNG(フィール・ヤング)」などですね。どちらも併売される方がいますし、作家さんが競合しているということが理由です。編集者の性で最初に次号予告を見るのですが、ライバル誌でうちが欲しかった作家さんの漫画が始まるとやられた〜となりますね。ですから、次号予告を見るときはドキドキです。
岩間秀和編集長(以下岩間) 「BE・LOVE」はライバル誌といわれると結構難しいですね。もともとの読者層は30〜50代の女性でしたが『ちはやふる』や『明治緋色綺譚』が始まってから親子、夫婦で読んでくれる方が増えました。だから全部ライバルです。というとすごく偉そうに聞こえてしまうのですが(苦笑)。
鈴木 好敵手というやつですよね。気になっている雑誌の漫画が面白いとくやしい気持ちもありますが、パイを奪い合うのではなくて、このオトナ女性向け漫画というジャンルが盛り上がっていけばいいなと思っています。好きな方は複数の雑誌を読んでくださっていますしね。
岩間 そうそう、共存していきたいですよね。だから対立軸で考えてはいません。僕はジャンル・刊行形態・発売日が同じだった集英社さんの「YOU」を、ずっと意識してきました。やはり同じ日に発売されて結果がどうだったかというのは気になることころでしたので。もちろん「YOU」が月刊になった今でも、ですが。
鈴木 刊行形態が変わると比較しにくくなりますよね。
岩間 そうですね。刊行形態によって雑誌は構成が根本的に変わってきますからね。「BE・LOVE」は1回あたりのページ数は少ないけれど、“次にひく”という連ドラみたいな感覚で読める漫画を意識して構成していますし、対して「Kiss」は月刊で1作品あたりのページがしっかりあるので読み応えを考えたつくりになっていると感じます。
――それ以外で最近注目している雑誌はありますか?
鈴木 「イブニング」が気になりますね。今予告を見るのが一番ドキドキする雑誌です。常に新しい人が入ってきているので、次は誰が載るんだろうって思っています。「イブニング」「モーニング」「アフタヌーン」「ヤングマガジン」(いずれも講談社刊)はすべて編集長が変わったので、どんどん誌面が変わっていくでしょうから楽しみですね。
岩間 僕は今「別冊マーガレット」の『町田くんの世界』がすごく好きです。普通、メガネで真面目というといけすかないキャラになりがちなんだけど、町田くんはとにかく何もできない。でも色んな人に迷惑をかけながらも周りを取り込んでいく魅力があってステキです。キャラがとても新しいんですよね。「別マ」の“学園恋愛モノ”というジャンルはテーマの縛りが強いという印象でしたが、その中で新しい可能性を次々生み出しているのは純粋にすごいと思います。その先鞭をつけたのが『俺物語!!』だと思います。
鈴木 そうですね。いわゆるイケメンな男性=カッコ良いという基準だけでなく、見た目が悪くてもハートが優しい人がカッコ良い!という新しい男性像はチラホラ出てたけど、『俺物語!!』にガツンとそれを持っていかれた気がします。ずるい…けど面白い…みたいな。
岩間 ちゃんと恋愛が成立しているのもすごいですよね。
鈴木 そう。猛男はほんっとうにカッコ良く見えますから。
岩間 あとやられた〜と思ったのは『コウノドリ』ですね。しっかり取材して掘り下げているし、臨場感と切実感にあふれています。「BE・LOVE」では子育てモノは定番ですが、出産モノはしばらくなかったんです。うちにあってもおかしくない題材だったので正直言えばくやしい!
鈴木 同じく出産モノで「ハツキス」の『透明なゆりかご』も話題になっています。リアルな本物を見たいというのが、今の空気なのかもしれませんね。僕の“やられた”は『ダンジョン飯』です。「ハツキス」は創刊して1年で、色んなジャンルの漫画が載っている雑誌を目指しています。だからあの漫画が「ハツキス」にあったら…と思いました。あれこそ初めてみる漫画だと驚きました。あと、僕は「BE・LOVE」で連載している『鏡の中で会いましょう』も好きですね。美少女とブサイクの友人同士が入れ替ってしまうのが面白いなと。今「Kiss」はリアルなお話が多くて、ファンタジー要素があるのは『涙雨とセレナーデ』くらいなので、こういう漫画らしい面白さっていいな〜と思いました。
岩間 ブサイクな女子のデザインがすごいですよね(笑)。
鈴木 そうそう。あと、ファンタジーという嘘が入れ替わりという1点だけで、あとはちゃんと地に足がついていてリアルなのがとても良いと感じました。
岩間 うちは『東京タラレバ娘』が欲しいです(笑)。僕はあまり会話劇が好きではないのですが、この漫画は会話を見ているだけで面白いので、東村さんの描くキャラのすごさを再確認しました。
鈴木 東村さんの担当編集からタイトル案を見せてもらった時は衝撃を受けました。『東京タラレバ娘』ってすごいタイトル! さすが東村さん!って。
――編集長の仕事に、雑誌に掲載する作品を決める“編成”や雑誌の掲載順を考える“台割作成”というものがあると思います。どんなことを考えながら決めるのですか?
岩間 僕はCDアルバムをイメージします。「BE・LOVE」の読者さんはじっくり読んでくださる方が多いので、1冊の本としての読み心地を大切にして順番を決めます。巻末にしっかりとした作品を置いたりすることが多いですね。僕はこの作業が好きなので、結構時間をかけてつくっています。うちは少年誌みたいにアンケートの結果で後ろにすることはないですよ(笑)。
鈴木 その号で注目して欲しい作品を巻頭にしますけど、単純に人気順にするわけではありません。あと、僕の中にある1つのルールは、単行本が出る作品は発売前後月の号で前の方に持ってきます。それは作品と作家さんを雑誌として盛り上げたいという編集部の意思表示なんです。だから僕の作る編成表には単行本の発売日が書いてあります。
岩間 なるほど! 僕は台割を決めるのにわりと時間をかけるとお話しましたが、ある雑誌の編集長は仕事が10割あったら1割くらいという人もいたので全然やり方が違うみたいです。
――ちなみに一度決めた台割を変更することはありますか?
鈴木 校了前に担当に進行を確認していじることもあります。うちは口絵がつくところは製本の関係で校了が1日はやい、とか色々オトナの事情があったりするんです(笑)。
――今「Kiss」「ハツキス」「BE・LOVE」「ITAN」では4誌合同で《オトナ少女漫画大賞》という新人賞を開催していますが、オトナ向け少女漫画は少女が読む少女漫画と何が違うのですか?
鈴木 ピュアさだと僕は思います。記憶は美化されていくものだし、やっぱり美しいものが青春であって欲しいと大人は心のどこかで思っています。こんな青春を送れたら良かった、みたいな追体験を大人は少女漫画に望んでいるのではないでしょうか。ですから、少女向けの少女漫画以上にピュアさが求められているのではないかと感じています。
岩間 本当にそうですね。実は『ちはやふる』の連載が始まる時、高校生の部活モノって「BE・LOVE」でどうなのだろうという意見があったんです。でも帰宅部タイプで部活の良い思い出がない僕でも「こんな部活に入っていたら俺人生変わったのに」って追体験をしまくっています(笑)。あとオトナ少女漫画にはときめきも必要だと思います。恋愛、感動、育児、何でもいいけれど、何か一つのことに打ち込んでがんばってキラキラしている、つまり今をときめいている主人公にときめくのが、大人が読む少女漫画の醍醐味なのではと。
鈴木 やっぱり話がどう転がっていくかは主人公が重要ですよね。キャラによって転がり方は違うので、キャラが弱くてストーリーの都合でキャラが動いちゃうと漫画ってつまらないもんね! そんなキラキラとした物語を自分で引っ張っていく主人公を読みたいです!
(松澤夏織)
両氏が編集長をつとめる雑誌の発売は以下のとおり。
「Kiss」毎月25日(最新号)
「ハツキス」偶数月13日(最新号)
「BE・LOVE」毎月1・15日(最新号)
「ITAN」偶数月7日(最新号)
また、女性漫画4誌合同の《第1回講談社 オトナ少女漫画大賞》は1月12日(火)が締め切り(当日消印有効)。大賞受賞作品には雑誌の連載権と単行本発売が確約されている。詳しくはこちら。
この雑誌がライバル!
――ライバルだと思っている雑誌はありますか?
鈴木学編集長(以下鈴木) 「Kiss」は「Cocohana(ココハナ)」と「FEEL YOUNG(フィール・ヤング)」などですね。どちらも併売される方がいますし、作家さんが競合しているということが理由です。編集者の性で最初に次号予告を見るのですが、ライバル誌でうちが欲しかった作家さんの漫画が始まるとやられた〜となりますね。ですから、次号予告を見るときはドキドキです。
岩間秀和編集長(以下岩間) 「BE・LOVE」はライバル誌といわれると結構難しいですね。もともとの読者層は30〜50代の女性でしたが『ちはやふる』や『明治緋色綺譚』が始まってから親子、夫婦で読んでくれる方が増えました。だから全部ライバルです。というとすごく偉そうに聞こえてしまうのですが(苦笑)。
鈴木 好敵手というやつですよね。気になっている雑誌の漫画が面白いとくやしい気持ちもありますが、パイを奪い合うのではなくて、このオトナ女性向け漫画というジャンルが盛り上がっていけばいいなと思っています。好きな方は複数の雑誌を読んでくださっていますしね。
岩間 そうそう、共存していきたいですよね。だから対立軸で考えてはいません。僕はジャンル・刊行形態・発売日が同じだった集英社さんの「YOU」を、ずっと意識してきました。やはり同じ日に発売されて結果がどうだったかというのは気になることころでしたので。もちろん「YOU」が月刊になった今でも、ですが。
鈴木 刊行形態が変わると比較しにくくなりますよね。
岩間 そうですね。刊行形態によって雑誌は構成が根本的に変わってきますからね。「BE・LOVE」は1回あたりのページ数は少ないけれど、“次にひく”という連ドラみたいな感覚で読める漫画を意識して構成していますし、対して「Kiss」は月刊で1作品あたりのページがしっかりあるので読み応えを考えたつくりになっていると感じます。
――それ以外で最近注目している雑誌はありますか?
鈴木 「イブニング」が気になりますね。今予告を見るのが一番ドキドキする雑誌です。常に新しい人が入ってきているので、次は誰が載るんだろうって思っています。「イブニング」「モーニング」「アフタヌーン」「ヤングマガジン」(いずれも講談社刊)はすべて編集長が変わったので、どんどん誌面が変わっていくでしょうから楽しみですね。
岩間 僕は今「別冊マーガレット」の『町田くんの世界』がすごく好きです。普通、メガネで真面目というといけすかないキャラになりがちなんだけど、町田くんはとにかく何もできない。でも色んな人に迷惑をかけながらも周りを取り込んでいく魅力があってステキです。キャラがとても新しいんですよね。「別マ」の“学園恋愛モノ”というジャンルはテーマの縛りが強いという印象でしたが、その中で新しい可能性を次々生み出しているのは純粋にすごいと思います。その先鞭をつけたのが『俺物語!!』だと思います。
鈴木 そうですね。いわゆるイケメンな男性=カッコ良いという基準だけでなく、見た目が悪くてもハートが優しい人がカッコ良い!という新しい男性像はチラホラ出てたけど、『俺物語!!』にガツンとそれを持っていかれた気がします。ずるい…けど面白い…みたいな。
岩間 ちゃんと恋愛が成立しているのもすごいですよね。
鈴木 そう。猛男はほんっとうにカッコ良く見えますから。
岩間 あとやられた〜と思ったのは『コウノドリ』ですね。しっかり取材して掘り下げているし、臨場感と切実感にあふれています。「BE・LOVE」では子育てモノは定番ですが、出産モノはしばらくなかったんです。うちにあってもおかしくない題材だったので正直言えばくやしい!
鈴木 同じく出産モノで「ハツキス」の『透明なゆりかご』も話題になっています。リアルな本物を見たいというのが、今の空気なのかもしれませんね。僕の“やられた”は『ダンジョン飯』です。「ハツキス」は創刊して1年で、色んなジャンルの漫画が載っている雑誌を目指しています。だからあの漫画が「ハツキス」にあったら…と思いました。あれこそ初めてみる漫画だと驚きました。あと、僕は「BE・LOVE」で連載している『鏡の中で会いましょう』も好きですね。美少女とブサイクの友人同士が入れ替ってしまうのが面白いなと。今「Kiss」はリアルなお話が多くて、ファンタジー要素があるのは『涙雨とセレナーデ』くらいなので、こういう漫画らしい面白さっていいな〜と思いました。
岩間 ブサイクな女子のデザインがすごいですよね(笑)。
鈴木 そうそう。あと、ファンタジーという嘘が入れ替わりという1点だけで、あとはちゃんと地に足がついていてリアルなのがとても良いと感じました。
岩間 うちは『東京タラレバ娘』が欲しいです(笑)。僕はあまり会話劇が好きではないのですが、この漫画は会話を見ているだけで面白いので、東村さんの描くキャラのすごさを再確認しました。
鈴木 東村さんの担当編集からタイトル案を見せてもらった時は衝撃を受けました。『東京タラレバ娘』ってすごいタイトル! さすが東村さん!って。
編集長のお仕事
――編集長の仕事に、雑誌に掲載する作品を決める“編成”や雑誌の掲載順を考える“台割作成”というものがあると思います。どんなことを考えながら決めるのですか?
岩間 僕はCDアルバムをイメージします。「BE・LOVE」の読者さんはじっくり読んでくださる方が多いので、1冊の本としての読み心地を大切にして順番を決めます。巻末にしっかりとした作品を置いたりすることが多いですね。僕はこの作業が好きなので、結構時間をかけてつくっています。うちは少年誌みたいにアンケートの結果で後ろにすることはないですよ(笑)。
鈴木 その号で注目して欲しい作品を巻頭にしますけど、単純に人気順にするわけではありません。あと、僕の中にある1つのルールは、単行本が出る作品は発売前後月の号で前の方に持ってきます。それは作品と作家さんを雑誌として盛り上げたいという編集部の意思表示なんです。だから僕の作る編成表には単行本の発売日が書いてあります。
岩間 なるほど! 僕は台割を決めるのにわりと時間をかけるとお話しましたが、ある雑誌の編集長は仕事が10割あったら1割くらいという人もいたので全然やり方が違うみたいです。
――ちなみに一度決めた台割を変更することはありますか?
鈴木 校了前に担当に進行を確認していじることもあります。うちは口絵がつくところは製本の関係で校了が1日はやい、とか色々オトナの事情があったりするんです(笑)。
オトナに向けた少女漫画とは?
――今「Kiss」「ハツキス」「BE・LOVE」「ITAN」では4誌合同で《オトナ少女漫画大賞》という新人賞を開催していますが、オトナ向け少女漫画は少女が読む少女漫画と何が違うのですか?
鈴木 ピュアさだと僕は思います。記憶は美化されていくものだし、やっぱり美しいものが青春であって欲しいと大人は心のどこかで思っています。こんな青春を送れたら良かった、みたいな追体験を大人は少女漫画に望んでいるのではないでしょうか。ですから、少女向けの少女漫画以上にピュアさが求められているのではないかと感じています。
岩間 本当にそうですね。実は『ちはやふる』の連載が始まる時、高校生の部活モノって「BE・LOVE」でどうなのだろうという意見があったんです。でも帰宅部タイプで部活の良い思い出がない僕でも「こんな部活に入っていたら俺人生変わったのに」って追体験をしまくっています(笑)。あとオトナ少女漫画にはときめきも必要だと思います。恋愛、感動、育児、何でもいいけれど、何か一つのことに打ち込んでがんばってキラキラしている、つまり今をときめいている主人公にときめくのが、大人が読む少女漫画の醍醐味なのではと。
鈴木 やっぱり話がどう転がっていくかは主人公が重要ですよね。キャラによって転がり方は違うので、キャラが弱くてストーリーの都合でキャラが動いちゃうと漫画ってつまらないもんね! そんなキラキラとした物語を自分で引っ張っていく主人公を読みたいです!
(松澤夏織)
両氏が編集長をつとめる雑誌の発売は以下のとおり。
「Kiss」毎月25日(最新号)
「ハツキス」偶数月13日(最新号)
「BE・LOVE」毎月1・15日(最新号)
「ITAN」偶数月7日(最新号)
また、女性漫画4誌合同の《第1回講談社 オトナ少女漫画大賞》は1月12日(火)が締め切り(当日消印有効)。大賞受賞作品には雑誌の連載権と単行本発売が確約されている。詳しくはこちら。