桐生第一vs浦和学院

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浦学撃破のカギはインコース攻めと積極的打撃

先発・榊原翼(浦和学院)は3回限りで降板...

 地元・浦和学院の登場にほぼ満員となった埼玉県営大宮公園野球場。ここまで秋季大会16連勝中の浦和学院。埼玉県営大宮公園野球場は慣れ親しんでいる球場だけに、浦和学院にとって有利な条件が揃っていたが、不安材料を挙げるとすれば、これが初戦だということ。早く硬さから解れて自分のペースで試合を進めていきたいところであったが、桐生第一がその硬くなる浦和学院の隙を徹底的についてもぎ取った試合であった。

 桐生第一がテーマにしたことは先取点を取ること。そのために積極的に早いカウントから打ちに行った。「ただ凡退するよりも積極的に振っていった方が良いが、この子たちには合っていると思います」と福田治男監督が意図を話してくれた。

 2回表、先頭の4番鏑木風雅(1年)がいきなり中前安打を放つ、二死二塁となって7番小野柊人(2年)が死球で出塁し、二死一、二塁となって8番下間拓海(1年)が中前適時打を放ち、1点を先制。さらに9番齋藤馨(2年)が死球で出塁し、二死満塁となって1番追川恵太(2年)の一塁手の横を抜く安打で二者生還し、3対0とする。これで試合の流れを掴んだ桐生第一。4回表、二死一塁から1番追川が1ボールのファーストストライクを叩いて左中間を破る適時三塁打。さらに2番高田も初球を打って右前適時打を放ち5対0と大きくリードする。早めのカウントから積極的に打っていく打撃スタイルが奏功した形だ。4回裏に1点を取られたが、5回表にも7番小野の適時打で1点を追加し、浦和学院に流れを引寄せなかったのは大きかった。

 浦和学院の先発・榊原 翼(2年)は3回で降板。常時135キロ前後で、最速138キロを計測し、スライダー、カーブのキレもまずまずで、実力的には好投手と推せる投手だが、初球から打たれることでリズムに乗り切れず、死球を出すなど、投球の組み立てができなかった印象を受ける。リズムに乗り切る前に、初球攻撃。それができたのも、浦和学院のバッテリーの配球を読み切っていたから。非常に強かな攻めができていたといえるだろう。

好投を見せた内池翔(桐生第一)

  投げては内池 翔(かける・2年)が好投を見せる。 内池も、現時点の実力もなかなか素晴らしいものがあり、さらに将来的にも速球派左腕へ化けていくのではと思わせる投手だ。投球を見た瞬間、ある投手を思い出した。同校出身の藤岡 貴裕(千葉ロッテ)だ。

 内池はノーワインドアップから始動し、右足を高く上げていきながらもバランス良く立ち、そして右足を一塁方向へ伸ばしていきながら、体を深く沈み込んで、歩幅を広く取って踏み出してから、テイクバックをコンパクトにとって打者寄りでリリースをして、ぐっと右足に体重を乗せて勢いよく投げ込むフォームは藤岡とよく似ている。

 桐生第一で尊敬している先輩投手はいるの?と聞くと、「藤岡さんです!」と即答した内池。内池は藤岡のフォームと似ているといわれるようで、藤岡の腕の振りは参考にしているようだ。 内池は縦でしっかりと腕が振れるので、ボールに角度があり、常時130キロ前半(最速136キロ)でも球速表示以上と感じさせる球質だ。さらに曲りが鋭いスライダーのキレ、ブレーキが利いたカーブも素晴らしく、実力的には関東を代表する投手といっていいだろう。 この内池が磨いてきたのは、インコースのストレートだ。これまで外角中心にストレート、スライダーを投げていたが、痛打を浴びていた。これをきっかけにインコースのストレートを徹底的に磨きをかけた。どう磨きをかけたかというと、ブルペンでは打者を立たせて投げた。左投手が左打者のインコースへしっかりと投げるうえで大事なのは死球を恐れないこと。福田監督からも「当ててもいいから」と、とにかく腕を振った。そのたびに打席に立ったチームメイトに当てて、悪い、悪いと思いながらも勝つために大事なことだと自分に言い聞かせて投げてきた。

 浦和学院の打者で最も警戒していたのが3番サード・諏訪 賢吉(ただよし・2年)だ。俊足でバットコントロールも長けた諏訪を打ち取れるかがこの試合のカギだと考えていた。 一打席目は遊ゴロに打ち取り、二打席目も三ゴロに打ち取り、そして三打席目はインコースのストレートで見逃し三振に打ち取った。これが内池からすれば会心の投球であった。そしてインコースのストレートと合わせて磨いたのはインコースへのスライダーを投げること。ボール気味からストライクに入れる。いわゆる「フロントドア」というものである。これは中止となった昨日、投球練習で練習。即席で磨いてきたこのコンビネーションが浦和学院にはまった。

4番を打つ鏑木風雅(桐生第一)

 そして終盤以降はスライダーが狙われると勘付いた内池は緩いカーブからストライクを取っていった。むしろ6回以降の方がすいすいと打ち取ることができていて、6回は9球、7回は10球、8回は8球と球数少なく打ち取っていた。福田監督は、継投は頭を入れていたようだが、6回以降の投球を見て、最後まで投げさせることを決めた。そして9回裏は走者一人出したが、最後の打者を中飛に打ち取り、試合終了。相手4番の前田陽太(2年)の本塁打の1点にとどめて準決勝進出を決めた。

 試合後、福田治男監督は、「100パーセント以上の力を出せたのではないでしょうか」と選手たちの活躍ぶりに驚いている様子だった。 これで桐生第一は2013年秋にもスーパーシードの霞ヶ浦を破っており、まさにスーパーシードキラーぶりを発揮している。 内池を含め、この日、3安打を記録し、積極的な打撃スタイルと広角に打ち分けるバットコントロール、俊足ぶりが光る1番追川、3点先制の口火を切る中前安打を放ち、力みのないバランスの良い構え、インパクトまで無駄のないスイングが光る1年生4番鏑木と野手陣の能力も高い。 毎年、全国レベルのチームが現れる群馬県の底力を実感させた試合だった。

(文=河嶋 宗一)

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