文学フリマでのエキレビライターの収獲・その1。画像上左から『ネガ詩』『さまよえる幽霊船上の夜会』、画像下左から『《エクス・リブリス》全レビュー』『現代中国・台湾ミステリBeginnersガイドブック』『Merca』

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ゴールデンウィークまっただなかの5月4日、「第20回文学フリマ東京」が東京流通センターで開催された。なお、名称に「東京」とついたのは今回が初めて。これは昨年末に文学フリマ事務局が掲げた「文学フリマ百都市構想」にもとづくもので、文学フリマは東京だけで開催されるものではなくなったとの意味合いが込められている。事実、これに先立ち4月19日には「第1回文学フリマ金沢」が行なわれ、さらに9月20日には「第3回文学フリマ大阪」、10月25日には「第1回文学フリマ福岡」と今後も各地での開催が予定されている。

さて、当エキレビ!ではすっかり恒例となった、ライターが文学フリマで見つけた本を紹介するというこの企画。今回は青柳美帆子さんとともにお送りする。以下、紹介文ではそれぞれ冒頭に本のタイトルと、カッコ内に販売していたサークル名もしくは出店者名を示した。月村了衛の評論・二次創作サークルを出店した青柳さんだけに、そのセレクトも文学の本道を行くのに対し、私は毎度ながら雑多なセレクトとなった。こうした違いが生まれるあたり、文学フリマの懐の広さではないか。

■青柳美帆子のおすすめ本
「ネガ詩」(ナナオクプリーズ)
ブログが書籍化した(『もしも矢沢永吉が「桃太郎」を朗読したら』)星井七億さんのブースで頒布されていたもの。即興で「読むだけで落ち込む、人生が嫌になる」ネガティブな詩を色紙に書いてくれる。価格は投げ銭制。私が書いてもらった詩は「通り魔に路上でなぐられたけれどボジョレーヌーボーのビンだからちょっとめでたい」。
知り合いの女子大生2人が会うやいなや「ネガ詩」の色紙を見せてくれて、ネガティブな詩なのにすごくポジティブな表情をしていたのが印象深い。

「さまよえる幽霊船上の夜会」(エディション・プヒプヒ)
垂野創一郎さんによる海外幻想文学の翻訳サークル。内容はもちろんのこと装丁が毎回オシャレで、格の高いサブカル女子になれるような気持ちがして毎回購入しています(ミーハー)。今回の新刊はヘルツマノフスキー・オルランドの『さまよえる幽霊船上の夜会』。訳は途中までで、残りは次回のイベントで発行されるとのこと。

「《エクス・リブリス》全レビュー」(海外文学好き好きボーイズ)
サークル名、非常に趣がある。
文学フリマのSF・ミステリ評論界隈では、叢書や文学賞、「○○ベスト100」系の全レビューを発行するサークルが多い。そのためそろそろ「全レビュー」のチョイスも難しくなってきて、「何を全レビューするか」のセンスすら問われ始めている。白水社の叢書シリーズ《エクス・リブリス》はミーハーとしては「カッコイ〜!」という感じ。全然読んだことがないのだが(すみません……)、全レビュー本のおかげで読みたくなっている。全作読んだつもりになってしまうのが玉に瑕。

「現代中国台湾ミステリBeginnersガイドブック」(風狂殺人倶楽部)
中国や台湾のミステリ小説の案内&評論&翻訳をしている本。中国・台湾のミステリというとあまりなじみがない人が多いだろうが、島田荘司をはじめとする日本の本格ミステリに影響を受けた作家が増えてきているのだそう。巻頭の座談会では「中国のミステリには私立探偵が登場しない。なぜなら中国では私人の探偵行為が禁じられているから」などの指摘もあり、「異文化!」と興奮した。
Kindle版もあり。

「Merca β01」(アニメルカ)
『ひきだしにテラリウム』(九井諒子)&『ハイスコアガール』(押切蓮介)について語る座談会企画と、新人アニメ制作進行の匿名インタビュー企画。「押切にとって美少女と妖怪は同じものなのでは」などといった考察が飛び出す座談会も楽しいが、アニメ「SHIROBAKO」と比較しながらリアルの制作進行の話が綴られる企画も非常に面白い。箱は白いけどブラックなお仕事……。

■近藤正高のおすすめ本
『公園遊具』(フジオパンダ)
今回買った本のなかで私がもっとも心をわしづかみにされたのが、写真家の木藤富士夫さんによるこの写真集だ。これはタイトルどおり、公園にある遊具の写真を集めたもの。ようするにタコの滑り台とかあの類いだが、どこにでもありふれたものであるはずなのに、宵闇に浮かび上がるように撮影されているので、どこか非現実的な感じがする。実際、Vol.2(2014年12月刊)に出てくる中野区の公園の鳩をかたどった滑り台など、私が東京に住んでいた頃に散歩の途中でよく目にしたものだが、まるで印象が違う。また、こうして並べられると、公園遊具と一口に言っても、じつにバラエティに富んでいることに気づかされる。抽象あり具象ありとまるで現代美術のオブジェのようだ。Vol.1(2014年7月刊)に登場する北区の公園の2体のゾウの遊具は1体の鼻が欠けており、何かメッセージやコンセプトが込められているのかとすら思わせる。

木藤さんはこのほかにも、デパートなどの屋上遊園地を撮り続けた写真集をいくつか制作していて、これまたじつにいい。『おくじょう』と題する絵本風の写真集では、撮影地はいずれも異なるにもかかわらず、どの写真もある世代以上の人間には懐かしさを感じさせる。なかには打ち捨てられた遊具の写真もあったりと、日本から消えつつある屋上遊園地の貴重な記録ともいえる。

文学フリマで販売されているなかには木藤さんの本にかぎらず、あるテーマのもと各地をまわりながら見つけた事物をとりあげた本も多い。次の3冊もこの系統に入る。

『建築趣味』No.3(建築趣味)
建築研究者の磯達雄さんの個人誌。最新号では「建築スーベニア」と題して、日本各地の有名建築にちなんだ土産物やノベルティグッズを紹介している。表紙の写真は東京ビッグサイトをキャラ化したぜんまいオモチャだ。このように一目で建物をモチーフにしているとわかるグッズがあるかと思えば、石川県の七尾美術館で売られていた角皿のように、想像をめぐらせることで建物と関連づけられるものがあったりと、この世界の奥深さを感じさせる。

『芸事のありか』(CADISC)
花園神社の見世物小屋からミュージカル「テニスの王子様」、さらには沖縄でのスキューバダイビング体験まで、著者の村上巨樹さんがバンド活動をしながら各地をまわるなかで接してきたさまざまな“芸事”についてつづったもの。その切り口が何だか小沢昭一の放浪芸のフィールドワークに似てるなと思ったら、巻頭でちゃんと言及されていた。

『相模古社考察―相模延喜式内社一三座―』(AL-KAMAR)
神奈川県内にある13の延喜式内社をレポートした労作。そもそも延喜式内社とは何かという話に始まり、現地を訪れながら各社の歴史を紹介している。同時に、神話と現代のゲームとの共通点を考察したり、神主が霊能者だという話を聞きつけ実際にその神社へ占いしてもらいに出かけたりと、そのアプローチのしかたがユニークだ。

ところで、今回の文学フリマでは、エキレビ!でもおなじみの小沢高広さんやtk_zombieさんも参加するbnkrと、東京学芸大学の現代文化研究会と、2つのサークルがとんでもないアクシデントに遭遇した。何と、それぞれのサークルの人たちが業者から当日朝に会場へ届けられた新刊を確認したところ、お互いの本の表紙と中身がそっくり入れ違っていたのだ。結局、新刊は双方のブースにて2冊セットで販売することになり、かなり早い段階で完売したらしい。このようなミスはめったにあるものではないとはいえ、開催当日のトラブルに対する機転の利かせ方は、ほかの同人イベント出店者にもおおいに学ぶところがあると思う。

bnkrの新刊『bnkrR(ボンクララ)』vol.9では、分冊百科の代名詞「デアゴスティーニ」をテーマに各人が作品を寄せている。深川岳志さんの「週刊臨終。」と題する小説では、主人公が亡くなった著名人について毎週一人ずつ追悼特集号を出すという無茶な分冊百科の企画を持ちかけられるのだが、私は現実に似たような仕事をしているだけに何だか身につまされた。ほかにも比留間史乃さんの「ストリーエ・ディ・デアゴスティーニ」は、デアゴスティーニの歴史や商法を解説していて勉強になる。なお、この号の本来のバージョンは、電子版として販売されることになったとか。入手希望の方はこちらのサイトからどうぞ。

現代文化研究会の『F』も毎号ひとつのテーマで各人が論考などを寄稿している。新刊の2015年春号(通巻15号)の特集は「継承 ポスト戦後カルチャーのゆくえ」。そこでは戦後民主主義の継承を考えるため政治学者の丸山真男がとりあげられたり、あるいは宮崎駿やジャニー喜多川といった人たちの継承問題が取り沙汰されたりしている。ちなみに丸山真男論を書いた矢野利裕さんは、町田康論で群像新人文学賞・優秀作を受賞しているほか、ジャニーズを論じた『ジャニ研!』という共著もある新進気鋭の批評家だ。今回の論考では丸山真男を再読するきっかけとしてヒップホップをあげていたのが興味深い。これら新刊の内容は、次回の文学フリマ東京で発売する16号に第二特集として再録する予定とのこと。

冒頭に書いたとおり、文学フリマは今後も年内に大阪・福岡での開催を控えるほか、11月23日(月・祝)には「第21回文学フリマ東京」も今回と同じく東京流通センターでの開催が決まっている。「文学フリマ百都市構想」のさらなる展開として東北エリアでの開催も準備中だというので、随時公式サイトをチェックしたい。ここは私の地元・愛知でもぜひ……と思うのだが、やりたければ自分から動かなきゃだめなんでしょうね、やっぱり。
(近藤正高)