独創的なパワートレイン「シンメトリカルAWD」をバックに、富士重の技術力を力説する竹中恭二社長=19日、千葉市の幕張メッセで(撮影:吉川忠行)

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「スバルは世界の自動車業界でシェア1%の小さなメーカー。それだけに固有の特長を徹底して磨きあげて、個性的なブランドをもって、『車が好きだ』というみなさんの期待に応えていくことが使命」─。19日の東京モーターショーの記者発表で富士重工業(スバル)の竹中恭二社長は、頻繁に手をかざしながら、予定時間の大半を費やしてスバルが誇る技術力をアピールした。

 演壇の背後に吊り下げられたのは、1972年に誕生したスバル独自のパワートレイン「シンメトリカルAWD」。その核となるのが、約半世紀も採用し続けている水平対向エンジン(ボクサーエンジン)だ。一般的なエンジンでは直列やV型に置かれるピストンを、左右水平にセットすることでフラットな構造を実現。エンジン高が抑えられて低重心に、対抗して運動するピストンが互いの振動を打ち消して低振動になる。その軽量・小型エンジンと縦置きトランスミッション、車軸を車両重心付近に集中させ、左右対称(シンメトリカル)に配置することで、優れた前後左右の重心バランスを実現し、走行安定性を発揮する。

 そのシンメトリカルAWDに最大出力10キロワットの電動モーターを組み合わせたハイブリッド車として出品されたのが、コンセプトカー「B5-TPH」(全長4.465メートル、全幅1.82メートル、全高1.5メートル、定員4人)。水平対抗の2リットル4気筒ターボエンジンを搭載、AVCS(可変バルブタイミング機構)の作動範囲を変更し、吸気バルブのタイミングを遅らせること(ミラーサイクル)で、燃費向上を実現したという。竹中社長は「アクセルを踏みこむと、素早いレスポンスと伸びやかな加速感で、これにまでにない走行感覚が得られる」と走行性にも太鼓判を押した。車体も2ドアクーペでありながら、ワゴン車並みの広い荷室を確保。トランクの扉は「クラムシェル・リヤゲート」と、貝殻のように屋根の途中から開く構造になっている。

 「B5-TPH」に搭載された大容量マンガン系リチウムイオン(NLE)電池は、02年にNECと設立した共同出資会社「NECラミリオンエナジー」で開発したもの。05年8月には、同じNLEを搭載した小型試作車「R1e」を公開し、5分間充電で120キロメートルの航続距離、優れた冷却性能、長寿命や低コストなど、トヨタが採用するニッケル水素蓄電池をしのぐ利点を強調した。ガソリンエンジンと電動モーターを組み合わせたハイブリッドシステムについて、竹中社長は、モーター、とりわけバッテリーの進化に注目する立場から「自動車屋の視点で新しい電池の開発に取り組みたい」と力説した。

 同社は、カネボウとも02年、航続距離の長さと瞬発力が特長のリチウムを用いた「キャパシタ」(蓄電装置)の共同研究を開始。カネボウ再建の一環で、05年に入ってからその設備、技術、技術者を譲り受けた。05年9月2日には、東京電力との「R1e」ベース業務用車の共同開発を発表し、1日で80キロメートルを走れる試作車を1年後までに製作するとしている。社長から「スバルは電気メーカーになろうとしているわけではない」との冗談が飛び出すほど、次世代バッテリーへ熱い視線を送り続けている。

 富士重工は10月5日、経営不振の米ゼネラル・モーターズとの提携を解消し、新たに筆頭株主となるトヨタ自動車の傘下に入ると電撃的に発表した。会見した両社は互いの独立性を強調、竹中社長は「スバルを通じて国際的なニーズに商品を提供してきたが、トヨタグループの中でそういった特徴をさらに磨き、強化していきたい」と語った。相手のトヨタは提携発表と同じ日、松下グループとの共同出資でニッケル水素蓄電池を製造する「パナソニックEVエナジー」への増資を発表、出資比率を40%から60%にし、ハイブリッド車開発を加速させる動きを見せた。トヨタ・富士重両社は、提携内容について「協議中」としているが、ハイブリッド車への切り替えを先導するトヨタが相手だけに、富士重が持つ電池やエンジンなどの独創的な技術の活用が焦点になるとみられる。

 今回のスバルのテーマは『Think. Feel. Drive. ─ クロスオーバー発想で、新しい価値の創造を。』。流行に惑わされず、哲学や技術に基づいたクルマづくりの姿勢を表現したという。コンセプトカー1車種と、市販乗用車6車種を出品。北米で夏から販売開始された上級SUV(スポーツ多目的車)「B9 TRIBECA(トライベッカ)」(全長4.822メートル、全幅1.878メートル、全高1.686メートル、定員7人)も参考出品として並べられた。

 この連載では、モータショー見物は小学校以来という、間もなく入社1年を迎える新人記者が、出展する国内主要メーカーごとに、社長一押しのコンセプトカーを紹介しました。(全7回)【了】

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