豊田は、自分でシュートを打てそうな場面でも、味方を生かすプレーを選択した。「勝ち点3を取りにいった。本当にチームメイトを信頼してしたので、そういったプレーになったんじゃないかと思います」 (撮影:岸本勉/PICSPORT)
【森雅史の視点 / 代表デビュー戦のストライカーは、強引に自分を演出することより2アシストを選んだ。そのことが豊田陽平の評価を高めたことだろう】

普段、豊田陽平は記者に囲まれたとき、あまり質問者の目を見ない。ぐっと気持ちを押し殺したような受け答えをし、一通り答えた後に去って行く。

そんな豊田の日本代表デビュー戦は、剛胆であり繊細だった。

体格のいいオーストラリアの選手に挑まれても空中戦では負けない。ぶつかり合って相手が転んでも、豊田は少しバランスを崩すだけ。オーストラリアに対して、筋肉量の差はなかったのである。

一方で、2アシストを決めた。縦パスを落として味方を生かした。強引に行けば自らゴールを狙えるかもしれない場面で、豊田はあえてオトリになることを選択した。

さらに、タイムアップまで前線でプレスをかけ続けた。1人で2、3人を追い回し、味方にカットさせていたのだ。

試合後、ミックスゾーンに現れた豊田は、最初あまり感情を見せなかった。どちらかと言えば悔しいという表情がにじみ出ていた。

「結果的にはゴールという形を出せなかったので、悔しいデビュー戦になりましたけど、でも、勝ち点3が欲しかったゲームなので、それに少しでも力になれたと思うと、次につなげたいなという思いもあります」

「次こそはチャンスで仕留める。少ないチャンスでも決めるのは、鳥栖でやっていることでもあるし、そこを自分自身、次の試合までに高めていきたいと思います」

だが、自分でシュートを打てそうな場面で味方を生かしたことを聞かれると、珍しく表情が和らぎ始めた。

「自分のためにチームがあるんじゃなく、チームの中の自分、チームあっての自分。そこは鳥栖で学んでいますし、チームが勝ち点3を取りにいったので、本当にチームメイトを信頼したので、そういったプレーになったんじゃないかと思います」

鳥栖ではもっとアーリークロスが豊田めがけて何本も飛ぶ。そのパスをゴールに結び続けているのだが、この日は豊田の好きなボールは飛んでこなかった。それでも黙々と自分の役割をこなし続け、チームの役に立とうという姿勢は、豊田も意識していたことだったのだろう。だから、自分の思いが見えたのだと思って表情が和らいだのではないだろうか。

今回のメンバー発表会見で、ザッケローニ監督は豊田について言及し、「豊田は所属しているチームでは良くやっている。チームではエースだから豊田にボールを集めている」と語っていた。この言葉の裏の意味を考えると、自分にボールが集まらないとき、豊田がどう行動するのかを監督は知りたかったはずだ。豊田は素晴らしい答えを出したに違いない。

ボールの引き出し方は前田遼一ほど多くない。背の高さではハーフナー・マイクには叶わない。ボレーは李忠成ほどうまくないし、佐藤寿人のようなスピードもない。だが、迫力という点では、デビュー戦であるにもかかわらず豊田は他の誰にも引けを取らなかった。

遅咲きの新人は、自信も持っている。

「(空中戦は)自分の間合いだったり、自分のタイミングで飛べたときは十分やれたので、ハイボールに関しては自信になりました」

「(監督は)チームのコンセプトを理解したかと各選手に聞いていたので、僕は『大丈夫です。やるべきことはミーティングでもやっていますし、大丈夫です』と答えました」

こう語ると、豊田は最後に笑顔も見せながらバスに向かって堂々と歩を進めていった。


■東アジア杯/第2戦/2013年7月25日
日本 3−2 オーストラリア
(会場:韓国・華城競技場)